断罪と旅立ち
「ミストリア・ファーランド・ボル...長い!ミストリア!お前を退学処分とし、婚約も解消する!アリスにしてきた数々の嫌がらせ、知らないとは言わせないぞ!」
フェルモンド連合王国の王都にある王立学園の中庭で、ミストリアと呼ばれる令嬢と、全校生徒が対峙していた。断罪するのは、フェルモンド連合王国の王太子で、王太子の腕にはアリスと呼ばれた少女が涙目で抱きついていた。
「...分かりましたわ。直ぐにでも出ていきましょう。では、これにて。」
表情も変えずにそう言い残すと、「何も後ろめたい事は無い。」と言った毅然とした足取りで、学園の中庭を後にした。
この態度に、王太子は何やら「アリスに謝れ!」「過ちを認めろ!悪女め!」と騒いでいるが、実は、今回の出来事、全て王太子の腕に抱きつき、涙を浮かべている、アリスと呼ばれた少女が起こした事で、王太子の婚約者であるミストリアを追い落とし、自分が後釜に収まり、乗っ取ると言う策略の元、行われたのである。
そして、その策略は成功し、生徒全員対ミストリアと言う構図が出来上がり、ミストリアを王太子の婚約者の座から、追い落とすことに成功したのである。
そして、当のミストリアだが、正直、王太子との婚約は、政略的な理由で行われたものであった為、特に感慨も何も無かった。
この婚約破棄で困るのは、王家だけなのだ。
何故かと言うと、まず、フェルモンド連合王国は、元々、3つの国がくっつき出来た国で、現在の王国政府は、3つの国の中では2番目に大きな国だったのだが、1番大きな国が臣下になると譲ったため、転がり込んできただけなのだ。そして、その1番大きな国の元王家が、今のボルシュタイン家で、今回の婚約は、最近、助長し始めた3番目の国の元王家や、貴族達の派閥を、現王家派とボルシュタイン家派が婚約することで抑え込み、王家の威光を強めることが目的だった。
その為、この婚約が破棄されて困るのは、王家だけなのだ。
そして、ミストリアは家に事の次第を伝えるために、学園を出たところで、急に大量の情報が頭に流れ込み、倒れかける。
「え...なんですの.....あれ?これって...そんな.....」
自分が転生者であること、この世界が前世でプレイしていた『フリークラフト~私だけのレシピ~』と言うマイナーな、某人気クラフトゲームを元にして、学園が舞台の三流ゲームの世界で、自分がそのゲームの悪役令嬢で、全てが終わり詰んでしまった状況であることを理解した。
「そんなのって...私、何にもしてないのに.....」
これから迎える結末を受けいられなくて、道の端でうずくまり、しばらくの間、泣いていた。
「これからどうしましょう...」
このまま実家に帰っても、家は没落して、選択肢は大人しく投獄されるか、自ら命を絶つかの二択だけ。そんな結末は絶対に嫌!
なら、私は国を出て、冒険者にでもなって、新たな人生を歩みます!
取り合えず、国を出るならお金が必要です。それと、動きやすい服も必要ですね。賊に襲われても大丈夫なように武器もいりますね!
その後、両親に別れの手紙を書き、配達を依頼し、商業ギルドが行っている預金サービスに預けていた、少ないお小遣いを全額引き出し、手持ちの不要な装飾品や高価な旅に向かない服を売り、旅に必要な物を買う。
武器は古道具屋で、比較的得意な片手剣と弓矢を買い、準備が完了し、遂に王都を旅立った。
「さようなら。私は旅に出ますわ!」