12 聖エルフ、乙女に学ぶ
「眉目秀麗な偉丈夫などといったありきたりな表現ではその尊いお姿のかけらも伝えることはできないほど見目秀でられた風の聖エルフ様はその聖樹様より賜ったすべてを薙ぎ払う力を――」
――でた、ソフィアさんの聖エルフ愛が!
「ちょっと、ちょっと、聞き取れない! 早すぎ、はやすぎー!」
わたしは大慌てで、ソフィアさんの話に割り込んだ。
「おっと、熱が入りすぎましたかな。我知らず、早口になっておりましたか」
どうやらソフィアさんは風の聖エルフが一番のお気に入りらしい。
神口の聖エルフについては、容姿どころか性別すら言わなかったのに、風の聖エルフの話となると、まずその外見から始めたところが、どこか恋する乙女を思わせる。
「それと、聖樹様が聖エルフ様をお遣わしくださったって言ってたけど、お遣わしくださったってどういうこと?」
ソフィアさんが一息ついたところで、わたしはこれまでの話の中で気になったところを確認しておくことにした。
神口の聖エルフもそうだったが、風の聖エルフも聖樹様が遣わしたと、ソフィアさんは言った。
それはあまりにも曖昧にすぎる。
「文字通り、お遣わしくださったのでございます」
――えーっと、答えになってないよね、それ。
「うーん、聖樹様がエルフの中からだれかを選んで聖エルフとしての力を与えたとか?」
――それとも、力を持ったエルフが成長して認められるとか?
「聖エルフ様は聖樹様の御子であらせられます」
――えっ? ミコ、つまり、こども? 植物から動物が生まれる? いや、聖樹様から生まれるから聖エルフ? いや、いや、ちがう。聖エルフが神様のこども? あれ? いや、神様がいるのなら、神様が聖エルフを創造するのはおかしくはない。うん? どこにわたしの考えの土台をもっていけばいいの?
「えーっと、……それはつまり、聖エルフはエルフではないってこと?」
ぐるぐる回る思考の渦から、わたしはなんとか言葉を絞り出した。
「さようでございます」
ソフィアさんは至極あたりまえといった表情でうなずいた。
――これは、……たぶん、つっこんではいけないところをつっこんだのだ。
ソフィアさんが話しているのは神話だ。
天地を創造したのは神様かもしれないし、万物には神様が宿っているかもしれないし、よくわからないことは神様がいろいろと関わっているにちがいない。
エルフにとってよくわからないことは、神である聖樹様のおかげなのだ。
聖樹様が『お遣わしくださった』とあれば、それは文字通り、『お遣わしくださった』のだ。
幼いふたりの子どもも神口の聖エルフも三日三晩ずっと聖樹様に祈り、四日目にその願いが聞き届けられた。
そういう昔のおとぎ話なのだ。
となると、よくわからないところは放っておいて、最後まで話を聞いた方がいいだろうと結論づけたわたしは、ソフィアさんに話の続きをしてもらうことにした。
「ソフィアさん、風の聖エルフ様はそんなにすごいの?」
風の聖エルフの話を振れば、ソフィアさんはすぐ食いついてくるはずだ。
「それはもう、その容姿、立ち振る舞いもさることながら、風の聖エルフ様を風の聖エルフ様たらしめているのは、聖樹様より賜ったすべてを薙ぎ払う力、すなわち比類なき強大な風の力にございます」
――ふふっ、さっそく食いついてきた、ソフィアさんの思考パターンがだんだんわかってきたぞ。
「われわれエルフも風の力を使い、獣を倒したり、壁として蹴ることで空を翔けることができますが、風の聖エルフ様は比べることも恐れおおいほどのお力をお持ちでございます」
ソフィアさんは両手を胸の前で組み、赤らめた顔で目を宙にさまよわせていた。
「その力は、硬い鱗におおわれたドラゴンの巨体を一撃で断ち切り、さらには空高く飛んでいる翼竜をも風の力で叩き落としたと伝えられております」
――それは、すごい。話半分としてもその力はすさまじい。
「風の聖エルフ様はそのお力をもってして、ドラゴンに滅ぼされた村を拠点とし、それまで立ち入ることのかなわなかったドラゴンのなわばり深くまで押し入り、そこに巣くう獣やドラゴンを一掃なさいました。このウルズ村も、かつてはドラゴンのなわばりであったのですが、この屋敷を拠点として風の聖エルフ様がドラゴンや獣どもを打ち払い、エルフの暮らす豊かな土地となったのでございます」
――なるほど、ソフィアさんが恋する乙女の目になるのもよく分かる。
つまり、この村は風の聖エルフがいなければ生まれなかったのだ。
わたしが聖エルフ様として敬われ、座布団をうずたかく積まれ崇め奉られているのは、風の聖エルフのおかげであるといっていいだろう。
「こうして、風の聖エルフ様に率いられたエルフの開拓団は、さらにいっそうエルフの生活圏を広げていきました。その時は、このままドラゴンを打ち倒し、かつてエルフの生存を脅かしていた獣どもを一掃できると思われておりました」
ソフィアさんはここまで話すと、深く息を吐き、その眉間にしわを寄せた。




