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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第一章 記憶を失くした聖エルフ
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6 聖エルフ、おはぎを食べる

 奥の板敷きの広間に通されたわたしは、案内役を代わったソフィアさんの後ろに続いた。


 村長さんは部屋の真ん中あたりで立ち止まり、片膝をついてひざまずいていた。


 ソフィアさんは、右手の奥の三枚重ねの座布団を手のひらで指し示し、わたしに座るようにうながした。


 見るからにふわふわした座布団を三枚も重ねた上に座ると、バランスを崩して倒れるのではないだろうか。


 そう思って、座るべきかどうか悩んだわたしは、ちらっとソフィアさんに視線を送った。


 すると、エレンさんがどこからか座布団を持ってきて、その上にさらに一枚重ねた。


 ――増えたよ。……って、四枚はさすがに崩れるよね。


 アイコンタクトに失敗したわたしは、座布団を一枚とって横に置き、その上に正座した。


 すると、村長さんが座布団を横に置いたまま、わたしの真向かいの板間にそのまま座り、朗らかな笑みを浮かべてわたしの目を見つめた。


 ふと見ると、村長さんの横に置かれている座布団は二枚重ねになっていた。


 ――えーっと、不正解ですかね?


 ためしに、横に積まれた座布団を一枚とり、二枚重ねにして座りなおしてみた。


 すると、村長さんは座布団を一枚とり、その上に座りなおした。


 ソフィアさんがそれにつづくように村長さんの斜め後ろに座ったが、その横には座布団が一枚所在なげに置かれている。


 ――うん、そういうことね。


 わたしはまた座布団を一枚とって、三枚重ねにして座りなおした。


 すると、村長さんが座布団を二枚重ねにし、これまた座り直した。


 続いて、ソフィアさんが横にあった座布団を引き寄せ、その上に座り直した。


 ここでようやく、他のエルフさんたちがぞろぞろと、そのうしろに整列して座り始めた。


 ――ひょっとして四枚重ねにすれば、後ろの方のエルフさんも座布団に座れるかも。


 とはいえ、ふわふわの布団を三枚重ねているため、すでに体がふらふらと揺れている。


 これ以上重ねると、かろうじて保っている安定を失って、崩れ落ちるさまが目に浮かぶ。


 そう思ってじっとしていると、おはぎらしきものがうずたかく積み上げられた大きな四角い台を、女の子が二人がかりで運んできて、わたしの前に置いた。


 エレンさんが横から進み出てきて、両手で抱えなければ持てないほどの大きな盃を渡してきた。


 さらに、これまた巨大な壺を持ってきて、盃に水をどんどん満たしていく。


 ――えーっ! こぼれる、こぼれるってー! いやその前に倒れるって! たおれるー!


 ただでさえ不安定な三枚重ねの座布団の上で、満面に水をたたえた盃を抱えたわたしは、バランスをとるだけで精一杯だ。


 水を満たし終えたエレンさんが横から盃を支えてくれなければ、まちがいなく大事故につながったはずだ。


「まずは、のどの渇きをうるおしください。田舎の村ゆえ、なにも珍しいものはございませんが、聖樹様の恵みを受けて山より湧きだす清水は、この村の一番のご馳走でございます。」


 村長さんの高らかな声が広間に響き渡った。


 客を迎えるにあたっての作法があるのだろうが、わたしはこの大きな杯の水をどのくらい飲めばいいのかわからないまま、とりあえず口をつけて飲み始めた。


 村一番のご馳走というだけあって、ほどよく冷えた水は体中に染みわたるようにわたしを潤していく。


 自分では思っていなかったほどに喉が渇いていたのだろう。


 気が付いたときには盃の水を全部飲みほしていた。


「おいしい……」


 森を抜けた時に見た湧水を思い返し、その美しい光景とあいまって思わず笑みがこぼれた。


「おぉぉぉぉー!」


 広間に響き渡る大勢の歓声に驚いて、盃をとり落としそうになったわたしは、あたふたしながらも広間に目を戻した。


 そこには、板間に両手を着いてにじり寄らんばかりに身を乗り出し、一心にこちらを見つめるエルフさんたちの姿があった。


「さすがは聖エルフ様でございます。つぎはぜひ、聖樹様の恵みを受けてこの村でとれました米と小豆を用いたおはぎをお召し上がりください」


 目を潤ませ、上気した顔をこちらに向けた村長さんが、おはぎの山を勧めてきた。


 ――どうやら、正解だったらしい。


 そばに控えてくれているエレンさんが小皿におはぎを取り分けてくれる。


 ――よかった。もうすこしでお言葉に甘えて、目の前の山盛りのおはぎを直接わしづかみにするところだったよ。視界の半分ぐらいおはぎで埋まってるしね。


 おはぎもほっぺたが落ちそうになるほどおいしく、わたしの心は幸せで満たされた。


 そういえば、ほとんど背負われていたとはいえ、山の中をずいぶんと転がってきたのだ。


 お腹も減るはずだ、と思いながらお皿を持ったままおかわりを待っていると、さきほどおはぎの山を運んできた女の子たちがやってきた。


 そして、おはぎを次から次へと小皿に取り分け、みんなに配り始めた。


 ――あぶない、あぶない。異文化の作法おそるべし。もうちょっとで、おかわりを催促するところだったよ。


「皆の者、聖エルフ様のおすそわけである、ありがたく頂戴せよ」


 村長さんが、後ろを見まわして声をかけた。


「聖エルフ様、ありがたく頂戴いたします」


 ソフィアさんがこちらに向かって大きく声を出した。


 そしてエルフさんたちが、頂戴いたしますと唱和して、おはぎを食べ始めた。

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