5話
あの事件の後、本気で自分磨きの旅へ出る為の準備をしてました。もう、あんな悲しいことは二度とごめんだ。実行は、『適正職業おろし』の後...つまり、今日。この二年間、そのための準備期間だった。取り敢えず、最初に始めたことは“知識”を溜めることだった。取り押さえされているウチに夜な夜な忍び込み、祖母の残した本を運んだ。お掛けで、エリックに借りてる部屋の2/3が本で埋まってしまったのはご愛敬だ。
...昔住んでいた家に忍び込むという表現はなんとも変な気持ちだが、無事に運び終えた。
全て読み終えるのに、大変時間がかかってしまったため、皆から、引きこもりだなんだ言われていたが、気にするようなことではない。...きっと。
そんなこんなで遂に準備万端だ!あとは、教会で強い適正職業をおろしてもらうだけだ!(余り期待していない)
旅に出ることは、義父さんと義母さんからは許可が出ているため、特に気負うことはない。...このことを話したら義父さんに同情の目でみられ、以後、僕に...俺に対する扱いが少し優しくなった。余り嬉しくない。
15歳になったらこの街、アイルギアの子供は、強制的に学園に入学させられる。なので、それまでには帰って来なくてはならない。制限時間は、三年間。たっぷりと時間はある。俺なりに、のんびりやっていこうと思う。因みに、一人称を変えたのは、そっちのほうが男らしく見える気がしたからだ。特に意味はない。
「ちょっと!アオト!早くしなさいよ!」
「はーい。...って、師匠もいたんですか」
「“元”師匠でしょっ!今は、エリックだけの師匠よ!」
...細けぇな。本当にこの人は...いや、何を言っても仕方がないか...
「はいはい。じゃー、初代も来るんですか」
「とーぜんよ!なんたって、エリックとルルとサラの晴れ舞台じゃない!」
「初代、一応僕の晴れ舞台でもありますよ」
そんな悲しいやり取りをしつつ、やっと下に降りる。俺は、その後直接旅に出る予定なので、ちょっとした荷物を持っている。結構邪魔だ。
「あらー?そんな荷物持ってどうしたのよー?」
「あぁ、ちょっとね」
以外にも最初に反応してくれたのはルルだった。丁度全員集まっているので、旅のことについて発表しようと思う。
「皆、おはよう。少し、大事な話があるんだけど。ちょっと聞いてくれないか?」
「それはぁ、今言わなくちゃダメなのぉ?はやくぅ、教会に行きたいのだけれどぉ」
「あぁ、今言わなくちゃダメだ」
「まだ時間もあることだし、話ちゃいなよ。」
流石エリックだ。話が分かる。もしかしたらもう、この時点である程度悟っているのかも知れない。さて、覚悟決めて言うとしますか。
「俺は『適正職業おろし』が終わったら、三年間ぐらい旅に出る。それを伝えたくてね」
美少女二人+美女の顔が、急に明るくなった。そこ!そんなに嬉しがらない!...まぁ、これが今現在の俺の扱いだ。お前らっ!三年後覚えておけよ!
「...どうやら本気のようだね。しかし、本当に大丈夫なのか?アオト一人だけじゃ心配なんだけど...」
エリック...心配してくれるのか。でも、俺は引き下がらない。なんせ、自分が決めたことだからな。
「エリック、俺がなんのために引きこもって、本ばっかり読んでいたか分からないか?自慢じゃないが、この世界のことはだいたい分かっているつもりだぞ?」
本当にウチのばあちゃん何者だったんだよ...
本は全て手書きであった為、経年劣化のせいで少し読みにくかったが、全てばあちゃんが書いたらしい。なんか最後の方とか、魔物の解体にハマってたらしくて、この世界の最強種の一柱であるドラゴン族の臓器やらなんやらが、びっしり書いてあったりする本が、三冊位書いてあった。正直、引いた。
「知ってることと、出来ることは違うだろう?」
「何にたいしても対処出来るように、俺は五歳の頃から剣術やら体術やらを習っていたと思うんだがな」
「...はぁ、本当になんとか出来そうだから質が悪い。本当にどうなっても知らないからな?」
「あぁ、承知の上だ」
よし!これで最後の難関、エリックの説得をクリアしたっ!心置きなく旅に出られる!
