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俺と魔法と超能力と  作者: 緑川もまこ
第一章 中学
8/10

執事と伝言と学園と

 その後、話はトントン拍子で進んでいった。

 一学期が終わり、成績が出る。裕樹は、成績はあまり関係がないのだが。

 夏休みの三者面談で、担任に緑峯に行くと伝えた時は、担任も顎が外れるくらいあんぐりとし、驚きをそのまま表現していた。


 そして、今。

 学校見学に来ている。


 学校見学は、招待状を持っている者のみ来れる。

(そらそーだ。招待状ねーと、入学できないもんな)

 裕樹は妙に納得していた。


 母と並んで、緑峯へ向かう。もちろん、電話予約済みだ。個別で案内してくれるらしい。

 電車に揺られ30分、そこから緑峯のバスは出てないので、タクシーで20分ほど。東京郊外、裕樹の地元よりも山奥の、奥多摩の方。そこに、そびえ立つように緑峯はあった。ちなみに、交通費は領収書があれば支給されるらしい。なんとも気前のいい学校だろうか。


「……」


 母と二人で、そのどでかい校舎を見上げる。いや、校舎の前にある、門といったほうが正しいのかもしれない。

 相澤親子は言葉が出なかった。


 そうしているうちに、誰もいないはずの門が大きな音を立てて開く。


 ─────ぎ…ギィ…


「……」


 もう何も驚かない。とでも言うのだろうか。二人は悟ったような表情をしていた。


「……とりあえず、中入るか」

「……そうね」


 辛うじて出てきたのは、とても拙い言葉だった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 昇降口へ行けば、人影があった。


「初めまして、相澤様。(わたくし)は、緑峯栄様の専属執事長、斎藤司(さいとうつかさ)、と申します」


 斎藤司と名乗った人物は、顔を上げた。

 綺麗に整えられた黒髪、切れ長な目、すっと筋の通った鼻、何事も見透かすような黒い瞳…一言で言うならば、美形な男子というところだろう。優雅な雰囲気を纏い、燕尾服がきちりと決まっている。


「…はじめまして」


 彼の見た目は、20前半。盛っても後半といったところだろう。そんな人が執事長になれるものか。と疑問に思う。


「若そうに見えるのに、執事長をやってるのが不思議ですか?」


 見透かしたように微笑し、自ら年齢を明かした。


「ふふ…私、今年で28になります。つい最近、父からこの座を受け継いだのです。まだまだ未熟者ですが、本日はどうぞ、よろしくお願い致します」


 そう言って、司は恭しく頭を下げた。

 それに釣られ、相澤親子も焦りながら頭を下げる。


「こ、こちらこそ…よろしくおねがいします!」


 裕樹は、半ば強制的に頭を下げさせられたようなものだのだが。


「それではご案内いたします」


 そこから、二人は司に色々な場所に連れていかれた。

(午後からって…こんな時間かかるからかよ…)

 そう、この見学は午後からだったのだ。何かあるのだとは思っていたが、校舎が広すぎて、午前中では時間が足りないかららしい。



 ──────二時間後



「お疲れ様です」


 漸く最後の応接室にたどり着き、そこでお茶をもらう。


「ありがとうございます」


 出されたお茶を口に含めば、すぐに芳醇な香りが広がり心の底から癒された。RPGでいえば、HPが回復するような感覚だ。


「…さて、本題に入りましょうか」

「本題…ですか?」

「はい」


 コホン、と司は咳払いを一つした。そこから一気に雰囲気が豹変する。


「相澤裕樹、君が“特別な者”であれば、これが見えるね?」

「それはっ…」

「?」


 裕樹は目を見開く。それとは対照的に、母は首を傾げていた。

 司の指が向くのは、何も無い空間。あるといえば窓くらいだ。裕樹の母には見えていない。しかし、裕樹と司には"視えていた"。


「その反応からわかるよ。この子はバンシーと呼ばれる精霊でね。死を司ると言われているんだ」


 バンシー。西洋の精霊。家族に死期が近くなると、バンシーの啜り泣きが聞こえるという。

 彼らには、汚らしい布を被った老婆が視界に映っていた。


「僕の使い魔でね。僕の家系は、こういうものを使役する、エクソシストのようなものなんだ。まぁ、少し違うけどね」

「…それで、俺にそれを話してどうしたいんですか?」

「…いや、見えるかどうかだけ確かめたかっただけだよ」


 嘘をついているのは、裕樹でも分かった。しかし、ここで詮索する必要も裕樹にはないので、そのままスルーすることにした。


 司はもう一度咳払いをすると、また温厚な雰囲気に戻る。


「…相澤裕樹様、緑峯栄理事長からの伝言です。【鱗之介は正義などではない】とのことです。入試を受けに来て下さることを、楽しみにしております」


 そう言って、司は玄関へとまた案内をしてくれた。


「本日はお越しいただきありがとうございました。裕樹様、貴方がここに入学してくれることを期待しております」


 彼は、初めてあった時と同じように、恭しく頭を下げた。


「こちらこそ、貴重なお時間、ありがとうございました。斎藤さん、理事長さんに伝言をお願いできますか?」

「はい」


 裕樹は、司の耳元で伝えて欲しいことを言った。


「______」

「! かしこまりました」


 司は少し驚いたように目を見開いたが、すぐにポーカーフェイスを保ち、優しい微笑みに戻った。


「それでは、失礼します」


 裕樹と母は、また来た道を戻って行った。

 門が閉まり、二人の背中が見えなくなったあと、司は一人呟いた。


「面白い子だ」

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