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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第一章 記憶を失くした聖エルフ
16/91

16 聖エルフ、仕事を探す

「んー、このたまご焼きおいしいー」


 ――たまごもいいし、味付けもわたし好みだし、最高だねー。


「おぉ、それはようございました。よかったらわたくしの分も召し上がってください」


 ソフィアさんがたまご焼きののったお皿をさしだしてくる。


「いいよ、他にもおいしそうなおかずがいっぱいだしね」


 ――焼き魚にお芋と豆の煮物、お肉、お漬物、山菜、お味噌汁に、あと丸くてぷにっとしたやつ。


「んー、このぷにっとしたのもおいしいねー」


 わたしはすっかりご機嫌で、次から次へと口に放り込んでいく。


「おぉ、それは昨日とったばかりですからな。ずいぶん大きな巣が見つかったらしく、五人がかりで掘り出したそうです」


 ――うん? 巣? 掘りだした?


「そうなんだ……これって、なんなの?」


 わたしは思わず箸をとめて、ソフィアさんに訊ねた。


「地蜂の蜂の子でございます、いっぱい取れましたから、よかったらもっとお召し上がりください」


 ――なんだ蜂の子か、よかった。掘り出したっていうから、ヘビかなんかかと思ったよ。


「ありがとうソフィアさん、でもこれだけあれば充分だよ」


 昨日の晩ごはんもおいしかったが、今日の朝ごはんもおいしすぎて目がウルウル潤んでくる。


 昨日も今日も、なんだかずっと涙腺がゆるみっぱなしのような気がする。


 さっきも、村長の心のこもったやさしい言葉に思わず涙がこぼれた。


 森で目が覚めてから出会ったエルフさんたちは、みんなやさしかった。


 きっと、わたしが聖エルフでなかったとしても、森の中で誰かが倒れてたら、みんなで心配して助けようとしてくれる人たちなのだ。


 それに、今のわたしに自力でできることなんてほとんど何もない。


 わたしにできることは、たぶん、誰かに助けを求めることなのだ。


 自分にできることは自分でやって、自分ができないことは助けてもらう、それでいいんだと思う。


 村長さんはそういったことを言いたかったんだと、勝手に思っておこう。


 ――それに、もう、ソフィアさんに命をあずけているわけだし……いいよね?


「そうだ、ソフィアさん、朝ごはんが終わったらわたしにもできる仕事をさせて」


 わたしは、さっそくソフィアさんに頼んでみた。


「聖エルフ様に仕事をさせるなどおそれ多い……」


 ソフィアさんは驚いたように、お椀を持ったまま固まった。


「でも、わたしもこの村においてもらってるんだから、なにか役に立たないと……みんなの肩こりをほぐすとか……」


 そこまで言って、わたしはふとアルの服の汚れをとった時のことを思い出した。


「ん……。そうだ、わたし、汚れものをきれいにすることができるかもしれない。ほら、さっきアルが木から落ちて泥だらけになってたでしょう。あれ、わたしが盾を使って汚れを払ったら、すっかりきれいになったんだよ。見てたよね、ソフィアさん」


 わたしはそう言って、ぐいっとソフィアさんの目を覗き込んだ。


「そういえば……。そうですな。たしかにアランは木から落ちて、服が泥と木の葉で汚れていましたし、顔にもすり傷ができて少し血がにじんでいましたな。それなのに家に帰る時には、そんなことをすっかり忘れるほどきれいでしたな」


 ――ああ、そういえば、ソフィアさんははきものを握り締めて天を仰いでたんだった。


「そうですな……。それでしたら、聖エルフ様の盾の練習ということで、なにかをきれいにできるかやっていただきましょう。父上、それでしたらよろしいでしょうか?」


 ソフィアさんが渋々といった口調で、村長さんに訊ねた。


「聖エルフ様のことは、すでにおまえに万事任せておる」


 村長さんがゆったりとうなずいて、お茶をすすった。


 ――やったよー! あとは自分にできる仕事を見つければ……。うん、そうと決まればさっそく。


 がぜんやる気を出したわたしは、残っている朝ごはんを一気にかきこんだ。


 ――じゃあ、まずは朝ごはんの片づけをしてっと……。うん? お皿洗いに盾を使えばピッカピカになるんじゃないかな?


 わたしはいまだにゆっくりとご飯を食べているみんなをちらちらと見ながら、お肉ののっていたお皿を手に取り、盾でおおっていく。


 手に取ったお皿をじっと見つめ、自分をおおっている盾をお皿の上にも広げたが、よく見るとお皿についている油汚れも一緒に盾につつまれていた。


 ――うん? これじゃ、だめだ。お皿だけを意識して包まないと。


 わたしは目に力を入れて、お皿をじっと見つめた。


 すると、お皿の中に含まれている聖樹様の慈愛が、ぼんやりと浮かび上がるように見えた。


 ――たぶんこの世界では、すべてに聖樹様の息吹が含まれているんだ。お皿にも、エルフにも、空気の中にも……。つまり、万物に神である聖樹様が宿ってるってこと?


 この微粒子のような聖樹様の慈愛を見分ければ、お皿と汚れの境界が分かると考えたわたしは、盾を動かしお皿だけを包み直した。


 ――よーし、これでどうだー!


 そう思った瞬間、お皿についていた油汚れが盾の上をつーっとすべり、わたしの膝の上にぽたっと垂れた。

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