生徒会長と理不尽と招待と
「何ぼーっとしてるの。早く入りなさい」
上から目線のその少女は、くるりと回れ右をし部屋の中へ進んでいく。
「あっちょ…君!」
名前がわからず、裕樹が君、と呼びかければ、彼女はこちらを見ずに自己紹介のようなものをした。
「君じゃない。リン。これでも500年は生きてる。あなたより何倍も年上。なめないで、相澤裕樹」
「なっ…俺の名前…?」
500年生きている、ということには突っ込まず、自分のフルネームを知っていることに驚く裕樹。違うそこじゃない感はするが、どちらかと言うと、フルネームを知っていることはプライバシーの侵害にあたる可能性があるので気になったのだ。相澤裕樹はそういうことを気にする男である。
「あちしは栄の使い魔の妖精。受験者情報は知ってる。なにか文句でも?」
「ないです」
言葉の中に含まれた圧力に、裕樹は即否定するしか選択肢はなかった。
リンに続き部屋に入ると、十数名程の受験者がいた。
(こんだけしかいねぇのか…)
裕樹はその数の少なさに驚愕した。と、同時にそんなホイホイ数がいたら特別じゃないなと納得もした。
そんなことを考えているうちに、リンは奥の部屋の扉をノックする。
「全員揃った。始める」
リンの声は静かな部屋の中に響いて、全員の耳に届いた。恐らく、リンから一番遠くにいるのは、一番入口に近いところにいる裕樹だろう。その彼に届いたのだ。相当耳が悪くない限り、他の受験者にも聞こえてることは明確だ。
────バンッ!
シーンと静まり返った部屋の中に、勢いよく開け放たれた奥のドアの音が広がった。
中から、一人出てくる。
「はじめまして、だな。受験者の諸君。私は、この緑峯学園全体を取り仕切る生徒会の会長だ。名を諸星エナと言う。よろしく頼むぞ。出来れば、今後もな」
「…あの人は…」
諸星エナと名乗った彼女は、先程裕樹をここまで案内してくれた女生徒だった。
(…生徒会長だったんだな、あの人…諸星先輩)
心の中でも、年上への敬意は忘れない。名前がわかった以上、苗字+先輩呼びは基本だろう。
「ふむ、これが今年の高等部受験者か」
ざっと部屋の中を見渡したエナは、満足げに頷いた。
「去年よりは多くなったな。今年は豊作、というところか」
(これで去年より多くなったのかよ…ある意味すげぇな)
裕樹は、そっと同情した。
「この中から選ばれるのは、六人だ。男女各3人ずつとなる。せいぜい頑張ってくれ。周りに蹴落とされないようにな」
右手の人差し指を上に向け、挑戦的に笑うエナ。裕樹はそうでもなかったが、単細胞はどこにでもいる。頭にきた奴がいたらしい。
「特別な力を持つやつなら誰でも入れるんじゃねぇのか!?」
最もな疑問だ。エナは、ため息混じりに疑問に答える。
「毎年いるんだ、お前みたいなやつがな。まぁ、君は無意識ではあるようだが、ここにいるものを代表して私に質問したと認識しよう。…さて、質問の答えだな。誰でも入れるとは言っていない。ここに入る資格を持つだけだ。屁理屈? なんとでも言え。ここの学園に入れば、成績だけではない。力の振るい方次第ですべてが変わる。実力主義なんだ」
彼女は、また、先程のような挑戦的な、今度は確実に煽ってくるように笑いながら言った。
「緑峯は理不尽も屁理屈も嘘も真実もすべて揃っている。そこでどう生きていくか、それを見るのがこの試験だ。いくら実力があろうと、精神力が足りなければ自主退学をする奴がいる。私は、小学校からの親友が耐えきれずにやめたのを見た。そんな者を作らないように、実力・精神力共にあるものを選び抜く。単願でここを選んだやつは災難だったな。二次募集にかけてくれ。以上だ」
有無を言わさない。そんな言葉の切り方だった。
(…なんだよそれ…。理不尽極まりねぇ。…だが、あん時に比べりゃァ、赤ん坊の試験見てぇなもんだ。絶対この学校に入ってやるよ)
裕樹がそう決意している中、エナは話を聞いた受験者たちの表情を観察していた。
(絶望するか、更に士気を上げるか。やはり分かれたな。…招待状が届いたのは、相澤裕樹と那川瑞稀か。あの二人は、後者のようだ。頼むぞ特待生。お前達は入学が決まっているんだ。それなりの実力を見せてやれよ)
エナは、資料と見比べながら、そう考えていた。
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《相澤裕樹》
性別:男
形式:招待
能力:刀・黒吹雪に封印された悪魔を使
役し、その能力を思いのままに操る。
備考:
・真木鱗之介の子孫。
・幼い頃から剣道をやっていた。
・幼い頃に父を亡くした。
・霊力は計り知れない。
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(理事長とその執事の司さんのお気に入り…楽しみにしているぞ、相澤)