高校と推薦状と不安と
(高校どこにしよう、俺)
授業を聞き流しながら、裕樹は進路について考えた。
結局、その話題に落ち着いてしまうのが中学三年生という年頃。
裕樹は、高校でやりたいことを考えてみた。
(剣道は続けたいし…剣道部に入りたいってわけじゃないけど、大会には出てみてぇんだよなぁ…)
剣道部を選ぶか、知っている奴らを選ぶか、そう考えていた。条高にも条総にも、剣道部はなかった。条三中の剣道部は、設備の整った私立に行くか、剣道部のある都立に行くかだろう。最も、この辺りには剣道部の強い高校が一校もないのだが。
(どうせ、ここに通ってる奴ら、だいたいそっちに行くんだろうし…)
ヘタレである彼は、どうやら新たな友達を作る、というのが面倒なようだ。中学までは学区制なので、小学校の頃からのいつメンがいるのだが、高校だと訳が違う。みな、将来の夢のため、高校でやりたいことのために高校を選ぶ。
この前だって、その説明のための進路説明会なるものが開かれたくらいだ。いよいよ、本格的に考える時期がやってきたのだ。
そんなことを考えていると、裕樹は当てられた。
「おい、相澤。この問題答えてみろ」
聞いていなかった裕樹は、わかるはずもない。
「…聞いてませんでした」
と、こう言うしかないのだ。正直に言ったからと言って、それで許す教師はいないだろう。
「立ってろ」
「…はい」
バケツを持たされ、廊下に立たされるのは体罰とされている。都内でも田舎なこの学校では、流石にそこまでは行かないものの、教室の後ろに立たされることが時々ある。
裕樹も結局、後ろに立たされた。
教室の後ろ、つまり、見られるわけで…クラスメイトに笑いものにされている裕樹だった。
今は六限目。国語の授業だ。
(学校終わったら気晴らしに、道場行くか)
懲りずに授業も聞かず、これからの予定を考えていた。
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下校し、玄関を開ける。
「ただいま」
パタパタと、母のスリッパを引きずる音が聞こえてくる。母は時々せっかちなのだ。
「おかえりなさい。今日は早かったのね」
何をしていたのだろうか。母の手には、2本の鋏があった。裁縫用の鋏というところから、なんとなくは予想ができるが、裁縫用の鋏といえば大きい。普通に危ない。
しかし、裕樹はごく当たり前かのように靴を脱ぎ、その靴を揃え、家に上がる。
「うん。道着に着替えて、道場行くわ。
あと、母さん。鋏を持って、家の中歩き回るな」
呆れたようなため息混じりの声で、いつもの事のように、ごく自然と注意した。
母はしょんぼりとした。まるで、怒られたあとの子供のように。事実怒られていたのだが、これではまるっきり立場が逆転している。
「ごめんなさい…。鋏は、ちゃんと戻しておくわ。
それで、何時ごろに帰ってくるの?」
「夕飯前には帰ってくるよ」
そう母に言いながら、裕樹は二階にある自分の部屋に向かう。
ドアノブに手をかけ、腕を捻ると簡単にドアは開く。ごく当たり前のことだ。
─────ガチャ…バタン
ドアを閉めて着替えようとすると、自分の勉強机の上になにかあるのを見つけた。
それを手に取って、観察してみる。
「手紙…か? でも、切手が無いな」
表には【相澤裕樹様】と書かれており、裕樹の言う通り、あるはずの切手がなかった。裏に返してみると、普通なら書いてあるはずの差出人がそこにはない。
(…ないものだらけだな)
心の中で苦笑し、恐る恐る開封してみると、一枚のカードと、手紙があった。
裕樹は、その手紙を読んでみた。
「えっと、なになに…?
『御目出度う御座います。
貴方様は、当選いたしました。
同封されているそのカードは、部屋のカードキーとなっております。
又、そこにお金の変わりであるエルドが入っております。
それは、学園内でしか使えません。
日本円は学園内では、使えません。
ご注意ください。
尚、これはただのご招待ですので、断ることも可能です。
ご両親と、よく話し合ってから決めてください。
緑峯学園理事長、緑峯栄』
………緑峯学園? どこだそこ」
心の奥で疑問に思いながら、裕樹は道着に着替えた。