40 ソラ、再び目覚める
「ソラっち、ソラっちー、ソラっち、起きろー、起きてよ……」
双子の声がどこか遠くから聞こえてくる。
まぶたの向こうに感じる、わたしを呼びさまそうとする気配に手を伸ばした。
頭の上で影が動き、朝のやわらかな陽ざしが、わたしのまぶたをやさしくあたためた。
「起きた! ソラっちー、ソラっちが起きた! やったー、よかった! おはよー、おはようじゃないわよ!」
――あれ? 雨っちに雲っち……。
うん? 寝てたんだ、わたし……。
わたしは軽く伸びをしながら、目をこすった。
「おはよう、雨っち、雲っち。早いね、もう起きたんだ」
雨っちが恐る恐るといった感じで、わたしの顔を人差し指でつんつんとつついた。
「んー、よし、んー、はじかないね、んー、はじかないでよ、ソラっち」
そう言いながら、雨っちはわたしの首に腕をまわして、ぎゅっーと抱きついてきた。
ふと、まわりに目をやると、雲っちだけではなくソフィアさんやシルヴィアさん、村長さんやみんなの姿も見える。
「あれ? 縁側? いつのまに? うん? 雨っちと雲っちがまぶしくて転がってきたのかな?」
――昨日はたしか、雨っちと雲っちと一緒のふとんで寝たのに……。
「なに言ってんのよ、ソラっち、頭が痛いって大きな声がしたと思ったら、ソラっちがここで倒れてたのよ、おまけに盾ではじかれて、さわることもできないのよ、どれだけ心配したと思ってんのよ、というか、わたしたちよりソラっちのほうがはるかにまぶしいわよ」
――倒れていた? ここで? なぜ? あっ!
たしか、アルがやって来て……。
そうだ、たしか、アルが告白するかもって……。
わたしはまわりをきょろきょろと見回して、みんなの後ろのほうでこちらを心配そうに見ているアルを見つけた。
――そうだ、アルが真っ赤な顔で耳を引っ張ってもじもじしてて……。
なっ! 覚えてない。
えー! どういうことー! これは、あれだ。
たぶん、毒狼の時に恐怖で気が遠くなったみたいに、緊張のあまり気を失ったんだ。
どうしよう、最悪だ。
アルが告白するかもって思って、生涯初体験だとかって……。
どれだけ緊張してんのよ、わたしって……。
しかも年下相手に、まだ告白されてもないのに……。
「大丈夫なの、ソラっち? 頭が痛かったんじゃないの? もう痛くないの?」
雨っちが首にしがみついたまま、心配そうにわたしの目をのぞきこんだ。
――うん? 頭が痛かったの? わたしが?
よしっ! それはいいことを聞いた。
緊張のあまり気絶したのじゃなく、頭が痛くて気絶した。
うん、これなら問題ない、ふふっ。
頭が痛くてアルの告白も聞けなかったから、あとでまた告白してもらうってことに、なんとか話を持っていこう。
わたしはアルにも聞こえるように、大きな声で雨っちに話しかけた。
「あー、そうだったねー。頭が痛くて気を失ってたんだー。そういえば、アルから大事な話を聞いてたんだけど、途中から頭が痛くなって、聞きそびれちゃったー。また今度、ゆっくり聞かないとねー。あー、頭が痛いのは治ったからもう大丈夫だよー」
いきなり顔の前で大きな声を出された雨っちが目をシパシパと瞬いたが、すぐ気を取り直してわたしの胸に耳を当ててきた。
「んー、大丈夫だよね、生きてるよね、よかった、ひょっとしたら、もう聖樹様のところに体だけおいて帰っちゃったんじゃないかって思って……」
雨っちはわたしの胸にぐりぐりとほっぺたを押しつけてきた。
「だめだよ、ソラっち、もっともっとわたしのことをほめてね、もういいっていうまで、いなくなっちゃダメだよ」
「よーし、それじゃー、朝ご飯だねー、もうおなかペッコペコだよー、よかったよー、ソラっちが起きてさー」
「なに言ってんのよ、雲っち、ご飯よりソラっちのほうが大切でしょ、ちょっとは我慢しなさいよ」
「えー! ご飯だって大事だよー、ソラっちはもう大丈夫って言ってんだからさー、ごーはーんー、ごーはーんー、ごーはーんー」
雲っちが大声で朝ご飯の催促を始め、みんながぞろぞろと動き始めた。
アルがみんなにまぎれてコソコソと帰っていこうとした。
わたしは立ち上がって、アルに大きく手をふって声をかけた。
「アルー、また今度ねー。また来てねー」
アルはこちらをちらっと見て、顔を赤くして小さく手をふり返した。
――これで、なんとかなると信じたい。
わたしは後ろ髪を引かれる思いで、自分にそう言い聞かせた。
雲っちが雨っちを強引に引っ張って、朝ご飯を食べに行こうとする。
さらにその雨っちに引っ張られたわたしが後に続いた。




