37 ソラ、双子を泣かせる
「えー! なんで僕らなのさー! そりゃあ、そんなにまじめに働いてなかったかもしれないけどさー、あんまりだよー、僕らは僕らなりにエルフのためにがんばってきたのに、……なんでさー! わーー!」
雲っちが雨っちにがばっとしがみついて、大きな声で泣き叫んだ。
「雲っち、泣かないで! だいじょうぶだよ、わたしがなんとかするから、きっとわたしが悪かったのよ、雲っちは悪くないよ」
雨っちが目にいっぱいの涙を浮かべて、雲っちをぎゅっと抱きしめ、わたしに向かって声を震わせた。
「雲っちは、エルフのためにずっと二千年以上にわたって、雨を降らしたり洪水を防いだりがんばってきたのよ、たしかに面倒くさがりで適当なところもあるけど、ちゃんと働いてきたのよ、それでも、わたしたちが悪いっていうんならわたしのせいだわ、わたしがどんな罰でも受けるから雲っちは許してあげて……」
涙をぽろぽろとこぼしながらわたしに訴えかける雨っちを、雲っちがかばうように声をかぶせた。
「ちがうよー! 僕が悪いんだよー、雨っちはやさしくていつも僕のことをかばってくれるからさー、こう言ってるだけでさー、雨っちはがんばって一生懸命エルフのために毎日毎日、……わーー!」
雲っちが言葉を失って、雨っちとくずれるように座り込んだ。
――うん、うん、ふたりとも双子思いだね。
お互いがお互いをかばって自分が悪いって、もらい泣きしちゃうね。
とはいえ、なぜこんなことになっているのか、まったく見当すらつかないね。
エルフさんがすぐ感動して涙を流すのは知っていたけど、聖エルフもそうなのかな?
「あのー、雨っち、雲っち、どうしたの? 何があったの? 恐い夢でも見たの?」
わたしはできるだけ双子を刺激しないように、優しく話しかけた。
「夢? 夢なの、これ?」
双子は希望にすがりつくような目で、お互いを見つめた。
――いや、いや、夢じゃないけどね。
どうしよう、ちょっと現実逃避に走りかけてるね。
「うーん……どうしてふたりが悪くて罰を受けるなんていう話になってるの? ふたりともエルフのためにがんばってきたんでしょう。大丈夫だよ」
双子は座り込んだまま、一緒に肩をビクンとさせて生唾を飲み込んだ。
「わたしたちに罰を与えに来たんじゃないの、聖樹様?」
――なっ! 今、なんて言った? 聖樹様って、どこに?
わたしはあわてて広間をぐるっと見まわし、どこか変わったところがないか探した。
――えっ? 聖樹様なんているわけないよね? 夢? 本当に夢でも見てるの?
「どうしたの、雨っち、雲っち? 聖樹様ってどういうこと?」
聖樹様という言葉で、広間の雰囲気もいっそう緊迫感を増す。
「どうしたのって、ソラっちが聖樹様なんでしょう? だって、神っちが言ってたよ、まじめに働かないと聖樹様の化身が現われて罰を与えるって」
「そうだよー、聖樹様はいつでも僕らを見ててさー、悪いことをしたら罰を与えるってさー、いつも口をすっぱくして言ってるんだー」
――えー! まさか、わたしが聖樹様の化身とまちがわれていたとは。
どうして? ついさっきまでは聖エルフ扱いだったのに。
「ちょっと待って! 雨っちも雲っちもなんで、わたしが聖樹様の化身なんてかんちがいをしてるの? さっきも言ったけど、わたしはちょっと変わった普通のエルフなのよ」
わたしは両手をバタバタ振りながら、大急ぎで双子をなだめた。
「結界を張れるのは聖樹様だけよ、普通のエルフにそんなことができるわけがないし、聖エルフだってそんなことはできないわよ」
「そうさー、結界を張れるってことはさー、ソラっちが聖樹様の化身だっていうことじゃん」
――えー! そういうことー! 結界を張れたら聖エルフじゃないってそういう意味なのかー!
わたしが正解なのか不正解なのかわからない結果を出したことに思い悩んでいると、双子がよつんばいでにじり寄って来た。
「ねえ、ねえ、それよりもさっきの本当? わたしたちに罰を与えないって言ったよね、大丈夫って、ねえ、ソラっち」
「そー、そー、僕も聞いたよー、聖樹様なんだからウソつくわけないじゃん、大丈夫だよねー」
双子はわたしにすがりついて、必死に目を覗き込んできた。
大きな茶色の双眸が、決して逃がさないという意志を宿してあやしく光る。
「うん、大丈夫だよ。罰なんか与えないよ。でも、わたしは聖樹様じゃ……」
抱きついてきた双子が、そう言いかけたわたしの言葉をさえぎった。
「んー、ソラっち、ありがとうね」
「やったー、さすがソラっちー、さいこー」
双子が大喜びでわたしの首にしがみついて、きゃっきゃっと騒ぎ始めた。
その向こうでシルヴィアさんが黒い笑みを浮かべているのが目に入った。
メガネがあやしい意思を灯して、ほのかに光っていた。
――あっ! そういえば、わたしが結界を張れればシルヴィアさんが郡の代官にって。
喜びで舞いあがっている双子を、現実に引き戻すのも悪いと思ったわたしは、ひきつった笑みを浮かべたままその姿を見守っていた。




