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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第一章 記憶を失くした聖エルフ
24/91

24 聖エルフ、名前をつける

「わたしは聖エルフじゃない!」


 ひとしきり泣いたあと、わたしはソフィアさんたちにそう宣言した。


 泣き続けるわたしを必死になだめ続けていたみんなは、いっそう困ったような表情を浮かべた。


「聖エルフ様、しかしながら……」


 ソフィアさんがこどもをあやすような目で話しかけてくる。


「ちーがーうー! 聖エルフって名前でもない! そもそも聖エルフって名前じゃないよね!」


 わたしはソフィアさんの目の前に人差し指を突きつけて、左右にぶんぶん振った。


「わたしがソフィアさんのことをエルフさんって呼んだらどう思う?」


 ソフィアさんの緑色のまつげが困ったようにぴくぴくと動いた。


「わたしにはちゃんと名前がある!」


 わたしは突きつけた人差し指をぐっと握りしめた。


「記憶が戻ったのですか! 聖エルフ様!」


 ソフィアさんの目が大きく見開かれ、膝におかれた手が握り込まれた。


「ちーがーうー! 戻ってないし、聖エルフ様でもない!」


 ソフィアさんの淡い緑色の目がまた困惑の色にかわった。


「よーく考えて! わたしが聖エルフで、聖樹様が遣わしたのなら、なんで山の中で倒れてたの?」


 わたしはフーゴさんを指さした。


「はい、フーゴさん答えて!」


 いきなり指名されたフーゴさんは、目をきょとんとさせて動きをとめた。


「はい、分かる人は手をあげて!」


 わたしはみんなの目を順番に覗きこんだ。


 みんなはあわててわたしから目をそらした。


「そもそも聖エルフが聖樹様のこどもなら、ギムレーとやらで生まれるんじゃないの?」


 わたしはソフィアさんにまっすぐ向かいあった。


「いえ、その、……わたしは聖エルフ様がどこで生まれるかまでは、存じ上げませんので……」


 ――そうだろうね、詳しいことまでは分からない。神話だからね。


「うん、うん、そうだよね。そもそも、ソフィアさんは聖エルフに会ったことがないしね」


 わたしはソフィアさんにやさしくほほ笑みかけた。


「はあ、……まあ、お会いしたことはございませんが」


 わたしは続けて何かを言いかけたソフィアさんの言葉をさえぎった。


「うん、しょうがないよね。会ったことがないんだからね。うん、間違えるのも無理はないよね。たしかにわたしの体は膜みたいなものでおおわれているし、よく分からないすごいちからを持っているしね」


 わたしはここぞとばかりまくしたてた。


「けど、ちがう。わたしは聖エルフではないし、失くしてる記憶だってそのうちきっと思い出す。大切な思い出だってきっとある。わたしをつくったのは、ひとつひとつこつこつ積み上げられた記憶。聖樹様なんかじゃない」


 ソフィアさんたちは叱られたこどものように、うなだれて肩をおとした。


「はじめてウルズ村を見たとき、なんてきれいなところだろうって思った。こんな自然に囲まれたところで暮らしていけたらいいなって思った」


 みんなの耳がぴくんとはねあがり、目がおおきく見開かれた。


「きれいってなに? 自然ってなに? 何とくらべたの? わたしの中に眠っている記憶とくらべたんじゃないの?」


 みんなは目をパチパチして、さっぱり分かっていないような表情を浮かべた。


「うん、わからないよね。そう、わたしにもわからない。でも、これだけは言える。聖エルフを創造したのが聖樹様だというのなら、みんなには悪いけど、わたしは聖エルフじゃない」


 そう言いきって、わたしは山道をひとりで下り始めた。


 うしろからソフィアさんたちがこそこそとなにか話しながらついてきたが、わたしはかまわずどんどん進んだ。


 盾につつまれているのだから、木の枝や葉っぱに当たっても痛くもなんともない。


 足もとにさえ気をつければ、よけなければいけない障害物も気にせずどんどん進める。


 はじめて山をおりたときは、いろんなものを無理に避けようとして足をとられていたことに、わたしは気がついた。


 すこし気分を良くしたわたしは、山道をかけ足で跳ねるように下りていった。


 どのくらい山道を下っただろうか、ふと気がつくとフーゴさんがわたしの前に跪いていた。


「せいエル……」


「ちーがーうー!」


 わたしはすぐさま、フーゴさんの声をさえぎった。


「それでは、なんとお呼びすればよろしいのでしょうか?」


 フーゴさんはそのがっちりとした体を小さくすくめて、おずおずと尋ねてきた。


「ん……。そうだね、名前がないと呼びにくいね」


 ――名前か。うーん、どうしよう、まったく考えてなかったな。


 うーん……、そうだ。わたしは髪も瞳もたしか青いんだ。


 うん、そういえばアルが言ってた。


 澄みわたった空のように青いって。


「うん、ソラにする。ソラって呼んで」


 ――うん、そうしよう。そして帰ったらアルの髪をわしゃわしゃして心を癒やそう。


「では、ソラ様。わたしはあなた様に命を助けられました。もし、あなた様がおられなかったら、わたしは動くこともできず、あの場所で毒狼に囲まれ命を落としていたかもしれません。あなた様が、その、……おえらいかた、かどうかなどはどうでもよいのです。わたしにとってあなた様は命の恩人なのです。どれほど感謝しても感謝しきれないのです」


 その言葉は、フーゴさんの、控えめで実直な照れ屋さんという印象とあいまって、わたしの心の深くを、大きく揺さぶった。


「え……? ん、そう? あ、でも、わたしも山の中でみんなに見つけてもらえなかったら、今頃どうなってるか分からないし……。だから、その、ウルズ村のみんながわたしの命の恩人だよ」


 自分でも顔がほてっているのが分かるくらい気分が高まって、思わず耳をひっぱりながら下を向いた。


 あたりが静まりかえり、みんなの息をのむ音が聞こえた気がした。


 そして、次の瞬間、おぉーという歓声が森にこだまし、わたしの心はみんなのあたたかい気持ちにくるまれていた。

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