27 ソラ、タケノコを採る
「んー、どれもこれもやわらかくておいしいねー」
わたしは根もとから折ったタケノコの皮をむいて、次から次へと口に放り込んでいた。
「ソラ様、食べてばかりではなく採ってください。陽が差し込む前にどんどん採らないと固くなります」
ソフィアさんは背負った竹かごに、次々と採ったタケノコを放りこんでいた。
「採ったばかりのタケノコが一番おいしいですからねー、ふぐぐぅ」
アルは器用にも右手で採ったタケノコをかごに投げいれながら、左手でむいたタケノコをほおばっていた。
「その、……タケノコってこんなに簡単に採れるものだとは、思っていませんでしたわ」
シルヴィアさんがそう言いながらもぎこちない手つきで、ポキ、ポキとタケノコを根もとから折っていく。
「シルヴィア殿はたしかイザヴェル出身でしたな。都会に出回るタケノコはまた別の種類のものですからな。これはやわ竹といってこのあたりの特産です。特別やわらかくてアクもありませんから、採れたてが一番うまいのですが、揚げても煮込んでも格別ですぞ」
ソフィアさんはそう言って、皮をむいたタケノコをシルヴィアさんに手渡した。
「本当ですわね。やわらかくておいしいですわ」
シルヴィアさんはメガネの奥の目をすこし細めて、おだやかな笑顔を見せた。
切れ長の目がすこしつりあがっていて勝気な印象のシルヴィアさんだが、昨日までとはうって変わって表情がやわらかく、仕草もずいぶんとおとなしい。
昨日の晩ご飯の時は思い出したように突然涙ぐんだり、遠くを見つめて動かなくなったりと、情緒不安定気味だった。
今朝はいくらか調子が戻ったようだが、切れ者の書記官という初めて出会ったときの印象からは程遠い。
――うーん、わたしのせいではあるんだけど、代官なんかに会ってもろくなことにならない気がするし、あきらめてもらうしかないよね。
そんなことを思いながらも、ポキッとタケノコを折ってはかごに入れ、ポキッと折っては口に入れ、ポキッと折ってはかごに入れ、ポキッと折っては口に入れるのを繰り返した。
――それにしても、このタケノコは絶品だし、簡単に採れるし、最高だね。
ソフィアさんはすでにかごを三つもいっぱいにして、さらにまだ採ろうとしていた。
アルもさすがに慣れているのか、かごを二ついっぱいにして、さらに口いっぱいにタケノコをほおばっていた。
「きゃっ!」
突然、シルヴィアさんが小さく悲鳴をあげた。
見ると尖った木の枝にでもひっかけたのか、長袖のシャツの袖元がすこし破れて血がにじんでいる。
「大丈夫ですか、シルヴィア殿」
ソフィアさんがいち早く駆けつけ、傷の具合を確認した。
「わたしとしたことが、ついタケノコ採りに夢中になってしまって……」
座り込んだシルヴィアさんが恥ずかしそうにつぶやいた。
「んー、どれどれー、見せて」
わたしはシルヴィアさんの手をとって、盾でおおって軽く払った。
「うん、軽い切り傷だね。はい、治った。あとは服だね。んー、さすがは一等書記官の制服だね。いい生地使ってるね」
破れた生地を組み合わせてもとどおりに直し、ついでに血の汚れを払った。
――ふふっ、わたしもずいぶんと仕事が早くなったね。
最初の頃は繊維を組み合わせるのにずいぶん時間がかかっていたのだが、最近は毎日働いているせいか、どんどん腕が上達している。
軽い傷は盾で包むだけで治せるし、汚れなどは一瞬で取れるようになった。
――うん、うん、何事も訓練だね。やっぱりソフィアさんの飛行訓練も受けようかな。
「えーーー! こんなことってーー! でも、えー! でも、そんな! そんなことって!」
突然、シルヴィアさんがわたしの耳もとで素っ頓狂な声をあげた。
「どうしましたか、シルヴィア殿? いきなりそんな大声をあげて」
ソフィアさんがなにかあったのかと周囲を警戒気味に見回した。
アルがのどにタケノコを詰まらせて、目を大きく見開いてバタバタと胸を叩いた。
まわりでタケノコを採っていたエルフさんたちも、何事かとこちらに目を向けた。
「聖エルフ様、……でいらっしゃいますね」
シルヴィアさんは中指でメガネをくいっと押し上げ、眼光鋭くわたしを見つめた。
「ん、……ちがうよ。わたしは聖エルフじゃないよ」
――あれ? シルヴィアさん、なんだか復活してる?
「いえ、そういう意味ではございませんわ」
シルヴィアさんは片膝を立てて跪き、腕を胸の前に回して頭を下げた。
「わたくし、分かっているつもりで、なにも分かっておりませんでしたわ。あれほど村長様や村のみなさんがソラ様を聖エルフ様であると口をそろえ、わたくしも一目見て聖エルフ様だと思ったにもかかわらず、なにひとつ分かっておりませんでしたわ」
――えーっと、それはわたしのセリフだよね。シルヴィアさんがなにを言いたいのか、さっぱりわからないんだけど。
「二十二人いらっしゃる聖エルフ様の中で最もお若くていらっしゃるのが、御歳二千百六十三歳のイザヴェルの雨の聖エルフ様と雲の聖エルフ様でございますわ」
――さすが、一等書記官。よくそんなこと覚えてるね。というか、それもう若くないけど。
「つまり、でございますわ。ここ二千百六十三年間、聖エルフ様はお生まれになっていないのでございますわ」
シルヴィアさんは鎌首をもたげるかのように頭を上げ、研ぎ澄まされた鋭い視線を、メガネの奥からわたしに投げかけた。
「これが、どういうことか……」
その言葉をさえぎるかのように、ソフィアさんがシルヴィアさんの腕をがしっとつかんだ。
「シルヴィア殿、ひとつよろしいか?」
ソフィアさんは燃えるような目でシルヴィアさんを見つめた。
「え、……え、ええ、よろしくてよ」
シルヴィアさんはソフィアさんの勢いにたじろぎながらも、目をそらさなかった。
「風の聖エルフ様はおいくつでいらっしゃるのですか?」
――あー、そこか。そうだね。ソフィアさん、風の聖エルフが大好きだもんね。




