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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第三章 空の聖エルフ
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70 聖エルフ、母親になる?

 ドサドサドサッと続けざまに何かが落ちてきた音が、薄暗いがらんどうの中に響き渡った。


 アオのお腹の上ですっかり熟睡していたわたしは、寝ぼけまなこをこすりながら、頭を持ち上げてあたりを見渡した。


 アオも耳をパタパタさせながら首を持ち上げ、生まれたままの姿でほのかに輝く御子たちをじっと見つめていた。


 ――ん、もう朝なんだ。まさか、こんなにたくさん生まれるとは思わなかったな。


 わたしは立ち上がって大きく伸びをした。


 それから、用意しておいた大きな布をいちばん近くに転がっている聖エルフに被せようとした。


 しかし、聖エルフをおおう盾は音もなく布をはじき返し、宙を舞った布はさらに隣に横たわっていた聖エルフにはじかれ、がらんどうの中をさまよい続けた。


 ――うん、うん、思いだした。


 そういえば、ソフィアさんが言ってたね。


 わたしに服を被せようとしてはじかれたって。


 わたしは懐かしい思い出に苦笑しながら、アオにおはようと言った。


「アオ、誰も入って来れないように入口のところで立っててもらってもいい?」


 アオはポクポクとがらんどうの入り口まで進むとこちらを振り返り、興味津々といった様子で耳をピンと立てた。


 ――ここまではトールの言ったとおりだね。


 がらんどうの入り口からうっすらと差し込む陽の光と小鳥のさえずりが、聖樹様に祈りを捧げてからちょうど四日目の朝を迎えたことを教えてくれる。


 トールはほんの五分しか祈らなかったと言ったが、どう見ても怒っている聖樹様にそんな手抜きをできるはずもなく、わたしは三日三晩聖樹様のがらんどうで寝起きした。


 しっかりご飯もおやつも食べながらではあるが、起きているあいだはそこそこ祈りを捧げたと思う。


 途中お風呂にも入りに出かけ、寝るときはアオと一緒だったとはいえ、トールよりはまじめに祈った。


 その結果、こうして、ひー、ふー、みー、……十一人もの聖エルフが目の前に転がっている。


「ありがとうねー、聖樹さまー! これからもよろしくねー!」


 わたしは聖樹様に聞こえるように大きな声で叫んだ。


 がらんどうに響き渡る自分の声に思わず耳をふさぎながらも、わたしはこみあげる喜びを抑えきれないでいた。


 聖樹様を囲む壁を破壊し尽くした後、わたしたちは恐る恐る聖樹様の結界の中へと入った。


 もともとスヴァルトヘイムでは聖樹様の結界の中は神聖な領域として、聖エルフと聖樹様のお世話係しか入ってはいけない決まりになっていた。


 しかし、わたしたちが結界の中に入ってみると、そこには戦火を逃れたたくさんのエルフたちが暮らしていた。


 広大な結界の中とはいえ、ドワーフの壁に囲まれて毎日おびえていたのだろう。


 わたしたちは盛大な出迎えを受け、聖樹様に怒られるのではと気が気でなかった雨っちと雲っちにも笑顔が戻った。


 聖エルフみんなで聖樹様のがらんどうの中に入って謝ってみたが、怒られることもほめられることもなかった。


 何の反応もないことにみんな拍子抜けしたような表情を浮かべていたが、怒られるよりはましということで、よかったねとうなずきあった。


 その後マティアスはさらに戦線を北に押し上げようと、急いで前線に戻ろうとしたのだが、わたしが待ったをかけた。


 せっかく聖樹様のところに来たのだから、お願いして癒やしの聖エルフを遣わしてもらおうとみんなに訴えた。


 ドワーフとの戦いで多くのエルフが傷付き、大ケガを負ったままになっている。


 わたしも癒やしのちからを持ってはいるが、癒やしの聖エルフがたくさんいれば、救われるエルフもそれだけ増えるのだ。


 マティアスによると、スヴァルトヘイムではエルフの頃の記憶を持った十二人の聖エルフたちが合議制で政治をおこなっていた。


 十二人の聖エルフたちはドワーフとの戦いで命を落とし、今ではマティアスひとりが新しい聖エルフとして戦っている。


 聖樹様がどういうふうに聖エルフを産み出しているのかまったく分からないけど、トールの祈りで聖エルフが生まれたように、わたしたちが祈れば癒やしの聖エルフを遣わしてくれるかもしれないのだ。


