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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第二章 エルフの少女ソラ
34/91

34 ソラ、聖エルフに会う

 庭に降り立ったわたしは、栗毛の子の首筋をぎゅっと抱きしめた。


「ありがとうねー。そうだ、ご飯食べてる途中だったんじゃないの? ごめんねー」


 そう言うと栗毛の子はなにやら思い出したふうに、首をふって門のほうに向かってとことこ歩いていった。


 ――ふふっ、天馬いいなー。なんとか一頭もらえないかなー。


 そんなことを思いながら縁側のほうに目をやると、わたしよりすこし年下に見える双子のエルフが、おはぎを持った手を口に入れたままこちらをじっと見ていた。


 ――あれ? ちょっと光って見えるね。それに髪が茶色。……ん? 目も茶色か、初めて見たね。


 ふたりとも同じ顔で同じ服を着ているが、くるっと巻いたツインテールのかわいい子は、そのスタイルからいってまちがいなく女の子だ。


 双子のもうひとりはショートの巻き髪で、胸がペッタンコなのでひょっとしたら男の子かもしれない。


 ふたりとも驚いたように目を大きく見開いて、おはぎを口に入れたまま固まっている。


 天馬と同じようにオーラを放って輝いているし、髪も目もエルフのように緑ではなく茶色だということは、おそらくこの双子が聖エルフだ。


 そう思ったわたしは、精一杯の笑みを浮かべて声をかけた。


「ごめんねー。あの子たちが乗せてくれるっていうから、ちょっと飛んできたんだー」


 双子はびくんと肩をふるわせて、お互いの顔を見合わせ、先を争うように広間に駆け込んでいった。


 ――あれ? 逃げられた? ……ん、ひょっとして勝手に天馬に乗ったから怒ってるのかな?


 とりあえず、わたしは縁側から広間に入り、奥へと進んだ。


 村長さんの横にシルヴィアさんが座っていて、わたしに真ん中の座布団に座るよう合図を送ってきた。


 座布団に座ろうと前に進んだわたしの耳に、双子の大きなひそひそ声が飛び込んできた。


「やっぱり帰ろうよ、だから来たくなかったのよ、代官さんが偽物とか言ったんでしょう? どうすんの? あんなに怒らせて、雲っちあやまってよ、知らないよ、わたし、あれ、ぜったい氷っちよりこわいよ」


「えー、僕があやまるのー? だってさー、僕なんにもしてないよー、代官さんが悪いんでしょー、今から代官さん連れて来てあやまってもらおうよー、無理だってー、あんなに怒ってるんだもん、僕らがあやまったって許してくれないよー、っていうか僕らのせいじゃないじゃん、知らなかったって言ってさー、あとは代官さんに丸投げしちゃおうよー」


「うん、そうね、そもそも代官さんが悪いんだから、今から引きずってこようよ、どうする? 雲っち行ってくれる?」


「えー、僕が行くのー? さっき来たばっかりじゃん、面倒くさいよー、雨っち行って来てよー」


「なんでわたしが行かないといけないのよ、雲っち行ってよ、でも、どうすんの? 行かなかったほうはずっとここにいるの? 無理だって、こんなところにひとりで取り残されたら恐くて泣いちゃうよ」


「あー、じゃあさー、僕行ってくるよー、ここに残るよりましだよー、ぴゅーって行ってくるから雨っちは待っててくれるー?」


 部屋の隅で、こそこそと大音量でないしょ話をしている双子の声が、広間いっぱいに響き続ける。


 ――なんなの、この双子? 話がぜんぶ筒抜けだし、というか本当に聖エルフなの?


 わたしはシルヴィアさんに横目で視線を送った。


「雨の聖エルフ様、雲の聖エルフ様、こちらがお話しさせていただいておりましたソラ様でございますわ」


 シルヴィアさんが張りのある高い声で双子に呼びかけた。


 双子が手を取り合ったまま、びくんと床から跳び上がった。


 首をすこしずつこちらに曲げて、目を泳がせた。


「あ、あ、ああ、そう。……そうなんだ。……気がつかなかった。……ねえ、雨っち?」


「う、う、うう、うん。……そうね。……わたしたち、目が悪いし。……うん、耳も悪いし。……ねえ、雲っち?」


 わたしをちらっと見たふたりは、泣きそうな顔でお互いを見つめた。


「雨の聖エルフ様、雲の聖エルフ様、ソラ様は怒ってなぞおりません。また、些細なことで怒るようなかたではございません」


 村長さんの貫禄のあるおだやかな声が広間に響いた。


 双子が驚いたような顔でお互いを見つめあい、わたしに視線を送って、そろって首をかしげた。


「怒ってないの?」


 ふたりの声が同時に響いた。


「うん? なんで怒るの? わざわざわたしのために来てくれたんでしょう?」


 小動物を驚かせないような、優しいなで声で双子に応えた。


「えっ、本当にー? じゃあさー、なんでそんなに盾を光らせてるのー?」


「そうよ! 怒ったときの氷っちだってそんなに光ってないわよ!」


 双子は納得がいかないという表情で、勢い込んで尋ねてきた。


「ソラ様は初めてお会いした時からずっと同じように光っておいでです」


 村長さんがまたしてもおだやかで貫禄ある声を響かせた。


 ――というか、それ今日初めて聞いたからね。


 なんで今日の今日まで誰も言ってくれなかったのよ。


「へー、そうなんだー、ピカピカだねー、夜に寝るときまぶしくない?」


「んー、そうだ、夜に遊びに行くとき連れて行ったら、灯りがいらないよね」


 ――なんだろう、この双子。結界ではじき飛ばしたくなるんだけど。


「あー、でも、怒ってないんならよかったー、見た瞬間に氷っちが怒ったところが目に浮かんじゃってさー、あー、ソラって名前なんだってー? じゃあさー、ソラっちって呼んだらいいよねー? 僕のことは雲っちって呼んでいいよー、でさー、もう帰りたくなっちゃってさー」


「そうそう、これって氷っちの妹だよって思っちゃったわよ、わたし、思わず走馬灯が回っちゃったわよ、んー、ソラっちだっけ? わたしのことは雨っちでいいわよ、よろしくね、ソラっち」


 ――なんだろう、聖エルフって? たしか、聖樹様が遣わした御子だって聞いたような気がするんだけどね。


 広間に漂う微妙な空気をものともせず、双子の聖エルフは甲高い声で、ふたりで手を取り合って話し続けていた。

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