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013,収納大袋



 糸目の商人が引き上げていくのに合わせて、食堂の入り口に直立不動で立っていた男ふたりも一緒に出ていく。

 腰には長剣をそれぞれ吊るし、複数のナイフを革鎧などの防具に隠しているあたり彼らが糸目の商人の護衛なのだろうね。

 ただ、やっぱり魔力反応がある武器や防具が確認できないあたりボクにとってはどうでもいいレベルだ。


 糸目の商人たちが去っていった食堂の入り口に眺めていると、ミネルバが隣に座ってくる。


「ごめんなさい、ソラさん。まさかこんなに早く動いてくるとは思わなくて。私が交渉に入ったことは、昨日の段階であなたに目をつけたやつらは知っているはずなのに。まったく油断も隙もあったもんじゃないわね」


 ミネルバが申し訳なさそうに謝ってくるが、彼女が悪いわけではないだろうし反応に困る。


「でも、これで契約書が便利な理由がわかったでしょ? これを見せればすでに契約済みということで、しつこく勧誘してくることはなくなるはずよ。もしそれでもしつこくしてきたら私に教えて。法的に対処できるわ」

「わかった」


 実際に、糸目の商人を契約書一枚で追い払っているところをみると、その便利さは理解できる。

 でも世の中にはそういったものを平気で無視する輩というのは、やはりいるようだ。

 そしてそういった輩の対処法は、ミネルバもしっかりと心得ているらしい。

 ならば、余計な面倒事を起こさないように、自分で対処せず逃げてミネルバに報告する方向でいこう。

 無論、目に余ればボクの糸が火を噴くけどね!


「契約書の使い方もわかっただろうし、これをソラさんに渡しておくわ。本当は契約書を交わしたときに渡しておくべきだったんだけど、契約書の使い方は実践したほうが早いかなぁって思って。ごめんね」

「バッジ」

「そう。これは商会の一員となったものがつけるものなの。どの商会の人間かすぐわかるようにするためのものよ。ソラさんは貴重なボックス持ちだし、余計なちょっかいをかけられないためにつけておいてほしいの。契約書もあるけど、いちいちみせるのも面倒だからね。これならひと目で契約済みってわかるもの」


 ミネルバのいうとおり、いちいち交渉してくる相手に契約書をみせるのも面倒だ。

 バッジが同じ効果を果たしてくれるなら楽だろう。

 冒険者ギルドを通して依頼をするとはいっても、ボクたちはもう商売仲間なのだからこのバッジをつけていても問題ない。


「じゃあ、つけてあげるわね。このマントの上でいい?」

「ん」


 ボクが着ているフード付きマントは、前までしっかりと隠せる大きなものだ。

 今も下に着ている服を完全に隠しているので、見せる目的でつけるバッジはこちらにつけたほうがいい。


「……あれ? ん、んー……ええー……。全然針が通らない……」


 つけてくれるというので素直に応じてしまったが、よく考えればこのフード付きマントはムーンシーカー島で作られた特注品。

 当然その性能は一級品であり、ただの銅製のバッジの針ごときが通るものではない。

 でもみためはただの布にしかみえないため、一生懸命に針を通そうとしているミネルバは困惑するばかりだ。


「貸して」

「あ、うん。ええ!? さっきは全然刺せなかったのに……」

「気にしない」


 ミネルバからバッジを受け取ると、透明にした魔糸で事前にマントに針が通る程度の細い穴を開けてさくっとつけてみた。

 その様子に目を見開いて、耳と尻尾をぴーんと立たせて驚いているミネルバはちょっと可愛い。


「冒険者ギルド」

「あ、うん。そうね、行きましょうか。……えーでもそのマント、どんな魔獣の素材を使ってるの?」


 興味深そうにマントをみているミネルバを促して、冒険者ギルドに向かうべく食堂を出る。

 マントの素材を知りたそうにしているけど、残念ながらボクも詳しくは知らないので答えようがない。


「秘密」

「うー」


 なので、適当に濁してスタスタと歩いていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これが収納大袋よ。基本的にはこれに合わせた木箱に運搬するものをいれる形になるわね。木箱は私が用意しておくから気にしないでいいわ」


 冒険者ギルドの受付でミネルバが購入してきた袋は、ボクが簡単に入れそうなほど大きなものだった。

 確かにこれなら一立方メートルくらいの量なら入りそうだ。


 掲示板が設置してある壁とは反対には、小さな売店があるが、どうやらそこではこの収納大袋は購入できないらしい。

 ボックス持ちは貴重なため、いつ現れても対応できるように、どこのギルドでもいくつか常備されているはいるそうだが、一般販売はしていないそうだ。

 昔、ボックス持ちと自称する輩が大掛かりな詐欺を働いたらしく、ここストルトム王国では、ギルド以外で収納大袋を扱うのを全面的に禁止した結果らしい。

 そう教えてくれたミネルバが、収納大袋に焼き付けられているストルトム王国の印を見せてくれた。

 この印がない収納大袋はすべて偽物だし、偽造するのは大罪になる。

 ストルトム王国では、ボックス持ちは収納大袋を使うのを推奨し、こうして詐欺を防いでいるそうだ。


 ほかにも抜け道なんていっぱいありそうだけど、国を挙げて対策を講じているというのは安心感が違う。

 ストルトム王国、なかなかいい国なんじゃない?


