4話
ついさっきまで、オリバー伯爵の手下との戦闘が山場だと思ってました。
イチャイチャ
イチャイチャ
でもさぁ、流石にこれはぁ、あんまりだよぉぉぉおおぉぉ!!
アオトの心は折れた。もうこれほどないまでに折れた。ど真ん中から、ポッキリと。
そして、誓った。“絶対にコイツらを見返してやる”と。
時は遡ること1時間前。今回の件についてお礼を言いたい。とのことで、アオトの部屋には右から、ルル、エリック、サラの順番でアオトの寝ているベッドに並んだ。
「えーと。今回は、危ないところを助けてくれて、本当にありがとうございました」
「流石にぃ、あの馬鹿貴族がぁ、そこまでしてくるとはぁ、思わなかったわぁ。本当にありがとう」
...なんだ?やけに素直じゃないか。
ハッ!こ、これは...ついに来たか!?来ちゃったのか!?僕にも“モテ期”ってやつがっ!!
「あぁ、本当にありがとう。僕からも礼を言うよ」
野郎は黙ってやがれっ!今、絶賛パニック中なんだから!
「は、はぁ。どういたしまして...?」
パニックになりすぎてつい、気のない返事をしてしまう。...これが、コミュ障である由縁である。コミュ障はね、非常事態に弱いんだよ...
でもなぁ、な~にか怪しいんだよなぁ。だってさ、コイツら俺のことバッサリ振ったんだぜ?何か裏があるとしか思えな...
ひしっ
「えっ?」
「っーーー!」
ルルとサラがいきなりエリックに抱きついた。危ない危ない。思わず呪詛を紡ぎそうになった。べっ、別に羨ましくなんかないんだからねっ!かっ、勘違いしないでよねっ!
エリックは、まだ動揺してる。
「お、おい。二人とも、一体どうした?」
「んー?べつにー?」
「抱きつきたくなったからぁ、抱きついたぁ?」
そして、二人はこちらを向き...
ニヤリ
とーーっても黒い笑顔を向けやがった。コイツら...僕に見せつけて来てやがるっ!!
そうか、そういうことだったのか。やけに素直だなぁって思ったとたんこうなるんだよ!
僕にエリックとイチャついている所を見せて、僕の恋を諦めさせようとしてやがるのかっ!
くぅぅーー!羨まゲフンゲフンけしからん!
「ねーエリックー、サラー、このあとさー、“三人で”露店回らなーい?」
「いいわぇ、じゃぁ、そのあとは“三人で”お昼ご飯でも食べましょうかぁ」
「えっ?やっ、でも、アオトがぁ...」
「アオト君はー、こんな状態だからー、歩けないよー?」
「そうよぉ、怪我人にぃ、無理させちゃ悪いわぁ」
そういえば、僕が初代と稽古してるときコイツらいないけど、そんなことしてたの?僕が地獄を見ている時に、コイツらは天国状態だったと...
ん?最近の稽古って確か自習が多いよな。まさか...
ガチャッ
「その話!聞かせて貰ったわ!今日も私を連れていって頂戴!」
部屋に入ってきたのは、赤く、長い髪を腰辺りで縛っていて、出るところは出る、へこむところはへこんでる、スタイル抜群のエルフ美女。
噂の初代登場です。こう見えても1000歳越えてます。20代前半位にしか見えません。
「「えー、また来るの?」」
お二人さん、露骨に嫌な顔してるし...
そして、聞き捨てならないこと言ってたぞ。
「師匠、“今日も”ってどういうことですか?まさか僕が稽古をしてるときに遊びに行ったりはしてませんよね?」
「.........してるわけないでしょっ!」
おい、今の間はなんだ。今の間は。
「師匠も知っているでしょう?稽古が終わったらだいたい僕はエリック達と一緒にいますよ?見ていた限り、師匠と接点はあまりありませんよね?どういうことなんですか?」
「だって...」
「だって?」
「あんたとの稽古なんてつまらないのだもの!」
...くっ、美女からの真っ正面からの罵りは以外と心に来るものがある...
うぅ~、師匠だけは僕の味方だと思ってたのに...
あれ?この家に僕の味方って義父さんだけ?マジで?僕って結構寂しい人だったの?でも義父さんは、時と場合によっては敵対するなぁ。義母さんは、エリックにぞっこんだから...
他に味方は...いねぇ!何てこったい!!
「あんたとの稽古なんて、嫌々でもやってあげてるんだから!感謝しなさい!エリックからのお願いがなかったら絶対にやらないんだから!」
「...はい」
一応、ツンデレっていう線は...ないな。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
「落ち着いているわよっ!」
「ほら、一緒に買い物行くからさ、ね?」
「...しょうがないわね。それで、詳しくはどこに行く予定なのよ?」
初代、エリックにはチョロいんですね。いいんですよ?たまには僕にも“デレ”を見せてくれても。今までの初代の僕に対する態度は、“ツンツン”だからね。いつ“ツンデレ”になるんですかねぇ...
「えーと、今日はーーーー...」
僕を放置して、話はどんどん進んで行く。どうやらここに僕の居場所はないようだ。ここ、僕の部屋なのになぁ...
それにしても、師匠、生き生きしてるなぁ...僕との稽古の時なんかずぅぅぅ~と無表情だったのに。はぁ、これが僕とエリックとの違い、か。
あぁ、本格的に落ち込んできた。一度落ち込むと、中々立ち直らないタイプです。でも、一つだけ分かったことがある。
“このままじゃダメだ”
取り敢えず“今は”、二人のことは諦める。そうじゃないと僕が前に進めない。
うーん、そうだなぁ、自分磨きの旅にでも出ようかな...うん。そうだな。そうしよう。でもさ、でもだよ?
イチャイチャ
イチャイチャ
...その前に心が折れそうです。
イチャイチャ
イチャイチャ
~1時間後~
イチャイチャ
イチャイチャ
アオトの顔からはすでに感情が抜け落ち、死んだ魚のような目をしていた。ひたすら無言で、イチャイチャを見ている。もう涙は枯れるまで流した。イチャイチャは一向に終わる気配がない。
ガチャン
ドアを閉める音が、静かになった部屋に響き渡る。そう、ついにアオトはあの地獄を乗りきったのだっ!
その日の夜ある部屋から、
「チクショウ~!」
「チクショウめ~!」
という声が、静かな夜に木霊したそうな。
過去編長かったぁ...
アオト君のトラウマエピソードでした。
次から時間軸が、現在になります。