地下室と封印と刀と
緑峯学園について調べ終わった裕樹が道場へ戻ると、祖父が目を瞑って、正座で座り、裕樹のことを待っていた。
「ただいま」
裕樹は、祖父に声をかける。祖父は、片目を開け、裕樹に問う。
「調べ事は済んだか」
その問に、裕樹は肯定の意を表した。
「済んだよ。で、渡したいものってなに?」
祖父は、着いてこいとでも言わんばかりに、立ち上がり、右奥の壁へと向かった。
彼は、徐に、手を壁に当てた。すると、今までなかった扉が開いた。
「っ…なんだ…これは…!?」
裕樹の表情は困惑に染まっている。
「はようせい」
裕樹とは対照的に、祖父は驚くのも仕方ないと言った表情だ。
祖父のその言葉に我に帰った裕樹は、驚きながらも祖父に続く。
螺旋階段状になった暗い階段を、ただただ下っていく。
どこまで続くのだろうかと裕樹は不安になる。
「じいちゃん、どこまで続くんだ?」
祖父からの返事はなかった。
何処からか取り出した蝋燭を片手に階段を下っていく祖父の後を、着いていくだけしか出来ない裕樹。
引き返そうと思っても、暗くて足元が見えない。これでは、逆に危険だ。
大人しく着いていくことにした。
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どれくらいの時間が経っただろうか。
ようやく着いたその空間は、文字通り"無"だった。
真っ白な部屋。
暗いところから一変。真っ暗な階段にいた裕樹にとって、そこはとても眩しい所だった。
「なにここ…」
ぼそっと呟かれたその言葉さえ、この部屋では響いてしまう。まるで反響板でもあるかのように。
今までずっと口を閉じていた祖父が、裕樹の疑問に答えた。
「…ここは、封印の間じゃ」
"封印の間"と呼ばれるそこは、何もなさすぎて、何を封印しているのかがわからない。
「封印…?」
思わず聞き返すと、祖父がこういった。
「そうじゃ。
よーく真ん中を見てみろ」
部屋の真ん中に目を凝らすと、そこには────
「か…刀?」
白い鎖が巻かれた刀が、これまた白い台の上にあった。恐らく、白で目があまり見えなかったのだろう。
「あの刀は、儂らの家系に伝わる伝説の刀じゃ」
ここで裕樹が思ったこと、それは、“なにこのテンプレすぎる展開!!?”だ。
因みに言っておこう。裕樹はある意味、人との思考が違う。
普通の人なら、“伝説の刀だと…!?”と驚きと男の血が騒ぐはずだ。
もしくは“まさか…これを俺に…!?”と考えた末、厨二病が爆発するパターンか。
後者も大概だが、裕樹は、“美味しすぎる設定”又は“平凡でいたいです”としか考えられない。
なんと勿体ないのだろうか。
普通なら驚くこの場面で、テンプレと考える裕樹は、残念でしかない。オタクではないのだが、周りにそういう人がいるためだ。
「あの刀がなぜ封印されているかわかるか?」
祖父が聞く。
いや、その刀の存在を初めて知った俺にわかるわけねーだろ!! とツッコミたくなった裕樹だが、そこは抑え、首を横に振る。
「…巨大すぎる力故じゃ」
悲しそうな目で、祖父は刀を見つめる。
「あの刀は、誰もが欲しがるような力が入っている。
所謂、妖刀というものじゃ。そんな物が世に出回ったら、それこそ世界の終わりというもの。
じゃから、儂らの先祖、真木鱗之介が封印したのじゃ」
真木麟之助は、裕樹達の先祖であり、また、今で言う“特別な者”だった。
裕樹には、その名前が聞き覚えがあった。
「……勉学、体術、昔は盛んだった封印術…全てにおいて右に出る者はいないと呼ばれた天才術師」
幼き頃、父から教えられたことだ。そのことを知らない祖父は、驚く。
「よく知っておるのう。
そうじゃ。真木麟之介は、大昔、術師であったら誰もが憧れる存在だった。
儂らの先祖は、"その"天才術師じゃ」
裕樹は、聞いたことがなかった。自分の先祖のことを。
思い返してみれば、父に真木麟之助について、沢山教えられた。裕樹は、何故ずっと覚えさせられたのか納得ができた。
「…で、俺にどうしろと?」
裕樹は本題に切り出す。
「あの刀を継承して欲しい。
「……は?」
(何を言っているんだこの人は)
そう考えてしまった裕樹は悪くないだろう。誰でも思うことだ。
「つべこべ言わず、触らんかい!!」
ドンッと背中蹴られ、前のめりになる裕樹。気が付いたら、刀が目の前にあった。
刀は、この白い部屋に合わない真っ黒だった。さっきは、白の光で上手く色が見えなかったのであろう。
そんなことを考えていると、後ろから殺気の様なものを感じたので、渋々刀に触れる。
目の前が刀の色と同じ真っ黒に染まった。