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俺と魔法と超能力と  作者: 緑川もまこ
第一章 中学
5/10

謎と過去と少女と

 いつの間に目を瞑っていたのだろうか。

 裕樹はそっと目を開けた。

 あの地下室と同じく、その空間は真っ白だった。


 よく目を凝らすと、黒い檻の中に人影がある。


「誰だ…?」


 疑問を口に出してみた。


「…人か。珍しいのう」


 幼い女の子の声。

 その声とは裏腹に、口調は随分と古いものだった。


「何用じゃ」


 その少女に裕樹は問われた。

 姿は見えないのに、何故か背筋が凍るような悪寒。恐怖を覚えた。

 理由はわからない。でも、恐かった。裕樹にとって、初めての感覚だったという。檻の中に閉じ込められている少女は、不思議な雰囲気を纏っていた。


「…用はない。じいちゃんに言われて、気が付いたらここにいた」

「そうか。お主は麟之介の子孫か」

「…そうらしいな」


 少女の乾いた笑い声が裕樹の耳に届く。


「フッ…妾を解放しに来たようじゃな。

 じゃが、妾はもう二度と人間に従わん。醜き人間どもに支配されるくらいなら、ここで朽ち果てた方がマシじゃ」


 なんとなく、裕樹はその人間を馬鹿にしたような言い草にカチン、ときた。


「お前がどう思っているのかは知らないけどな、人間の全員が全員、馬鹿みたいに私利私欲のことしか考えてるわけじゃねぇ。少なくとも、俺は自己犠牲で死んだ奴を知っている。

 その発言は許せねぇな」



 裕樹にとって、自分の父親が馬鹿にされたような感覚だった。

 目を閉じれば思い出すあの光景。幼い頃の裕樹はまだ理解ができていなかったが、あれが所謂“特別な力”なら合点がいく。


「ならば、お主を試させてもらう。なぁに、簡単な事じゃ。お主の記憶を見させてもらった。

 もう1度それを見て、お主がどういう反応をするのか、それを見定めさせてもらう」


 影が動いた。

 その瞬間、裕樹の意識は何処かへと飛ばされた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「こ、ここは…?」


 裕樹が立っていたのは、あの日の海。

 父親が死んだあの日のとある夏の物語。




「裕樹! 来い!」


 懐かしい声が聞こえた。

 裕樹が声のする方へ振り返ると、そこには幼き自分と今は亡き父がいた。


「お父さん!!」


 走りながら父親の元へ向かう、あの頃の裕樹。

 その表情は今では考えられないほど可愛らしく、純粋なものだった。


「…ほんと、皮肉だよな。こんなことがなけりゃ、俺だってもう少しはましな人間になっていただろうに…」


 自分の手と幼い自分を見比べて裕樹は呟いた。

 目の前では、自分を軽々と持ち上げる父の姿があった。



「裕樹、スイカ食べに行くか!」

「うん!」


 元気に返事をした小さな裕樹は、とある1点を見つめる。父の腕から飛び降り、“そこ”へ向かった。


「ダメだ! 行くな!!」


 裕樹の声は届くはずもなく、手は空を切る。


「ダメ…なんだ…! そいつは…!」


 小さな裕樹が向かった場所は、波打ち際。その場所には、倒れている女性がいた。

 小さな裕樹は、なんでみんな助けないの…? と思いながら、その人に近づく。


「大丈夫ですか?」


 純粋無垢な小さな裕樹は、警戒心というものを持たなかった。


「ええ…大丈夫よ。それより、あなた…私が見えるのね…?」

「え…」


 急に女の雰囲気が変わる。

 その女は立ち上がり、ウネウネと長い髪の毛を動かしながら、小さな裕樹に近づいく。


「裕樹!!」


 父は小さな裕樹を庇おうと前に出る。



 その時、裕樹の中で時間が止まった。本当に止まったかどうかなんてわからない。だが、今の裕樹にとってそれはどうでもよかった。

(また、助けられないのか? 自分のせいで失うものがあってもいいのか…? この光景を見て、動けないままでいるのか…!?)


