聖剣より良い鉄の剣
「で、嬢ちゃんはどこに泊まってんだ?場合によっては宿を移さんとならんだろ。」
「裏道にある一番安い宿ですわ。」
「おい!何てとこ泊まってんだ!よく、何もなく無事に過ごせたな!」
話を聞くと、あの宿に泊まるのは、訳有りの冒険者や犯罪者が利用してる宿のようで、まず、女の子が1人で泊まったら、慰み物にされるのが当たり前だそうです。
「まあ、特に何も有りませんでしたわよ?毛布は臭いましたが。」
「運が良くて良かったな。ほんとに。それと、その臭いはなんの臭いか知らない方が良い。忘れろ。」
気にはなりますが、忘れましょう。2度と使うことは無いでしょう。
「で、なんでそんな宿にしたんだ。他にもあっただろう。」
「何故と言われると、お金が無かったからとしか言いようがありませんわ。」
「あ?それなら、ギルドで借りることも出来たろ?」
そうなのですか?それならもっと良いところに致しましたのに。私の苦労は一体...
結局、今の宿は、「さっさと引き払え!」と言われ、即行で引き払いました。代わりの宿として、アルベルトさんが泊まっている、『銀狐』という高級宿に泊まることになりました。宿代はアルベルトさんがしばらく貸してくれるそうで、「クラフト魔法使えんなら、すぐ返せんだろ?」との事です。
と言うことで、1人部屋をゲットし、フカフカの清潔なベッドで寝ることも出来るようになりました!
「さて、まず、お嬢ちゃんのランクだが...」
「ミストです。」
「...ミストのランクだが、今の実力ならもっと上のランクの依頼でも問題無い筈だ。具体的にはCランクだな。」
「そうなのですか?では、効率的にランクを上げるにはどうすれば良いでしょうか?」
「まあ、最も手っ取り早いのは、貴族が依頼している依頼を受けて達成するのが、早いな。特に、珍獣を剥製にしたいから、捕獲してほしいとか、ミストみたいなクラフト持ちが作る物を買いたいとかそんな感じだな。」
では、私は、材料さえあれば、結構、何でも出来るんですね。クラフティングテーブルもギルドに置かれてますし、値段も金貨1枚なので、貯めれば買えないことの無い値段です。
「では、物作り系の依頼を受ければ良いんですね。」
「まあ、そうなんだが、貴族が相手の場合、自陣営に引き込もうと鬱陶しいことこの上無い。」
クラフト魔法が使える人間は、貴族からすると、喉から手が出るほど欲しい金のなる木だそうで、私が作った毛布ですら、結構な値段になるそうです。初耳です。
「大丈夫ですわ。貴族のとりなしかたは分かっていますので。」
「そうか。まあ、なら良いか。じゃ、取り合えず、ミストがどれくらい出来るか俺が確かめてやる。ほら、このクラフティングテーブル使え。」
部屋にあったアルベルトさんのクラフティングテーブルを借り、取り合えず、クラフト魔法の中で比較的難しく、技術の問われる鉄の剣を作ることになりました。
勿論、鍛冶屋でドワーフの一流の職人が作ったものの方が質は良いのですが、クラフト魔法で作る剣は、少なくとも普通の職人が作るよりは質の良い物になります。技術の高い人なら、聖剣にも匹敵する物を作ることも出来るそうです。
「材料はこれで良いか。」
アルベルトさんが、クラフティングテーブルに鉄のインゴットを2つと木の棒を置く。
そして、それを私が鉄のインゴットを縦に並べて、木の棒を一番下に置くと、光を放ち、鉄の剣が現れる。それをアルベルトさんが手に取り、出来を見る。
「あ~また、揉める元になりそうだな。」
「何でですか?」
「聖剣も驚きの仕上がりだわ。」
あら、聖剣よりも良いなんてあり得ませんわ。聖剣と言うと、物理的にも魔法的にも攻撃の通らない悪魔を、一刀両断し、存在そのものまで消し去ると言いますし、聖剣に斬れないものは無いとも聞きます。そんな剣より質が良いなんて...
「俺も意味がわからなさすぎて、驚くことも忘れてしまったが、これは本当に聖剣を越えると言っても過言じゃない。もし、これがミスリルやオリハルコンなんか使ってたらと思うと恐ろしいな。どんな剣が出来ることやら。」
「と言うことは、その剣は、簡単に売ることが出来ませんね。」
「当たり前だ!こんなの売りに出したら、値段が付かんわ!それに、絶対、教会の奴等が奪いに来るぞ。」
「では、アンクラフトして解体する方が良さそうですね。」
「全くだ。何てもの作りやがんだ。兎に角、物作り系の依頼は、完成品を納入する前に、俺に見せろ。じゃないと、何を作るかわからな。」
酷い言われようですが、鉄の剣でこれですから、否定できないところが悲しいところですね。取り合えず、お金の問題も解決しそうなので、良しとします。