14 聖エルフ、萌える
――あれ? ふたりともどうなってるの?
ソフィアさんははきものを胸に押し抱いて今にも泣き出しそうだし、アラン君は目をいっぱいに見開いて涙をこぼし続けていた。
――さっきまではとくに何事もなかったはずだ。
わたしにはわからない何かが、あったのだろうか?
うーん? と今までにおこったことを思い返していると、庭の向こうから村長さんが歩いてきた。
「これは、これは、もうお目覚めでございましたか、聖エルフ様」
村長さんはにこやかな笑顔を浮かべて、わたしに話しかけてきた。
――さすがは村長さん、わたし以外はまったく目に入っていないかのような立ち振る舞いだね。
「父上、聖エルフ様がわたくしにはきものをくださったのです」
ソフィアさんが村長さんに訴えかけるような声を上げた。
「そうか、よかったな。これからは聖エルフ様のために働きなさい」
村長さんはソフィアさんにおだやかな笑みを浮かべて応えた。
――あれ? なにかがわたしのあずかり知らないところで決まった気がするんだけど……
「ふつつかな娘ではございますが、聖エルフ様のために命を捨てることぐらいならできましょう。今日のよき日を迎え、ウルズの村長たるこのヨルゲン、この村に住まうすべての者になり代わり、御礼申し上げます」
村長さんは大きく腰を折り、なにやら祝辞みたいなものをはじめた。
――ちょーっとー! おかしなことになってるよー!
「ま、ま、待って! なんでそんなことになったの! よーく考えてみて!」
考えてみるのはわたしのほうかもしれないが、わたしにはさっぱり分からない以上、エルフさんたちに考えてもらうしかない。
「むむ……そういえば、聖エルフ様は記憶を失くしてらっしゃるのでしたな」
村長さんはあごに手をやり、考えこむように言った。
「しかしながら、はきものはもういただいてしまいましたので……」
ソフィアさんは上着を押し上げ、お腹のところにはきものを押し込みながら、村長さんに笑みを向けた。
「そうだな。頂戴したものをお返しするなどということはできんな」
村長さんはソフィアさんになにやらしたたかな笑みを返した。
「そういうことでございます、聖エルフ様」
――ちょ、ちょ、そういうことってどういうこと! 異文化ギャップ大きすぎ! そもそも、そのはきものはここに置いてあったもので、わたしのものじゃないし……
「そういえば、アランはなぜ泣いているのだ?」
村長さんはまるで今気が付いたかのように、ソフィアさんに尋ねた。
――あれ? 村長さん、わたしの質問はどうなったの?
「そうですな、なにがあったのだ、アラン?」
ソフィアさんは、まるで何事もなかったかのようにアラン君に問いかけた。
「……うっ、うっ、うぅ……おねえちゃんが……かみを……ぐっ、ぐずっ……」
アラン君は肩をふるわせ、鼻水をすすりあげながら、ぐっと唇をかみしめた。
「パウラが……どうしたのだ?」
ソフィアさんはアラン君に身を寄せて腰をかがめ、やさしく肩を抱いた。
「三か月ほど前でしたか、アランの家で火が出まして、姉が煙にまかれましてな……」
村長さんがわたしにそっと耳打ちしてくれる。
「おねえちゃんは……いつも……ぐずっ……ぼくのかみを……ぐっ……なおしてくれて……わらって、いって……くれるん……うぅっ……」
ソフィアさんはアラン君の頭を軽くなでた。
「そうか、パウラはアランのことが大好きだったからな」
アラン君は涙を浮かべた目でわたしをまっすぐ見つめたまま、こう言った。
「はい、きれいになったよ、アルって……」
そして、泣きながらも白い歯を見せて笑顔をつくった。
――そうか、さっきわたしがアラン君の髪をなおしてあげたから、亡くなったお姉さんを思い出して泣いてたんだね。
「やさしいお姉さんだったんだね」
わたしはそう声をかけて、アラン君の涙を聖エルフの盾でぬぐってあげた。
「パウラはちょうど背格好といい、年の頃といい、聖エルフ様と同じぐらいでしたからな」
村長さんがしみじみとした声で言った。
「そうですな、腰まで伸びた髪の毛も、思わずパウラを重ねてしまうのもわかりますな」
ソフィアさんもアラン君のお姉さんのことを思い出しているのか、目を細めてわたしを見つめていた。
「パウラさんっていくつだったの?」
わたしはすこし興味を引かれて尋ねてみた。
「おねえちゃんは十六歳でした……その……亡くなった時は……」
アラン君がすこし悲しそうに答えた。
――そうか、三か月前だもんね。思い出すのもつらいよね。
「アラン君はいくつなの?」
話しをかえようと今度はアラン君の年齢を聞いてみた。
「ぼくは十五歳です……今年で……」
アラン君は言いにくそうに、もじもじと答えた。
「アラン……今、なんのために、サバを読んだ」
ソフィアさんがアラン君の肩を抱いて引き寄せ、耳元でささやいた。
「ごめんなさい……つい……十二歳です……あ、でも、今年で十三歳です」
――村長さんとその娘がいるのに、サバ読んでばれないわけがない。
たぶん、男の子だから年上に見られたいんだね。
ふふっ、ますますかわいいね。
「あ、あの、聖エルフ様。ぼくのことは、さっきみたいにアルと呼んでくだされば……」
アラン君は勇気を振りしぼるかのように、両手を胸の前で組み、目をウルウルさせてそう言った。
――なに、この破壊力、かわいすぎる、胸がキューンとする。
うん? アル? たしかお姉さんがそう呼んでたんだっけ?
「うん、いいよ、じゃあ、わたしのことは……」
そう言って、わたしは自分の名前をまだ思い出していないことに気がついた。




