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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第三章 空の聖エルフ
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62 聖エルフ、ドワーフの敵となる

「大型の帆船が一隻、黒い煙を吐き出しながら、こちらに向かってます!」


 見張り役のエルフさんが、遠メガネをのぞき込みながら、大声で叫んだ。


 ――ようやく、動いてくれたね。待ちくたびれたよ。


「えー、せっかく調子が上がってきたのにさー、ここまでかー、雨っち、何匹釣ったー?」


「んー、ちょっと、待ってね、んー、よーし、これも入れてと、全部で四十六匹ね、ふふふふっ、どうよ、雲っち、何匹?」


 お世辞にも性能が良いとは言えない大きな望遠鏡を両手で抱えて、ドワーフの船をなんとか視界にとらえた。


「やったー、僕は五十二匹だからさー、僕の圧勝だねー、よーし、さっそくさばいちゃうぞー」


「なに言ってんのよ、雲っち、数じゃないわよ、わたしがさっき釣ったやつが一番大きかったでしょ、わたしの勝ちね」


 ――うーん、思ってたよりもはるかに大きいな。


 敵の船は帆を張った二本のマストを持ちながらも、黒い煙をもうもうと立ち昇らせて、船の横についた大きな水車を回している。


「えー、たくさん釣ったほうが勝ちに決まってるじゃん、何言ってんのさー、雨っち」


「んー、つべこべ言ってないで、釣り竿をしまいなさいよ、敵がこっちに来てんのよ」


 望遠鏡を船長さんに手渡し、攻撃してくるものすべてをはじくように結界を強くした。


 昼前にイースタッドの沖合にアルフヘイム号を泊めてから、ドワーフの船が港を出てくるまでに、ずいぶんと時間がかかった。


 アルフヘイム号は外洋船とは思えないほど小さな船だし、マストも普通の帆船よりはるかに低く作られている。


 双子のおこす風に耐えられるように改造された結果なのだが、ドワーフから見ると海の向こうから攻めてきた船だとは到底思えないのだろう。


 スヴァルトヘイムの最南端にあるこの港をエルフの手に取り戻し、マティアスと合流する。


 そこまでは、先にスヴァルトヘイムに戻ったマティアスと決めていたことだ。


 ただ、イースタッドはスヴァルトヘイム南部最大のドワーフの軍事拠点でもある。


 ドワーフはこの港街を拠点として、船を使って東西に援軍を送り込んでいるのだ。


 港にどれだけたくさんの船が停泊しているかも分からないし、港の入口やいたるところに大砲を配備している可能性だってある。


 できれば陸からの砲撃が届かない場所で戦いたいということで、休憩がてら敵の船が動くのを待っていたのだ。


「聖エルフさまー! 敵の船が風上に回りこんで速度をあげましたー!」


 船長さんが望遠鏡をのぞいたまま、大きな声を出した。


「アルフヘイム号とくらべて、どのくらいの速さが出てるか分かる?」


「この船とくらべてですか? そうですな。……天馬と普通の馬ぐらいの差でしょうか?」


 ――いや、いや、そのたとえはどうなんだろうね。


 わたしはすぐ横にいるアオを見上げて、小首をかしげた。


 ――とはいえ、海の上でこの距離だと分かるわけないか。


 せっかく一隻で出て来てくれたんだから、訓練どおりやってみるかな。


「雨っち、あの船の後ろに回り込めるかな?」


 魚をさばいている雲っちは放っておいて、雨っちに呼びかける。


「んー、まかせといて、そのかわり、あとでいっぱいほめてよ、ソラっち」


 雨っちの盾から光の粒がきらめきながら飛び出し、船の後方から風が吹いて、帆を大きくはらませた。


 ぐんぐん速度をあげたアルフヘイム号は大きく弧をえがき、敵の船の後ろに回り込んで追い上げていく。


 近づくにつれて、敵の船の圧倒的な大きさがビリビリと伝わってくる。


 ――うーん、大きいな、三倍はあるかな? でも、速さはこちらのほうが圧倒的だ。


 敵の船の舷側の大砲から次々と弾が撃ち出され、水しぶきを上げた。


 だが、船尾には大砲が配備されていないため、こちらに飛んでくる弾はない。


 敵の船のドワーフたちが、大慌てで船尾に集まって、こちらに向かって鉄砲を撃ち始めた。


 結界が光を散らして弾をはじき返す。


 ――うん、うん、マティアスの言ってたとおり、大砲は船の左右に配置されてるね。


 雨っちが訓練どおりの華麗な風さばきで、敵の船尾にぐんぐん迫る。


 ――よし! いける!


「雨っち! このまま船をぶつけて!」


「雨っち、行けー!」


 雲っちがさばいた魚をもぐもぐと食べながら、腕を振り回した。


 アルフヘイム号には体当たり用の小さな衝角がついているが、それよりも先に結界が敵の船尾に当たり、バキバキと轟音を響かせた。


 敵の船尾に大きく亀裂が入り、海水が渦を巻いて流れ込んでいく。


 傾き始めた敵の船の水車が空回りし、吐き出される煙があたり一帯を黒く染めていく。


 雨っちが船の針路を変え、急いで敵船から遠ざかった。


 大きく傾いた敵船は、積んでいた火薬でも爆発したのか、火柱をあげながらあっというまに海に沈んでいった。


 エルフさんたちが腕を突き上げて歓声を上げた。


 雲っちが頭と骨だけになった魚を高々とかかげて跳びはねた。


 雨っちがピョンピョン跳ねながら抱きついてきた。


「んー! やったよ、ソラっち! ほめてね! いっぱいほめてね! どんどんほめてね!」


 わたしは飛び込んできた雨っちを受けとめて、ぐるぐると回った。


「雨っち、ありがとうねー! 雨っちのおかげだよー! すごいよー、雨っち! ありがとうねー!」


 ――うん、うん、みんながいれば大丈夫だ。


 雨っちも雲っちもアオもエルフさんもいる。


 寝こんでる暇なんてない。


 これで、はっきりとドワーフの敵になったんだ。


 次から次へと港から船が出てくるはずだ。


 わたしは大きな喜びとともに湧きあがる小さな感傷を振り払い、空に向かって腕を突き上げ、勝利のポーズをとった。

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