2話
強面の剣を持ったおっさん二人がゆっくりと近寄って来る。
「さっさと嬢ちゃんを渡したほうが身のためだぞ!」
二人いて、非常に分かりにくいので偉そうな奴を手下Aとしておこう。
「ゲヘヘ、コイツらガキのくせして中々の上玉ですぜ。味見くらいしても文句言われませんよねぇ」
はい、俺の中でお前の人権消えましたー。楽に死ねると思うなよ?
このロリコンは手下Bとしよう。手下A、Bどっちも危ない物持ちやがって...多分コイツらはこの洞窟に横穴があるのを知らないよな?なら、意識を俺に向けてもらうとしよう。そのために、少し煽っておこう。
「ハッ!テメェらの視界に入れることすらおこがましいわ!怪我したくなかったらさっさと消えるんだなっ!!」
煽った後に小声で隣のエリックに今回の作戦を伝えておいた。エリックは少し迷っていたが、僕にも考えがあるから、と伝えたら渋々たが従ってくれた。作戦と言っても、“僕がアイツらの意識を引き付けておくからその間に横穴から外に逃げて!”と言っただけだけどね。
「このガキ!馬鹿にしやがって!」
「ぶっ殺してやる!」
沸点が低くて助かった。今にも斬りかかって来そうだ。ここで僕も自衛用のショートソードを取り出す。すると刃物を見て警戒し始めたのか、ようやく僕に完全に意識が向いてくれた。エリックに目で合図をする。そして、なんとか気づかれずに洞窟を脱出できたようだ。...気づかないのかよ。本当の馬鹿だったか...まぁ、今回は助かったが。
「死ねぇぇええぇぇ!」
おっと、そうこうしているうちに手下Aが斬りかかって来た。ひょいっと体を半身にして避ける。これでも五歳の頃から剣術、体術をみっちり教え込まれているおかげで、このくらいなら造作もない。スキル『見切り』の効果もあってか、剣の軌道が完全に読める。そして、がら空きの腹に蹴りを一発入れてやる。吹っ飛びはしないが、中々ダメージは与えられたもよう。
「ぐはっ...中々やるじゃねぇか。だが残念だったな、これでも俺は元Dランク冒険者だ。ガキの蹴り程度じゃ相手になんねぇんだよ!」
「へっへっへ、相手が悪かったなぁ。因みに俺も、元Dランク冒険者なんだぜぇ?」
いや、聞いてねーよ。そして、ただの冒険者崩れかよ。道理で踏み込みやら、振り方やらずいぶん適当だと思った。我流ならそんなもんだわな。
因みにこの世界には、大きく分けて3つの流派があるのだが...今はいいか。俺は3つの中の1つ、アイーシャ流と言う流派に属している。なんでも、1000年くらい前にアイーシャさんが立ち上げた流派だそうだ。
この流派は、小回りのきく短剣術と体術を主にして闘う、カウンター戦法。ここの洞窟のように狭い場所では結構有利なはずだ。......有利だといいなぁ。
今度は、手下Bが突っ込んで来た。見たところコイツも我流のようだ。頭を狙って来たから、ショートソードでいなして回し蹴りを背中にお見舞いしてやる。
「がはぁっ!」
...コイツら弱くね?でも、元Dランク冒険者とか言ってたしな~。Dランク冒険者と言ったら、結構ベテランの類いに入るはずなんだけどなぁ。
「おじさん達、本当にDランク冒険者だったのかよ?それにしても弱すぎだろ...」
「あぁ!?なんだとゴルァ!」
「調子のってんじゃねーぞ!ガキの分際で!!」
やべっ、つい口に出ちゃった。
瞬間、手下達の体を赤い光が包む。あれは...
「身体強化、か。」
「へぇ~、博識じゃないかよ糞ガキ!」
どうやら、僕も本気で相手をするしかないにたいだ。僕も身体強化を発動する。ぐっ、まだ子供の体だと負荷が掛かるため、そんなに時間はない。
僕が手下Aに斬りかかる。刹那、手下Aの右腕が天井に向かって飛んでいく。
「...はっ? いっっってぇぇぇええぇぇ!!」
「はっ?えっ?」
手下Aの叫び声と手下Bの戸惑った声が聞こえて来る。まぁ、反応できなくても仕方がないと思う。何故なら、僕の初速で既に音を置き去りにした速さだったのだから。本当は首を狙ったのだが...
「俺のっ、俺の腕がァァァッ!」
「このガキ!ロイの腕を!!」
手下Aの名前ってロイって言うのか。こうなると、少し手下Bの名前が気になってくるけどまぁ、
「今から殺す相手の名前なんてどうでもいいか。」
不敵な笑みを顔に張り付け、二人を嘲るように嗤った。