 裕樹は大きく深呼吸をすると、ぐちゃぐちゃな頭を整理するように、裕樹は目を瞑る。


(いいや、俺は変わったんだ。

 臆するな。一度体験したことじゃないか。ここからの行動パターンは読めている。あの女が海水を操り、俺の親父を水の球に入れ、溺死させる)


 裕樹はふっと思いついた。まるで、神の暗示を受けたかのように。


(なんだ、あの女の子が言っていたとおり簡単な事じゃないか。()()()()()()()()()()()()


 裕樹は、そう考えつき、行動に移した。


 自分の体が軽くなったような錯覚を覚え、重い砂浜を軽快に走っていく。

 目指すは、父親と女の間。



「待てぇ────!!!」


 水の球が父親を飲み込む寸前、裕樹は自分の体を滑り込ませ、間一髪で身代わりになった。

 運が良かったのは、その水の球が一人しか受け付けないことだ。二人以上受け付けるのであれば、確実に父親も巻き込まれていた。


「なっ…」


 あの女の表情が驚愕に染まる中、裕樹は笑った。


(ザマァ見やがれ)


 心の中でそう呟いた時、裕樹の意識はまた、闇に落ちた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ___パチパチパチパチ



 一番最初に聞こえてきた音は、一人しかしてない虚しいような拍手だった。


 ゆっくりと体を起こした裕樹は、自分の体が生きているのかを確認する。


「あれ…俺…?」


 頭を抑え、記憶をたどる。

 そう、確かに自分はさっき、()()()()()()()()()()。なら何故? その疑問が浮かんだ時、拍手が止み、あの幼い声が聞こえてくる。


「あれは夢じゃ。お主の今の精神に問題は無い」


 そうだ、試されるとかなんとかで…。


「主としては、屑の極み。自己犠牲が得意な妾が嫌いなタイプじゃ。

 じゃがな、見てみとうなった。お主がこれからどう生き、どう死ぬのか…。妾は、お主のそばで見たくなったのじゃ。


 裕樹、こっちへ来い」


 言われるがまま、裕樹は動く。

 檻の前に立ち、そこで初めて顔を見た。


 座っているから大体としてしか分からないが、身長は約130cm。艶がかった真っ黒の髪を床まで伸ばし、ポニーテールにしている。服は、赤と白、黒のゴスロリで、髪飾りも服と同じようなデザイン。妙に、その格好が似合っていた。


「その檻に触れてみろ」


 裕樹が触れると、檻はパリンと音を立てて崩れた。

 それにびっくりした裕樹は、二、三歩後ずさる。


「気にせんでも良い。お主にはなんの危害もないのじゃ。

 この檻は、麟之介の血縁の者しか解けんようになっていてな、妾も解いてもらうのは主と決めているのじゃ」


「てことは…?」


 彼女は立ち上がり、仁王立ちで言った。


「相澤裕樹、お主を妾の正式な主として認める!」


 別に、求めてはいなかった。

 元々、よく分からないままこの空間に来させられて、認められても状況が読めない。


 でも一つだけわかる。

 この人の試練のおかげで、俺は一つの過去を克服できた。


「…ありがと、えっと…」

「ザラキじゃ」


 某人気冒険ゲームの呪いの呪文だった。

 その名前に笑いと驚きがこみ上げてきて、思わず声を出して笑ってしまった。


「あははっ!ははっ!」

「笑いすぎじゃ」


 唇を突き出し、不機嫌そうな顔をする幼女…基、ザラキは手を差し出した。

 不思議そうな顔をする裕樹に溜息をつき、


「察しの悪い男じゃなぁ…握手じゃよ。妾は、これを契約の証としておる」

「そ、そうか…」


 貶されたが、取り敢えずザラキの差し出された手を左手で握った。


「我、真木麟之介により封印されし者。今を以て、相澤裕樹を主とし、彼の助けとなろう」


 ザラキはそのまま裕樹の左手の甲を自分の唇に当てた。

 いきなりの事に、裕樹は顔を赤らめる。

 彼も思春期の健全な男子だ。幼女趣味はなかろうと、女にこのような事をされたら、気が持たない。


「ちょっ…」


 手を離してもらうと、左手の甲には六芒星が浮かんでいた。


「それは契約印じゃ。妾は刀としての形を保つが、普段はその契約印に力を宿す。必要な時は、お主の髪でも唾液でもなんでもいい、なにかお主とわかるものを媒体とし、呼び出せ。


『我、魔王が娘、ザラキを使役する者なり。汝、我の応答に答えよ』


 その後にお主の望みの力をいえば良い。

 あとは全て脳内に説明を送ろう。ただ、これだけは気をつけろ。妾は、お主が気に入ったから主として認めただけじゃ。もし、その気を裏切ろうと言うのなら、妾はお主を容赦なく斬る。良いな?」


 その言葉は重く、確かに心に刻まれた。


「ああ」


 裕樹は真っ直ぐにザラキを見つめ、頷いた。


「よろしい。では、現実に帰すぞ」


 薄れゆく意識の中、小さく聞こえたのはザラキの声。






 ___麟之助の先祖返りに(ちこ)う者よ


 ___どうか、道を(たが)えるなよ


 ___かつての麟之介の様にな_____

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