「それじゃあ、ここからは別行動ね。くれぐれも気をつけてね。また夕方に会いましょう」

「ん。また」


 冒険者ギルドをでると、ここでミネルバとは別行動だ。

 収納大袋に関しては、木箱を袋にいれてからものを入れるのでミネルバに預けておく。

 冒険者ギルドで収納大袋を購入するときに、ボクと交わした契約書をみせているので、ボックス持ちではないミネルバでも問題なく扱えるのだそうだ。


 ミネルバと別れたあとは、適当に通りを見て歩く。

 昨日は、お金がなかったから買えなかった露店の食事なんかも、今は買える。

 湖面に映る朝日亭で出てきた食事は正直微妙だったので、もうちょっとマシなものが食べたい気分だ。

 すでに朝食で食べた分は魔力に還元し終わっているので、今食べても問題ない。

 ただ、ミネルバの言葉通りに、朝の露店は昨日に比べて少ない。

 売っているものも、あまり心惹かれるものがないのが寂しい。


 のんびり通りをあるき続けていると、どんどん人通りが少なっていく。

 最終的には建物もなくなり、カーブしている石壁を越えると聖竜湖がみえるようになってきた。

 このあたりは聖竜湖から吹く風が石壁に遮られず、結構風が強い。

 海風のような塩害はなさそうだけど、あまり住みやすい環境ではないだろう。

 だからこそ、風よけにもなっている石壁が途切れた時点で建物がなくなっているのだろう。


 ちょうどいいので、ここから聖竜とやらを捉えれるか試してみることにする。


 魔導技能『周辺探知』の最大探知距離は最大で十キロメートル。

 でも、昨日聖竜湖の上から試した限りでは大したことのない魔獣の反応しかなかった。

 しかし、魔導技能というのは使い手の熟練度によって色々と応用が効く。


 たとえば、周辺探知の場合は、通常は全方位の魔力反応を拾うが、これを一方向に絞って使うと、探知可能な最大距離を伸ばすことができるようになる。

 探知できる魔力反応の種類を絞ればさらに距離を伸ばしたりもできるので、最大効率で魔導技能を扱えるボクなら、頑張れば距離だけなら十倍はいけるのだ。


 今回は聖竜という未知の存在を探知するために行うので、魔力反応の種類は絞らず、探知方向を指定して距離を稼ごうと思う。

 それでだめだったら少しずつ種類を絞って距離を伸ばしていこう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「むぅ」


 一方向に絞った周辺探知には、大した事ない魔獣の反応しか引っかからなかった。

 そこから少しずつ魔力反応を絞って距離を伸ばしていったが、結果は収穫なしだった。


 魔力反応の種類は、量や特定のパターンなど、様々な分類法があり、たとえば人間なら一定のパターンから外れることがない。

 人間を除外するならこのパターンを外せばいい。

 聖竜湖には漁に出ている人間もそれなりにいたので、まず最初に人間の魔力パターンを除外している。

 聖竜というくらいなのだから、人間の魔力パターンではないだろう。

 もし、人間の魔力パターンと同じものだったとしても、ミネルバが教えてくれた強い魔獣を遠ざけるような加護を施せるほどのものなら魔力量で引っかかる。


 魔導技能には魔獣避けのものもあるが、強い魔獣を遠ざけるほどのものとなるとかなりの魔力を消費しなければ不可能だ。

 無論、特定の魔獣が嫌がる音波や魔力波、匂いなどを出す場合はその限りではない。

 だが、それでは様々な強い魔獣を遠ざけることはできない。


 しかし、結局のところ、絞れる魔力反応は手当たり次第絞っても聖竜と思しき反応を捉えることはできなかった。

 まあ、除外してしまったような特定の魔力反応でしか探知できない場合だったらどうしようもないのだけど。

 反応からして湖すべてを探知できたわけではないから、まだ探知する余地はあるが、これ以上は場所を変える必要がある。


 念入りに探知していたので、時間ももうお昼を少し過ぎている。

 続きはお昼を食べてからにしよう。

 そろそろ露店も朝より増えているだろうし、お昼時なのだから飲食店も開店しているだろう。


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