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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第三章 空の聖エルフ
51/91

51 聖エルフ、アルとアオと飛ぶ

 盾がごそごそと何かにつつかれているような気配に目を覚ました。


 しょぼしょぼする目をこすっていると、アオがわたしの盾の中に入れて欲しそうに鼻先をこすりつけていた。


 ――ん、アオか、いつもながら甘えん坊さんだね。


 わたしはアオを盾で包み、横たわったアオのお腹の上でゴロンところがった。


 アオは真夜中になると、いつもわたしの部屋にやって来る。


 そして、脚を投げ出して目を閉じ、しばらくのあいだ眠る。


 天馬はエルフにはあまり懐かないらしいのだが、アオはかいがいしく世話をしてくれるソフィアさんのことも大好きだ。


 天馬なのにソフィアさんを乗せてポクポク歩いたりもするし、村でも人気者でみんなに食べ物をもらってモグモグ食べている。


 盾が弱くて天馬なのに天馬に見えないアオだが、わたしの盾に包まれるととたんにキラっとその身を輝かせる。


 空を飛ぶのが大好きで、わたしの盾に包まれると飛びたくてうずうずしているのが伝わってくる。


 昨日は村のこどもたちを順番にアオに乗せて、村の上空を遊覧して遊んだ。


 美しい村を空から見たこどもたちは一様に目を輝かせて、わたしとアオにあふれる喜びを伝えてくれた。


 アオはその度にこどもたちの顔に鼻を押しつけて、大きな舌でペロッとなめた。


 ――ふふっ、アオがわたしを見つけてくれてよかったな。


 わたしは枕にしているアオのお腹に頬っぺたをすり寄せた。


 ――もう、明日はアオに乗ってギムレーに行く日か。


 そういえば、村に帰って来てからいまだにアルが遊びに来ていない。


 昨日、水田で両親の手伝いをしている姿を空の上から見かけたから、元気なのは間違いないのだけど。


 わたしはアオのお腹の上で寝返りを打った。


 ――うーん、ひょっとしてこの前ギムレーに行った朝に、わたしが覚えていない何かがあったのかな。


 いや、ただ恥ずかしがっているだけかもしれないし、明日の午前中にアオに乗って顔だけでも見せておこうかな。


 わたしはそんなことを考えながら、うつらうつらとまた眠りに落ちていった。


 そして、次にわたしが目を覚ましたのは、アオの背中の上だった。


 ――あれ? ここって庭だよね。


 朝の陽がようやく射し込もうかという、うっすらとしらみ始めた空を見上げて、アオは耳をせわしなくパタパタと動かしていた。


 はるか上空を飛ぶ影をアオはじっと見ていた。


 ――うん? なんだろう、あれ? ずいぶんと大きな鳥だね。


 大きな翼を持つその生き物は、高い空の上をゆっくりとギムレーの方角に向かって進んでいく。


 わたしとアオはそろって首を上に向けて、飛んでいく大きな鳥を見送っていた。


「ソラ様、……あの、……おはようございます」


 ふいにアルの声が足もとから聞こえた。


「あっ! アル、おはよう! ふふっ、アルはいつも朝早くやってくるね」


 久しぶりにアルを見て、思わず胸がキューンとなる。


「あの、……いえ、……ごめんなさい。このあいだはぼくが変なことを言ったから、ソラ様の体調が悪くなって……」


 アルは泣き出しそうな顔で、唇をブルブルと震わせた。


「ごめんね、アル。わたし、頭が痛くてアルの話を全然覚えてないの。また今度会ったら聞こうと思ってたんだけど、何の話だったの?」


 ――よしっ! これで、きっと告白の続きを聞けるはず。


「えっ! そうなんですか! ぼくはてっきりソラ様がぼくの話を聞いて、……その、……」


 アルは衝撃を受けたように目を大きく見開いて、半歩後ずさった。


「あ、でも、いいんです。そうなんだー、よかったー。じゃあ、ぼくの話は頭が痛くて聞こえてなかったんですね」


 アルはすっかり元気になって、胸の前で両手を組んで、ウルウルとした目でわたしを見上げた。


「うん、うん、だからね、アルの話をもういちど……」


 わたしはアオから飛び降りて、アルの目の前でニコニコしながら話の続きを催促した。


「いえ、いいんです。たいしたことじゃないんです。それよりも、ソラ様、おめでとうございます。正式に空の聖エルフ様として神口の聖エルフ様に認められたって聞きました。その、……ぼくなんかが話をしても大丈夫なのか心配しちゃって……」


 アルはちょっと照れたように、上を向いたり下を向いたり視線をさまよわせた。


「大丈夫だよ、アル。わたしが聖エルフなのは聖樹様のところにいるときだけだからね。アルは今まで通りでいいからね。だからこの前の話の続きをしてもいいんだよ」


 わたしはアルの瞳をやさしくのぞきこんで、小首をかしげてみせた。


「この前の話は本当に大したことじゃなくて、……それよりも天馬に乗って飛んでるとこを昨日見ました。この天馬がそうなんですよね。すごいなー、さすがソラ様ですよね」


 アルは両手を前に出してぶんぶんと振って、アオをあこがれの目で見た。


 ――失敗だ。告白しそうな雰囲気ではないよね、これは。


 わたしは動揺をアルに悟られないように明るい声を出した。


「うん、アオっていうんだ。天馬の中でも一番速く飛べるんだよ。それに、おとなしいしやさしいんだよ。今から乗せてあげようか、アル?」


 アルは花咲く笑みを満面に浮かべ、ぴょんぴょん跳び上がった。


「いいんですかー、ソラ様。ぜひ、ぜひ、お願いします」


 ――ふふっ、そうだね、緊張しているアルより、こっちのアルのほうがいいね。


 わたしはアルと一緒にアオに乗って、風を切って舞いあがった。

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