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魔法使いとして仲間になりました

よし、こうしよう。

まずユリウスに適当な魔物と何度か戦ってもらう。

そして手に入れた剣がただの剣でしかないことを自覚させる。

いい加減、何度も戦っていればただの剣であると気づくだろう。


森を抜ける直前で、人喰い狒々にまた遭遇した。

先程のやつよりも更に大型の個体だ。

腹が減っているらしく涎を垂らしながら歯をむき出しにしてこちらを威嚇してくる。


「むっ敵か。早速この聖剣の力を試すとき……ぐはっ」


ユリウスは無謀にも敵に突進して、即返り討ちにあう。

人喰い狒々の逞しい腕が伸び、拳が腹にめり込んでいる。

弱いなおい。

大体、お前さっきも同じ相手にやられてたんだろ。

自分が勝てる相手かどうか見定めてから行動した方がいいぞ。


「『茨の雷』」


俺は適当に弱めの魔法を行使する。


地面から無数の植物の根に似た電撃がにゅるにゅる伸びてきて、人喰い狒々を縛り付ける。狒々はガクガクと身体を震わせた後、白目を剥いて泡を吐き始めた。

取り敢えずちょっと弱らせるつもりだったのに加減が難しいな。


「ナイスアシストだ魔法使い君」


回復速いなおい。

ユリウスは血塗れの泥まみれになってはいたがもう動けるらしく、再び剣を構えだした。

あまり強くはないが意外に打たれ強いようだ。


「喰らえ超技、狒々殺し!」


哀れ拘束された狒々はユリウスによってぼこすかと殴られまくって、意識を失った。

それただ殴ってるだけだろ。


「ふうこれが聖剣の力か……」


全然違う。


困ったな。大失敗だ。

普通に戦わせたら死んじゃうだろうなと思い、手を加えたのだが逆効果だったようだ。

だが何かよりいっそう銅剣に対しての信頼を深めている。



森を抜けると、平原に出た。

この辺りにくると人喰い狒々は出ない。

代わりに別種の魔物たちが生態系を築いており比較的弱い奴もいるので、そこらへんでうまいこと作戦を成功させよう。


そう思っていると、好都合にも現れるゴブリンが三匹。

棍棒や短刀を持った連中だ。


「アルカリ、ここは僕に任せたまえ」

「ああうん」


この流れだと余裕で勝ててしまうかもしれないな。

正直、ゴブリンは弱い魔物だ。

これくらいが相手なら、俺が五歳くらいには護身術の一環として、目隠しをしながら片手で戦ったものである。

だが――。


「わっ。ちょっ待ちたまえ」

「嘘だろ」

「クソ、多勢に無勢とはあまりにも卑怯っ」

「まじか」


事態が思わぬことになっている。

ユリウスはゴブリンたちに取り囲まれて、一方的に攻撃を受けている状態だ。手も足もでないらしい。


「ヘルプ。魔法使い君ヘルプ」


手を伸ばしてこちらに向かって何か叫んでいる。


何というか思っていた以上に弱すぎるだろ勇者様。

お前が戦おうとしている魔王は何者なんだ。昆虫か何かなのか。


「いや……だがこれは聖剣に対しての信頼を失わさせるチャンス」

「おい。聞いているのか。なあ魔法使い君」

「大丈夫です。貴方には聖剣があるじゃないですか。余裕ですよ」

「そっ……そうか!」


ユリウスが気を取り直したように剣を構えた。

「覚悟しろ」と叫びながら、改めてゴブリンどもに向かって駆けていくが気分だけではどうにかなるわけでもなく、あえなく返り討ち。

もうちょい頑張れよ。


「ま……魔法使い君……ヘルプ……」

「聖剣の力はどうした?」

「百ゴールド出そう」

「仕方ない」


いや決して金に釣られたわけではないよ。

これ以上、放っておくも危険そうだし大体、このまま本当に死んでしまうったら本末転倒だからな。


「『最上級雷呪文』」


俺の指先から紫電が迸る。

放たれた稲妻がゴブリンたちのなかへと吸い込まれ、爆発。


「ぎゃあああああ」


あ。巻き込んじゃった。

すまんすまん。

いつも単独で戦ってたからこういうの慣れてないんだ。

殺しちゃったかな……。大丈夫だろうか。



だが感心なことにユリウスは生きていた。


人喰い狒々が黒こげになった一撃を受けても、尚、煤だらけでアフロヘアになっただけで笑いながら立ち上がったのだ。

何というか弱いくせに打たれ強さだけは驚異的だ。


「ナイスアシスト」

何故か彼はこちらに白い歯を見せて親指を立てている。


「僕が敵を引きつけている間に、君が攻撃呪文で一掃する。完璧な連携プレーだ」

「お、おう」


まあお前がいいなら、それでいいんだが。


「ところで勇者」

「何だい?」

「手に入れた聖剣がまるで役に立ってないようですね? まるでただの銅剣じゃないですか?」


ユリウスはやれやれと言った具合に肩をすくめる。


「ここぞという時に輝いてこその聖剣だよ。こんなにありきたりな戦いで真の力を発揮するわけがないだろう?」


ありきたりな戦いで死にかけていた奴は誰だ。

大体、本当に有能な剣なら、平時から活躍してみせるべきではないのかと、色々突っ込みたくなるのを堪える。


「いやあ、この聖剣が真価を発揮する時が楽しみで溜まらないよ。はっはっはっ」

「はあ……」


成程、よし分かった。

お前がそういうつもりであれば俺は俺で頑張ろう。



それから実に三十五回程、戦闘を繰り返した。

道に迷ったふり、近道と称して遠回り、あまつさえ魔物の巣窟にうっかり踏み入れたふりを駆使して、魔物との遭遇を積極的に行なった結果である。


その結果、ユリウスについて分かったことは三つ。


まずとんでもなく弱いという事。

この近辺で最弱の魔物であるスライムにすら苦戦していたのだから、相当な弱さだろう。


それからタフだという事。

どれだけ魔物の攻撃を食らっても、どれだけ俺が背後からうっかり攻撃魔法を使っても、吃驚するほどピンピンしている

寧ろ、後ろで色々画策していた俺の方が疲れてしまっている始末だ。


最後にとんでもない馬鹿だという事。

どれだけ苦境に立たせようが聖剣の力を欠片も疑わない。

それどころかその信頼は戦闘を終える事に増していくようで、挙句剣に名前までつける始末だ。


「いやあこれまでは一人旅だったけど、仲間がいると楽しいねえ」


ユリウスが愉快そうに話しかけてくる。

何故、あれだけ死にかけているのにピンピンしているのだろう。

絶対におかしい。


「……分かった今日のところは俺の負けだ」

「うん。何の話だい?」

「いやこちらの話だ。これからパーティーとして仲良くやっていこう」


俺は手を差し出した。

それから握手を交わす。


いいかよく聞け偽勇者と、心のなかで語りかける。


これから俺は魔法使いとして陰ながら、意地でもお前の足を引っ張り、生かさず殺さず戦わせて、いつか絶対にその剣をただの剣であることを遠回しに認めさせてやるつもりだから覚悟しておけ。


「よろしく頼むよユリウス」

「こちらこそアルカリ」


こうして俺のよく分からない旅が始まった。

とりあえずここまで。

また気が向いたら続きを書く予定です。

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