21 聖エルフ、治療する
「ソフィアさん、大丈夫? ケガはない?」
わたしは大声で呼びかけながら、うつ伏せで倒れたままのソフィアさんをなんとかひっくり返した。
「ソフィアさーん! おーい!」
手を持ち上げたり、足を持ち上げたりして、どこかケガをしていないか探してみた。
耳を胸に当てて心臓が動いているのを確認して、さらに鼻に耳を押しつけて息づかいを感じてみた。
――うーん、特に変わったところは感じられないし、盾で包まれていたからわたしと同じで衝撃もなかったはずなのに……。
とはいえ、あれだけの高さから地面に叩け付けられているのだから、普通であれば無事ですむわけがない。
わたしは大丈夫でも、ソフィアさんには何らかの衝撃が伝わったのかもしれない。
そんなことを考えていると、エルフの男の人がこちらに駆け寄ってきた。
「聖エルフさまー、大丈夫ですか? ものすごい音がしましたけど……」
エルフさんは倒れているソフィアさんを驚いた顔でまじまじと見つめた。
そして、ソフィアさんの顔の前に手をかざして、しばらくのあいだ身じろぎひとつせず座り込んでいた。
――うーん、やっぱりどこか……。
エルフさんはゆっくりと立ち上がり、わたしを振り返ってこう言った。
「たぶん、寝てますね」
――えっ?
わたしは目をパチパチと瞬いて、エルフさんを見つめた。
「ほら、子どもが体力の限界まで遊んで、パターンって倒れて寝ちゃう事ってあるじゃないですか。あれですよ、たぶん……」
――あー、そう。なるほど、ここまでずっと飛んできたもんね。うん、こどもがね……。
ソフィアさんの無事が確認できたことで余裕ができたわたしは、はたとここにきた本来の目的に思いあたった。
「ん、そういえばフーゴさんはどこ?」
わたしはぴょんぴょんと飛び跳ねてあたりを見回した。
すると、すこし離れたところにある大きな木に体をあずけて、苦しそうな顔をしているフーゴさんの姿が目に飛び込んできた。
「ソフィアさんはまかせるね」
わたしはエルフさんに声をかけて、フーゴさんに向かって走った。
見るとフーゴさんから少し離れてはいるが、まわりには他にもエルフさんが三人いて、あたりを警戒するように目を走らせていた。
――そうか、毒狼がいるかもしれないのか。
思わず忍び足のようなぎこちない走り方になりながらも、わたしはなんとか転ぶことなくフーゴさんのところにたどり着いた。
フーゴさんは太ももを咬まれたようで、左脚の付け根のところを布でしばっていた。
「動いちゃだめだよ、フーゴさん」
わたしを見つけて立ち上がろうとしたフーゴさんを押しとどめ、毒狼に咬まれた傷口のちかくに手を当てて全身を盾で包んだ。
そして、盾で包んだフーゴさんの体の中に、わたしの境界をゆっくりと広げていった。
目を凝らし、フーゴさんの体の中の聖樹様の慈愛の流れを、傷口を中心に追っていく。
――うん? これかな?
うん? この傷口のまわりに広がっている、いかにも悪そうな色の聖樹様の慈愛かな?
ということは、毒の中にも聖樹様の慈愛が宿っているのか。
まあ、そうか。万物に宿っているのなら、毒の中にもいることになるのか。
意外にも感じるが、聖樹様の慈愛が宿っているのなら、毒であろうと取り除くことができるはずだ。
わたしはフーゴさんの全身を包んでいた盾を、ゆっくりと傷口に向けて小さくしていった。
そして毒を盾で囲み、すこしずつ引き寄せていき、両手ですくい取るように盾を引き上げた。
――よし、取れた! あとは傷を治せるか試してみるか。うーん、どうだろうねー。
ゆっくりと深呼吸をしながら、もういちどフーゴさんの全身を盾で包み、ゆっくりとわたしの境界を広げていった。
足の付け根の布をはずし、聖樹様の慈愛の流れを目で追った。
右脚と左脚の聖樹様の慈愛の流れを確認しながら、右脚の慈愛のあり様を真似て、左脚の慈愛を動かしていった。
「うぉ……おぅ……おお……」
突然、フーゴさんが何かに耐えているような声を絞り出した。
――あれ? さっきまでは何ともなかったのに……。うん? そういえばソフィアさんの肩こりをなおした時もこんな反応が。
すぐさまわたしの境界を左脚の傷のあたりだけに小さくして、フーゴさんの様子をうかがった。
――ん、普通の表情に戻ったね。うん、もうすこしだ。もうすこしで聖樹様の慈愛が左右の脚で同じになる。
「聖エルフ様、申し訳ございません。囲まれました」
――囲まれた? うん? よし、これでばっちり! 治ってるかな?
「よし! フーゴさん、これでどう?」
わたしはすっかりきれいになったフーゴさんの左脚と顔を交互に見ながら、達成感にあふれた笑顔を向けた。
「まことにありがとうございます、聖エルフ様。これならば存分に戦えます」
フーゴさんはすくっと立ち上がり、わたしを庇うかのように一歩前に出た。
他のエルフさんたちも、わたしといつの間にか運ばれてきたソフィアさんを中心にして、まわりを警戒するかのように身構えていた。
――あれ? なにかあったの?
そう思った時、わたしの視界の片隅で大人のエルフと同じぐらいの大きさはあろうかという、赤と黄色の縞模様のオオカミが牙をむいた。




