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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第二章 エルフの少女ソラ
43/91

43 ソラ、ギムレーに降り立つ

 たくさんの森や山を軽々と越え、八本の脚を巧みに操り、天馬は飛び続ける。 


 眼下に見える大きな街や小さな村を、あっというまに置き去りにして、風を切り裂いていく。


 ぶちが黒と並走しながらも、逆さまになったり、急にステップを変えたりと、黒を遊びに誘った。 


 黒はおとなしい性格なのか、ぶちの誘いに乗らず、黙々と飛び続けた。


 黒の背中の上で雨っちとわたしはお弁当を広げ、すっかり旅行気分でご馳走にかぶりついた。


「んー、おいしいねー、このおむすび。うん、うん、このお芋も甘くていいねー」


 雨っちもご機嫌で、おむすびをほおばり、おかずに手を伸ばした。


「ちょっとー、僕にもちょうだいよー、ずるいよー、自分たちだけで食べるなんてー」


 ぶちに乗った雲っちがこちらに近寄って来て、黒の馬体にぴったりとくっつけた。


「なに言ってんのよ、雲っちはさっきひとりで食べてたでしょ、あげないわよ」


「えー、いいでしょー、ちょっとぐらいさー、もうおやつもなくなっちゃたしさー」


「おやつもなくなったの? あんなに持って来てたのに? どれだけ食ってんのよ」


 ――そういえば、雲っちって飛んでるあいだずっと、何かを口に入れてたよね。


 わたしはお芋を一個手にとって、雲っちに渡そうとした。


「わーい、ソラっちはやさしいねー、いただきまーす」


 雲っちがそう言って手を伸ばした瞬間、ぶちが急に速度を落として、わたしの手に持っていたお芋をパクッと食べた。


「こらー! なに食べてるんだよー、ぶちー! 僕のなのにー!」


 ぶちは知らん顔で、また速度を上げて、黒の横にぴったりと張り付いた。


 雨っちがおもしろそうに、雲っちに向かってお芋を持った手を伸ばした。


「わーい、雨っち、ありがとねー、いただきまーす」


 またしても、ぶちが一瞬だけ減速して、カプッと芋をくわえて飲み込んだ。


「こらー! ぶちー! 僕のだって言ってんでしょー!」


 雨っちが楽しそうに大声で笑い、わたしもつられて大声で笑った。


 なぜだか、雲っちもそれにつられて、大声で笑い始めた。


 そして、二頭の天馬は仲良くくっついて、盾をくみあわせて並走し始めた。


 お弁当を食べてお腹がいっぱいになったわたしは、いつのまにかうつらうつらと眠っていたのだろう。


 ふと、盾を通して感じる風になにか変化を感じて目を覚ました。 


 はるか遠くに森のように広がる大樹が、わたしたちの視界にというよりも、直接わたしたちの肌にその存在を伝え始めていた。


 しだいにその姿をはっきりと、直接に脳裏に刻みつけようと、せまって来ている気さえする。


「どう、ソラっち? もう少しで聖樹様のところに着くわよ、何か思い出した? まさか、聖樹様のところに戻ったら消えたりしないわよね?」


 雨っちが聖樹様とわたしを交互に見くらべて、大きな茶色の目を気ぜわしげに動かした。


「大丈夫だよ。消えたりしないよ。聖樹様って大きいなーって感動してたの」


 わたしは雨っちにそう応えながら、胸の奥にわきあがる不安を抑えきれないでいた。


 ――ちがう、この聖樹様はどこかがちがう。


「そうでしょ、大きいでしょ、聖樹様を見ると、帰ってきたんだっていつも思うの、でも今日はソラっちといるからね、あんまり帰ってきたって思わないけどね」


 ――わたしが思い浮かべる聖樹様はもっとまわりを威圧しているというか、ピリピリしているというか……。


 それにくらべて、この聖樹様はのんびりしているというか、おおらかというか、おだやかなのだ。


 ひょっとして、今日は聖樹様の機嫌がいいとか、眠っていてボケーッとしているとかあるのだろうか?


「雨っち、聖樹様っていつもこんな感じなの? 機嫌がいいときとか、悪いときとかあるの?」


 わたしはできるだけ雨っちに不安が伝わらないように、明るい声を出した。


「んー、いつもこんな感じだよ、聖樹様なんだよ、機嫌がいいとか悪いとか考えたこともないわよ、ソラっちっておもしろいこと考えるね、ふふふふっ」


 黒の背中の上で、雨っちがくるんっとこちらに体ごと向けて、楽しそうに笑った。


 ――うーん、まあ、いいか。聖樹様がおだやかなのはきっといいことなのだろう。怒ってる聖樹様っていうのもこわいしね。


 わたしは胸の奥に不安を押し込めて、いいほうに考えることにした。


 もし、わたしが聖エルフだとしたら、怒ってる聖樹様のところに帰るより、このおだやかな聖樹様に迎えられたほうが安心だ。


 わたしは空から見える、聖樹様とそのまわりに広がるギムレーの街を、心に刻みつけようと目を凝らした。


 遠くからでもはっきりと見てとれる、広大なギムレーの街をおおう聖樹様の結界が、風にそよいでいるかのように、陽の光を波打たせて地上へと導く。


 結界のまんなかにそびえたつ聖樹様が、たもとに広がる草原を恵みを与えるかのように、その息吹である慈愛をふりまいている。


 聖樹様をぐるっと円状に取り囲む大きな石畳と、そこから放射線状にのびる街路が、地平線の向こうまで続いていく。


 石畳が敷きつめられた街路の両脇には、建物をおおいかくすほどの大きな樹木が延々と茂り、まるで聖樹様へと続く道を守っているようにも見える。


 風を切って進む天馬がそろって結界をくぐり、聖樹様がわたしの心を一瞬だけなでたような感覚に包まれた。


 ギムレーの街の上空をそのまま一気に翔け抜けた天馬は、聖樹様の草原に建つ大きな神殿の前に優雅に降り立った。

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