 マティアスも目を輝かせて賛同してくれ、マティアス、雨っち、雲っちがそれぞれ順番に祈り、わたしが念のためということで三日三晩泊りこんで、癒やしの聖エルフの誕生を祈ったのだった。


 そして今、なんと十一人もの聖エルフが目の前で寝息を立てている。


 ――うん、うん、やっぱり聖樹様は優しいよね。


 まさか、いちどにこんなにたくさんの聖エルフを遣わしてくれるなんてね。


 わたしはワクワクしながら新しい聖エルフが目を覚ますのを待っていた。


 念のために大きな布をいっぱい持ってきててよかったなと思いつつ、鼻歌を歌いながら聖エルフたちのあいだをキョロキョロと見回して歩いた。


 ――えーっと、女の人が六人と男の人が五人ね。


 おー! さすがは聖樹様、マティアスを入れて六人ずつとは、さすがに分かってらっしゃる。


 わたしの中での聖樹様の評価がどんどん上がっていく。


 ――よし、よし、……うん? 今、この女の人がぴくっと動いたね。


 わたしは大急ぎで布を広げて待ちかまえた。


 まつげがぴくぴくと震え、腕が顔の横に引き寄せられて、こぶしが握りこまれる。


 ゆっくりとまぶたが開き、その瞳にわたしの姿が映りこむ。


 二度、三度とギュッとまばたきをした後、女の人はわたしを認識して笑顔をみせた。


「おはようございます、お母様。うーん、……あれっ? ここはどこでしたっけ?」


 ――うん? お母様って言った? ……まあいいか、寝起きだしね。


「おはよう、ここは聖樹様のがらんどうの中だよ。とりあえず、これにくるまってね。あとでちゃんと服を用意するからね」


 わたしは女の人に布をかけてぐるっと巻いた。


 すると、その声を聞いたのか、次から次へと聖エルフたちが目覚め始めた。


 わたしはバタバタと走り回り、みんなに布をかけて回った。


 おはようございます、お母様と連呼されながら、全員を布でくるみ、挨拶もそこそこに外に連れ出した。


 みんな礼儀正しいねと思いながら、とりあえずひとりだけアオに乗せて神殿へと運び、世話係のエルフさんに頼んで服や飲み物を用意してもらった。


 ちょうど起きてきた雨っちと雲っちにも頼んで、手伝ってもらうことにした。


 ふたりともスヴァルトヘイムの言葉を流暢に話せるようになっている。


 聖エルフとしてのこれからの生き方を教えてくれるだろう。


 神殿に連れてきた聖エルフを雨っちに世話してもらい、わたしは雲っちとアオに乗って聖樹様のところに戻った。


 雲っちに聖樹様のところにいる聖エルフをまかせ、ひとりずつ神殿へと連れて行き、雨っちに引き渡す。


 この作業を繰り返し雲っちを含め全員が神殿に集まった頃には、雨っちも雲っちもニコニコとこぼれんばかりの笑みを浮かべていた。


「どうだった、雨っち、雲っち? どんなちからを持っているとか分かったりした?」


 できれば癒やしの聖エルフが多い方がいいなと願いながら、双子に訊ねた。


「んー、そこまでは分かってないけどね、ふふふっ、んー、それよりも、やっぱりソラっちって聖樹様だったんだね」


「やっぱりねー、僕は前から分かってたよー、これで聖樹様に怒られる心配もなくなったねー、やったー」

 

 双子が腕を組んできゃっきゃっと声をあげながら、くるくる踊り出す。

 

 わたしは双子が何のことを言っているのか分からず、その妙な踊りをぼーっと眺めていた。


 ドタドタとマティアスが駆け込んでこなけば、その踊りはもっと長く続いただろう。


「おぉ、ここにいたのか、みんな。新しい聖エルフが生まれたんだってな」


 マティアスは喜びにうちふるえながら、新しい聖エルフに熱い視線を送った。


 その瞬間、新しい聖エルフがみんなわたしのまわりに駆け寄り、マティアスに敵意にみちた視線を返した。


「お母様、ここはわたしたちにおまかせください。ドラゴンなどあっというまに叩きのめしてごらんにいれます」


 十一人の聖エルフが口々にそう叫び、わたしを守るようにマティアスに対して身構えた。

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