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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第一章 記憶を失くした聖エルフ
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7 聖エルフ、水面に立つ

「想像以上ですな。水の上に立つことができるとは、さすがは聖エルフ様でございます」


 大人でもかるく四、五人はいっしょに入れそうな大きな円柱の壺。


 そこにいっぱいまで満たされたお湯。


 その上にはだかで立っているわたしを見上げて、ソフィアさんは感嘆の声を上げた。


 ――どうして、……こうなった?




 広間での『おはぎの儀式?』が終わった後、わたしは村長さんに先導され、お風呂へと向かうこととなった。


 村長さんによると、大事なお客さんを迎える場合は、まずは水を飲みおはぎを食べて、次にお風呂、食事、宴会というきまりになっているらしい。


 わたしとしてもお風呂につかってゆったりするというのは、とてもありがたいことなので、いそいそと村長さんについていった。


 ほぼ他人に背負われていたとはいえ、山の中では転び続け、森を抜けてからここまでは歩いてきたのだ。


 ぜひとも温泉につかって、ゆっくりと体をほぐしたいところだ。


 敷地の真ん中にある大きな屋敷を出て、石畳の道を渡り歩いていくと、煙突から煙が出ているお風呂小屋が見えてきた。


 お風呂小屋の前までつくと、エレンさんが前に進み出てきて案内役を引き継ごうとしたようだが、それを押しとどめたソフィアさんが、わたしの前を進んだ。


 わたしはソフィアさんに続き、足元にすのこが敷き詰められた脱衣場らしきところに入った。


「こちらでお召し物をお脱ぎください」


 ソフィアさんはそう言いながら、入口の引き戸を後ろ手で閉め、わたしの服を脱がしにかかったが、幸いにも聖エルフの盾がその手をはじきとばした。


 ――はじめて聖エルフの盾が役に立った気がするよ。


「自分で脱ぐから……」


 そうは言ったものの、すでに一度はだかを見られているとはいえ、まっすぐこちらを見つめているソフィアさんの目の前で服を脱ぐのは気後れする。


「おぉ、これは気が付きませんで、申しわけございませんでした」


 わたしがためらっているのを見てとったソフィアさんは、すぐさま自分の服を脱ぎ、はだかになった。


 びっくりして目をまん丸にしているわたしに、ソフィアさんは笑顔を向けた。


「お背中など流させていただきます」


 背中を流すだけなら、なにもはだかにならなくてもと思ったが、それ以上にソフィアさんの胸のなさに軽く衝撃を受けた。


 思わず横目で、ソフィアさんの体を上から下まで視野に入れた。


 ――よかった、女の人だった。まあ、そうだよね、孫もいるし。


 そういえば、ソフィアさんをはじめて見た時、なぜ女の人だと思ったのだろう。 


 髪は短く整えられているし、その端正な顔立ちとスタイルだけみれば、男の人だと思ってもおかしくはない。


 こうして服を脱いだ状態では、鍛えられた筋肉があらわになって、よりいっそう男の人に見えなくもない。


 そして、あの時の激しい頭痛はなんだったのか、と思ったその時、また頭のどこかがチリチリとうずいた。


「聖エルフ様……」


 ふと見ると、ソフィアさんがすこしかたい表情で話しかけてきた。


「盾の使い方を思い出していただきとうございます。僭越ながら、わたくしこの村では一番の聖樹様の慈愛の使い手であると自負しておりますゆえ、お役にたてるかと思います」


 そう言って、ソフィアさんは奥の引き戸を開けて、もうもうと湯気が流れ出てくるお風呂場に入っていった。


 ――あれ? 盾にはじかれたことを怒っているのかな? とはいえ、わたしの意思ではどうしようもないことだし、それに、できれば服は自分で脱ぎたいし。それとも、胸がペッタンコだと思ったことがばれたのかな?


 ソフィアさんの雰囲気が少し変わったことに不安を覚えたわたしは、いそいで服を脱ぎお風呂場に向かった。


 お風呂場には大きな円柱の壺が置かれており、壁から突きでた樋からお湯が湯気を上げて流れ込んでいた。


 ソフィアさんが大きな木の櫂のようなもので、壺の中のお湯をぐるぐるとをかき混ぜては、腕を入れて、またお湯をかき混ぜた。


 そんな動作を何度か繰り返した後、壁に向かって、よし、とめていいぞ、と叫んだ。


 どうやら、温泉とはいってもここで湧いているわけではなく、ここまで運んできて沸かし直しているのだろう。


 そう思っている眺めていると、ソフィアさんがわたしの足元に桶で汲んだお湯を流した。


「ふむ、やはりはじきますな」


 さらに、失礼いたしますと言いながら、わたしの肩口にお湯を流しかけた。


――うん? お湯がかかったのに温かさを感じないね。


「では、お湯につかってみましょう」


 ソフィアさんはわたしの手をとって、お湯に入るように導いた。


 わたしは壺の縁に手をかけ、壺いっぱいに満たされたお湯の上に、ぶるぶると足を震わせながら、……立ち上がったのだった。

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