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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第二章 エルフの少女ソラ
30/91

30 ソラ、攻撃を受ける

「これは、……その、ソラ様はこれを大きくすることができますの?」


 シルヴィアさんは恐る恐るといった感じで、風の壁を指さした。


「うん、できるよ。……そうだ! せっかくだからアルも入れてあげるよ」


 以前、アルが盾に入れて欲しそうにしていたことを思い出したわたしは、アルのところまで風の壁を大きくしていった。


「わぁー、ソラ様、ありがとうございます。風の壁って中に入れるんですねー。知らなかったですー」


 アルは風の壁の中から外に手を出したり引っ込めたりと、大喜びで遊んでいる。


「どうですか、シルヴィア殿。この風の壁で数百頭の……」


 話しかけたソフィアさんの言葉を、シルヴィアさんが語気鋭くさえぎった。


「あなたは本当に気が付いてらっしゃらないの? これが何かを?」


 ソフィアさんはきょとんとした顔つきで首をかしげた。


「これは結界ですわ。そもそも、風の壁が何かに当たってすり抜けるなどということがあるわけがないですわ」


 シルヴィアさんは手を伸ばして壁から手を出した。


「ん、そうなんだ、やっぱり結界なんだ。そうだよね。だって、わたし聖樹様の結界をイメージして作ったからね。そうか、だから風の壁とはちがって足で蹴ったりできないのかな。じゃあ、どうやったら風の壁って作れるのかな?」


 わたしは練習しても跳べない原因に思いあたり、すこし気分を良くしてソフィアさんに尋ねてみた。


「ソラ様は聖樹様の結界を見たことがあるのですか?」


 ソフィアさんは目を丸くして、どこかぎこちなく尋ね返した。


「あれ? 初めて会ったときに言わなかった? 聖樹様って見たことがあるような気がするって……」


 ――あー、たしかそこから聖樹様愛を熱く語り始めたから、覚えてないのかもしれないな。


「ソラ様はたしか記憶を失くしているとおっしゃっていられましたが、聖樹様のことは覚えていらっしゃいますの?」


 シルヴィアさんはメガネをはずして眉間をもみながら言った。


「覚えてるっていうか、……はじめてソフィアさんに会って、聖樹様って言葉を聞いた時に、頭の中に空いっぱいに広がる大樹が浮かび上がったの。……それで毒狼に囲まれたときにね、聖樹様を思い浮かべて結界を探したの。そして、その結界をイメージして真似してみたの。ただ、聖樹様を見たことがあるのか、知識として知っているだけなのかは分からないけどね」


 わたしは知識とか記憶とかいう何かよく分からないものに、頭を悩ませながら言葉を紡いだ。


「ソフィア殿、結界から外に出て、あなたの持っているすべてのちからを込めて風の刃を叩きこんでもらえるかしら?」


 ――えっ? 今、何て言った、シルヴィアさん?


「なるほど、やってみましょう」


 ソフィアさんは結界の外に出ると、全身をぶるぶる震わせながらちからを込め始めた。


「ちょ、ちょ、ちょっとー! 何してるのー! 当たったらどうするのー!」


 わたしはびっくりして、ちからを限りに叫んだ。


「心配はいりませんわ。すこし試してみるだけですわ」


 シルヴィアさんはわたしとソフィアさんのあいだで、腕を組んで微動だにせず立っていた。


 アルは口をぽかんと開けたまま、固まっていた。


「すこしって? ……今、すべてのちからでって言わ」


 わたしがそう言いかけたところで、ソフィアさんの腕が大きく振られ、風の刃がまっすぐこちらに飛んできた。


 そして、わたしの結界に当たると何事もなかったように溶けていった。


 わたしは口をパクパクさせながら、ソフィアさんとシルヴィアさんを交互に見つめた。


「さすがはソラ様の結界でございますな。わたくしごときの刃ではびくともしませんな」


 ソフィアさんはそう言いながらこちらに戻ってきたが、なぜか結界の手前で足をとめた。


「おぉ、これはすばらしい。まったく中に入れませんな」


 ソフィアさんは結界をこぶしで軽くコンコンと叩いた。


「まちがいございませんわ。これは聖樹様の結界と同じものですわ」


 シルヴィアさんがわたしを振り返って、自信満々にそう言った。


「わたくし、仕事でギムレーに行ったことがございますの。そのときに、もちろん聖樹様の結界を通り抜けましたが、ソラ様の結界に入った時と同じ感覚でしたわ。まあ、聖樹様の結界を攻撃するおろかものなどおりませんが、害があると判断されたものは中に入れなくなるのでしょうね。今のソフィア殿のようにですわ」


 ソフィアさんははっとした顔でシルヴィアさんを見つめた。


「ひょっとして、わたくしはもうソラ様の結界の中には……」


 ソフィアさんは今にも泣き出しそうな顔で、唇をかみしめた。


 ――あんな攻撃しかけたら、そうなるよね。ソフィアさんはいつも思い付きで行動しすぎだよ。


「ソフィアさんを入れてあげて」


 そうわたしは声に出して、結界に向けて軽く手を振ってみた。


 結界がすこし波打ったように波紋を広げた。


 ソフィアさんが恐る恐る結界に向けて手を伸ばした。


 その手が何事もなく結界を通り抜け、ソフィアさんを迎え入れた。


「よかったですわね、ソフィア殿。お仕えしているかたの結界に弾かれるはきもの係など、役立たず以外のなにものでもございませんからね」


 シルヴィアさんがソフィアさんにニヤッと笑いかけた。


「おぉ、御心配をおかけしましたな、シルヴィア殿。どうなることかと思いましたぞ」


 ――いや、いや、半分はシルヴィアさんのせいだからね。それに、心配されてるようには見えないし。


 わたしはため息ともほっとした息とも、どちらともいえない長い息を吐き出した。

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