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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第一章 記憶を失くした聖エルフ
13/91

13 聖エルフ、驚愕する

「ところが、でございます。ある夏の日のことでございます」


 そこまで言って、ソフィアさんは音もなくすっと立ち上がると、庭の隅にある大きな木をいぶかしげに見上げた。


 ――えっ! まさか、ドラゴンが?


 ソフィアさんの話にすっかりのめり込んでいたわたしは、思わず縁側の上に立ちあがり、あたりを見まわした。


「何者だ! 隠れてないで出てこい!」


 ソフィアさんは木に向かって大声で叫んだ。


 とたんに、ガサガサッと大きく葉音をたてながら、エルフの子どもが木の上から落ちてきた。


 十二、三歳といったところだろうか、かわいらしいエルフの男の子が、今にも泣き出しそうな顔でお尻をさすっている。


「なんだ、アランか。何をしていたのだ?」


 ソフィアさんは大きく息を吐き出し、すこしあきれたような声を出した。


「ごめんなさい。……その、……ものすごく美しい聖エルフ様がいらっしゃったって聞いて、……その、どうしてもひとめ見たくて」


 男の子はくりっとした目をパチパチと瞬かせながら、こちらに向かって必死にあやまり始めた。


 ――も・の・す・ご・く・美しいって、わたしのこと!?


 そういえば、昨日は聖エルフ様、聖エルフ様と下にもおかない歓待を受けたけど、聖エルフとは関係ないところでほめられたのは初めてだ。


 うん、いい子だ。愛くるしい小さな顔に大きな瞳、きっと心もきれいにちがいない。だって、わたしのことをものすごく美しいって言ってるんだもの。まちがいない。


「アラン君っていうの?」


 こぼれ落ちそうになる笑みをなんとか抑えつつ、わたしはその男の子に話しかけた。


「あ、……は、は、はい、聖エルフ様」


 アラン君は顔を耳まで真っ赤に染めて、わたしの目をまっすぐに見つめた。


「すごい。髪だけじゃなく瞳も青いんですね。まるで、澄みわたった青空のように。想像してたよりもずっと美しくて……」


 アラン君がもじもじとそこまで言った時には、すでにソフィアさんが空を翔けて横に立っていた。


 そして、さらに話しを続けようとしたアラン君の口を手で押さえた。


「まさかとは思うが、わたくしより先に聖エルフ様に忠誠を捧げます、などと言いだすのではあるまいな」


 ――ちょ、ちょ、ちょっとー! いいところだったのに、なにしてるのー!


 そもそも、ソフィアさんはわたしに忠誠を捧げるなんて言ったことないじゃない。


 それに、アラン君だってわたしに忠誠を捧げようとしたわけではなく、たぶん、もっとほめてくれようとしただけだ。


「ソフィアさん、はだしで外に出ちゃダメじゃないの?」


 もっとほめて欲しかったのにと言うわけにもいかず、わたしはソフィアさんの足を指さした。


「おぉ、わたくしとしたことが、お恥ずかしい」


 わたしは縁側の下にあったはきものを突っ掛け、ソフィアさんの分も手に取った。


 こちらに走ってこようとするソフィアさんを手振りで押しとどめた。


「動くと、もっと足が汚れるよ」


 アラン君とソフィアさんのところに軽い足どりで近づく。


 ――ふふっ、やはり、アラン君は近くで見るともっとかわいい。


「はい、ソフィアさん」


 わたしはソフィアさんにはきものを手渡した。


「ははー、ありがたきしあわせでございます」


 ソフィアさんは、おおげさに両手を高く掲げてはきものを受け取ったが、わたしはアラン君の体についている葉っぱや泥が気になっていた。


 ――ああ、そうか、さっき木から落ちてきたときに汚れたんだ。


 わたしは聖エルフの盾でやさしく、アラン君の顔や服についた葉っぱや泥を払ってあげた。


 顔にすこしすり傷があったような気がしたが、泥を落とすとそのかわいい顔が傷ひとつなくあらわれた。


 服についていた泥や葉っぱもきれいに取れたところをみると、聖エルフの盾は汚れを取りきる力があるのかもしれない。


 仕上げに、あちらこちらにはねているくせっ毛を、手ですいてきれいに直してあげて、できあがりだ。


「うん、きれいになったね、アル」


 昨日のお風呂場での特訓で、聖エルフの盾の使い方もずいぶんうまくなった。


 自分で自分をほめてあげたいね、と満足感に浸っていると、突然ソフィアさんが感極まったような声を喉から絞り出した。


「わたくしの忠誠が一番に認められるとは、……わたくし、この命の続く限り聖エルフ様に誠心誠意、忠誠を尽くします」


 何事かとびっくりして目をやると、ソフィアさんが目を真っ赤にしてはきものを握り締めていた。


 ――いったい、どういうこと?


 わたしは思わず助言を求めて、アラン君に目を走らせた。


 するとそこには、あふれる涙をぬぐおうともせず立ちつくすアラン君の姿があった。

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