でもまぁ、その前に、
「教会行きますか」
△▼△▼△▼
「はぁ~い!次の人~!どんどん来てね~!」
「よっしゃ!『騎士』だっ!」
教会の中は、まさに混沌だった。カオスだった。適正職業をおろすためにシスターが人を呼ぶ、大声。自らの適正職業を喜ぶ、大声。もぅ、うるさいのなんの。二回位帰ろうかな、と迷った位だ。ただ、もう少しで順番が来るため大人しく待っているのだが...
「あぁ~、楽しみだねー!」
「そおねぇ~、楽しみねぇ~!」
「おっ、おい。そんなにくっつくなよ。周りからの、視線が凄いんだから」
「ふふっ、三人は大丈夫だよ!なんせこの、アイーシャ流、初代マスターのアイーシャ様の弟子なんだからねっ!」
凄いね。初代はこんなところでさえ、俺を貶してくるんだもん。実は一周回って俺のこと好きなんじゃないの?
前に並んでる四人のせいで、さっきまでの緊張感は木っ端微塵になった。緊張感、いいやつだったよ。
おっと、次はエリックの番じゃないか。さぁーて、どんなステータスかなぁ~。
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名前:エリック
年齢:12 レベル:1
適正職業:勇者
固有能力:勇者、限界突破、絶対勝者、聖剣召喚
聖魔法
称号:選ばれし者、ハーレム王
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「「ぶふっ!」」
適正職業を下ろしていたシスターと俺が同時に吹き出す。そして、一気に静まり返る教会。続いて、サラのステータス。
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名前:サラ
年齢:12 レベル:1
適正職業:聖女
固有能力:聖なる癒し、パーフェクトヒール
強固なる絆、聖魔法
称号:選ばれし者、癒す者、ハーレム会員No.1
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トドメにルル。
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名前:ルル
年齢:12 レベル:1
適正職業:聖騎士
固有能力:聖なる盾、絶対防御、結界、聖魔法
称号:選ばれし者、護る者、ハーレム会員No.2
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「あわわわわっ!」
シスター!落ち着いて!...といっても俺とてそんなに冷静ではない。なんたって、この3つの職業は...
「100年前の勇者様達が帰ってきた...」
それは、誰かの小さな呟き程度のものだった。しかし、この静かな教会に響くには充分過ぎた。
『勇者!勇者!勇者!』
あっという間に、教会は勇者コールに包まれる。教会が騒がしい中、俺も適正職業おろしをひっそりと行っていた。
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名前:アオト
年齢:12 レベル:13
適正職業:孤独者
固有能力:孤独者、鑑定、魔剣召喚、影魔法
称号:孤独なる者、無慈悲なる者、ぼっち
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遂に、ぼっちが正式に認定されてしまった...
俺達(俺とシスター)は無言だった。しかし、シスターの目線はチラチラ、エリック達の方へ向かっている。よほど気になるようだ。
...予定が変わった。俺は、最速で強くならなければいけない。エリックや、ルル、サラが、勇者パーティーとして正式に認められれば、恐らくだが『魔王』討伐を任務として課されるだろう。なので、ルルとサラとの縁を深めるためには必然的に勇者パーティーに入る必要がある。
いいじゃねぇか。面白そうだ。勇者パーティーに入るには、俺が強くなればいいんだ。やってやろうじゃないか。
当面の目標は、『邪神(ばあちゃんに解体されかけられたらしい)』に決定だ。神様くらい、倒せなくては強いとは言えない(謎理論)。神様上等だ!
さぁ、この旅でどこまで強くなれるかが勝負だな。
...頑張るか。