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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第一章 記憶を失くした聖エルフ
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4 聖エルフ、村に着く

 森を抜けたらしく、一瞬、降りそそぐ陽のまぶしさで、視界が真っ白に染まった。


 ゆっくりと戻ってくる視力が、陽をはじいてキラキラと輝く水田を映し出し、あちらこちらに点在する家を、水上に浮かんでいるように見せる。


 森の中から湧きでているのだろうか、傍らの大きな岩のたもとから激しく音を立てて吹き出た清水が、石積みの用水路に流れ込み、渦を巻きながら水田に流れ込んでいく。


「ここがウルズ村でございます」


 そう言って、ソフィアさんはわたしを背中から、ゆっくりとおろしてくれた。


「きれい……」


 わたしは、遠くに見える丘陵のふもとまでいっぱいに広がる水田に目を細めながら、感嘆の息をもらした。


 水と緑に囲まれたあぜ道を走る子供たち。


 雑草でもとっているのだろうか、水田の中で働くエルフたちの姿もあちらこちらに見える。


 ここからずっと、この光景を見ていたい。……ヤット……。


 ――カエッテキタ……。


 どこからか、エルフの女の子の声が聞こえた気がした。


 頭のどこかがチリチリしている。


 そういえば森の中でもはげしい頭痛におそわれた。


 そうか! これはひょっとして。


 ゆうれい? 森で拾った霊を肩に乗せて連れて来てしまったとか。


「ソフィアさん、森の中には霊がいるの?」


 わたしは恐くなって、横にいるソフィアさんの腕を掴んだ。


「聖エルフ様……」


 ソフィアさんは満面の笑みで、上気した顔をこちらに向けていた。


「わたくしの名前を覚えてくださったのですかー!」


 ――えーっと、そこですか。そこ、そんなに気になるところなのかな? 既視感がすごいんだけど。


 その時、後ろからバタバタと、クラウスさんたちが森を抜けてこちらに走ってきた。


「聖エルフさまー! ソフィアさまー!」


 わたしを背負っても息切れ一つしていなかった男の人たちが、苦しそうに肩で息をしている。


「ソフィア様、ダメじゃないですか! 森の中で飛ぶなんて、木にぶつかったらどうするんですか! それに、あんな速さで飛んだら我々が置いてきぼりで護衛にならないじゃないですか! こうなりそうだったから、ソフィア様には聖エルフ様を背負わせたくなかったんですよ! 案の定ですよ!」


 クラウスさんはよほど疲れたのか、立ったまま両膝に手をついて体を支えながらも、ソフィアさんに説教をし始めた。


「つい先日も、木にぶつかって鼻血出して転げまわってましたよね!」


 ――えーっと、常習犯ですか?


 しかも、わたしを背負って危険飛行とは。


 たしかに、あの速さで木に当たったら無事ですむわけがないよね。


「おまえたち、わたくしに隠していたな」


 ソフィアさんは悪びれた様子もなく堂々と言い返した。


「いかに聖エルフ様が小柄とはいえ、人ひとり背負ってあれほど軽快に動けるものかと、わたくしは疑っていたのだ。背負った者をも包んでいる聖エルフ様の盾が、おまえたちに力を与えているのではないかとな」


 ――あれ?


 クラウスさんが変なことを言ったから、守ってくれたんだよね?


 そうだよね?


「わたくしのにらんだとおりだ。聖エルフ様の盾に包まれれば、ふだんの倍の速さで進むうえに、疲れひとつ感じられぬぞ」


 ――だめだよ。


 ふだんの速さで木に当たってるんだから、倍の速さで進めばどうなるか考えようよ。


 というか、せめて広いところでいったん試すとか。


「教えたら、わたくしと代われとかいうでしょうが!」


 クラウスさんは膝から手を離し、胸を張って腕を組んだ。


「あ・た・り・ま・え・だ!」


 ソフィアさんが一歩前に出た。


 ――なんというか……。


 ちょっと残念な人たちなのだろうか、このふたりは。


 聖樹様愛だけならよかったけど、どうやら聖エルフ愛も持っているみたいだ。


 これから先もずっとこのままだと、思いやられる。


 わたしは勇気を出して、左手でソフィアさんの腕をとり、右手でクラウスさんの手を引き寄せた。


「さあ、村に案内してくれるんでしょう」


 ふたりに精一杯の笑顔を見せて、村に向かって大きく足を踏みだす。


 聖エルフの盾はわたしの意思をまとい、思ってもみなかった強い力でふたりを引きよせた。


 わたしたちは転がるように、村へと続く坂道を下り始めた。

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