入試と迷子と二人の女子と
そして入試の日。
裕樹は、またあの門の前に立っていた。
「ふぅ…」
軽く深呼吸をすると、受験生たちのために開いている門の中へ入っていく。
入試といっても、試験をするとかそういうものではない。この学校は、ある意味推薦だけであるため、一般の入試は行っていないのだ。だからか、試験日も推薦と同じである。
入試方法は至って簡単。
面接と実技だ。もちろん、学校であるため調査書も必要となってくるが、面接と実技がすべてを左右する。割合でいえば、1:3:6といったところだろう。1は調査書で3が面接、半分以上を占めているのが実技だ。
裕樹は早めに来たはずなのだが、ちらほらと人影が見える。みな、自分と同じ視える者で、何かしら特別な力を持ったものなのだろうと勝手に推測をする。
「…行くか」
裕樹は、自分で呟いたその言葉に合わせ、右足をスッと出した。
「…何あいつ」
誰か、後ろから訝しげな目で見ているとは知らずに。
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願書提出を入れれば、ここに来るのは三度目だ。提出をする際に、また司と会って、嬉しそうな顔をされたのはまた別の話。
三度目とあれば、迷わずに行ける…わけもなく、普通に迷っていた。
「…どこだよここ」
裕樹の言葉は、静かな廊下にひどく響いた。何処も彼処も同じような風景が広がっており、自分が今、何処を歩いているのかが全くわからない。見学の時も願書提出の時も司が案内をしてくれたので、迷う暇もなかったのだが…。
「はぁ…引き返すか…って、そもそもどう曲がったのか覚えてねぇんだよなぁ…」
参ったとでも言うかのように、裕樹は右手で後頭部をポリポリ掻いた。
そんな裕樹のところへ、鶴の一声がかかる。
「ん? 受験生か? 迷ったのか?」
男勝りな口調だが、どこか凛々しさを感じさせる声の女性が、裕樹に声をかけた。
「っ…」
(すげぇ、美人じゃねーか…)
その美しさに裕樹は息を呑む。
それもそのはず。彼女は、とても整った顔立ちをしていて、小さな顔の中に大きな黒い瞳、ぷっくりとした桃色の唇、高いが控えめな鼻、艶のある黒髪を高いところで括り、どこか妖艶な雰囲気を纏っている。
「どうかしたのか?」
「い、いえ! なんでもないです!!」
急に意識が戻ったので、つい、手と首を横にブンブン勢い良く振ってしまう。裕樹も一応中学三年生の健全な男子なのだ。
「ふむ。なぜ君はここにいるんだ?」
「お、お恥ずかしながら迷ってしまい…」
インターネットで調べた時に見た、高等部の女子の制服。それをまとった彼女は、ここの生徒であると見受けられる。高等部であるところから、先輩だろう。
「そうか。では、会場へ案内しよう。なに、私もそこに用事があるのだ。付いてこい、受験生」
「は、はい!」
流されて、何故か一緒に行くことになった。彼女は誰なのだろうか、という問いが頭に浮かぶが、どこか話しかけ難い空気なので、どうしようもできない。
裕樹は困惑したまま、女生徒のあとをついて行くしかなかった。
「…着いたぞ。じゃあ、私はあっちなのでな。もう迷うなよ…は無理か。君が入学してくることを楽しみにしている」
彼女は、裕樹の持っていた黒吹雪を一瞥して、そのまま去っていった。
「…あ、お礼言うの忘れた」
礼儀として重要なことを忘れていた裕樹だった。
案内されたのは、重々しい雰囲気を放つ、大きく黒い装飾がされた扉。
(この学校はモノトーンが好きなのか…?)
くだらないことを考えながら、裕樹はそっと取っ手に手をかける。ぐっと力を込めると、簡単に扉は開いた。
「…へ?」
思わず素っ頓狂な声を上げる裕樹。
それもそのはず。彼の目の前には、小さな女の子が立っていたのだから。
その子は、白いゴスロリを身にまとい、美しい銀髪を高くツインテールで結び、大きなキラキラとした黄色に瞳をこちらに向けていた。現実味がない彼女をさらに現実から離しているのは、その尖った耳と白すぎる肌だろう。まるでエルフの人形のようだ。
彼女はゆっくりと口を開き、鈴のような高い声で、静かに、でも確かに裕樹に向かって話した。
「遅い。あと10秒で受験資格、失うところだった」
懐中時計を左手で持ち、淡々という彼女に、裕樹は多少の恐怖を覚えたが、思うことはただ一つ。
(ザラキの真反対みたいなロリだな)