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さまよえる聖エルフ  作者: ハイエルフスキー
第一章 記憶を失くした聖エルフ
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10 聖エルフ、考える

 夜明けを告げるにわとりだろうか、けたたましい鳴き声があたりに響きわたった。


 わたしはぼんやりとした意識のなかで、重たいまぶたをなんとか持ち上げ、どうにか目を開けた。


 あたりは陽が昇る前のようで、障子を通して差し込む外の光もまだ薄暗い。


 もう少し眠ろうと掛けぶとんに潜り込もうとしたが、あいにくわたしの体の上に掛けぶとんはかかっていなかった。


 たしか、昨日の夜眠るときには掛けぶとんをかけて、ふとんにもぐりこんだと思ったのだけれど、どこにいったのだろうか。


 きっと寝ている間に蹴り飛ばしたのだろうと思い、ゴロゴロと転がって掛けぶとんを探した。


 ようやく部屋の隅に放り出されていた掛けぶとんを見つけ、わたしはふとんに入り直した。


 ――うーん、暖かくならないね。ん、そうか、聖エルフの盾のせいかな?


 そういえば、森の中で目を覚ました時も、寒さは感じなかった。


 おそらく、聖エルフの盾は外からの衝撃に対する防御だけではなく、温度や湿度といったものに対しても何らかの反応をしているのだろう。


 夜明け前の薄暗い時間なのだから、掛けぶとんなしで眠っていたら寒さを感じるはずだ。


 それなのに、掛けぶとんをかけていない状態とかけた状態で、とくに体感温度に変化はない。


 ――聖エルフの盾か……。


 考えなくてはならないことも、思い出さなくてはいけないことも、山積みだ。


 なぜ、わたしは山の中にはだかで転がっていたのか?


 なぜ、わたしは記憶を失くしているのか?


 本当にわたしは聖エルフなのか、いや、そもそもエルフなのか?


 わたしが考えている言語とソフィアさんたちの言葉がちがうのはなぜか?


 ――とりあえず、こんなところだろうか?


 記憶さえ取り戻せば、すべてに答えが出るのだろうか?


 すべてに答えが出れば、わたしは幸せになれるのだろうか?


 昨日、わたしは幸せだった。


 やさしいエルフさんたちに囲まれ、自然あふれる村で温泉につかり、おいしいご馳走を食べ、さすがは聖エルフ様とおだてられ。


 ――幸せすぎて、なんだか不安なのだ。


 ただ、考えている言葉が違うということは、すくなくともわたしはこの国のエルフではないということになる。


 外でけたたましく鳴いているにわとりみたいな鳥は、ソフィアさんたちの言葉ではシックリングだ。


 昨日、庭で見たかわいい豚たちは、たぶんグリースだ。


 わたしが思い浮かべるにわとりや豚とは姿かたちが少しちがうし、完全に一致するものは思い浮かばない。


 シックリングはにわとりより首が短くずんぐりしているし、グリースは豚よりもはるかに鼻が長い。


 この屋敷で飼われている動物の名前は分かるが、わたしの母国語ともいうべき思考言語にはそのような動物は存在しない。


 ――うーん、……えっとー、……つまりはどういうことだろう? むずかしいことを考えて、頭がプスプスいっているような気がする。


 わたしはゴロゴロとふとんの上を転げまわってみた。


 ――うーん、わからないね。うーん、……何を考えたかったのかもよくわからなくなってきた。


 たぶん、わたしは恐いのだ。


 やさしいエルフさんたちが、わたしが聖エルフではないと知ったら?


 ――期待を裏切りたくないの? そうなの? わからない。


 わたしは立ち上がり、障子をそっと開けて、隙間からつま先をすべらせて縁側に出た。


 ずいぶんと長い間考え込んでいたのだろうか、目が覚めた時には薄暗かったのに、空がほのかに明るんで夜が明け始めていた。


 わたしは縁側に腰をおろし、足をぶらぶらさせながら、朝の陽におおわれていく庭を見つめていた。


 ――今日が、……始まる。


 ぼんやりと、庭を視界に入れたまま、わたしはそっと溜めていた息を吐き出した。


「お目覚めになられましたか、聖エルフ様」


 気がつくとソフィアさんがわたしの横に、わたしと同じように縁側から足を出して座っていた。


「……たしか、……初めて会ったときもそう言ってたね、ソフィアさん」


 短く整えられた淡い緑の髪と瞳、そして、長く尖った耳。


「そういえば、そうでしたな」


 森にとけこむような緑と茶色を基調としたチュニックにズボンがよく似合っている。


「えーとね、……もし、ね、……もし……」


 朝の陽を浴びて庭の木々や緑が揺らめいて見えた。


「わたしが聖エルフじゃなかったらね、この村においてもらえないかな?」


 わたしは少し早口になりながら、なんとか言葉を絞り出した。


「ほら、わたし、肩こりも治せるし、力仕事は苦手かもしれないけどなにかできることを見つけて働くし……」


 ソフィアさんは不思議そうに、その淡い緑の瞳を瞬かせた。


「あなた様が聖エルフ様であることは、まちがいございませんが……」


「でも、聖エルフは聖エルフでもどこか他のところの聖エルフかもしれないし。……そうだ、遠い海の向こうの知らない場所の普通のエルフかもしれない」


 わたしは、ふと思いついたことを言ってみた。


「ふーむ、……遠い海の向こうですか……」


 ソフィアさんはわたしの言葉に、遠くを見つめるかのような目で考え込んだ。


 ――うん? あるの?


「よろしいですよ」


 ソフィアさんはニコッと笑って言った。


「ただ、今現在イザヴェルにいらっしゃる雨の聖エルフ様と雲の聖エルフ様に使いを出して指示を仰いでいますので、その返書が来てからまたゆっくり考えましょう」

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