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遺品が色々見つかりました

「まあ突然、勇者と言われて驚くのも無理はないかもしれない。だが安心して欲しい。僕はこの称号をかさに着て君たち下々の者を見下したりはしないのだからさ」

「めちゃくちゃ見下してきてるけどな」


本当に面倒なやつに出くわしてしまったようだ。

まさか勇者だと言われた翌日に、勇者を自称する輩に遭遇するなんて想像もつかなかった。

ヨノナカッテヒロイナー。


だがそもそも目の前にいる軽薄格好つけ野郎は本当に勇者なのだろうか。


「なああんたが勇者だという証拠を見せてくれないか?」

「……証拠?」

「ああそうだ」

「ふっふっふ……ならばこれを見るがいい」


軽薄野郎は笑みを浮かべながら懐から、一冊の本を取りだした。

古びた本だ。

それが一体何なのだろうか。


「君にだけ特別に教えてあげてしまうけど、こいつは先代勇者の持ち物なのだよ」

「はあ?」


それってもしかして俺の親の遺品か。

何でこいつそんなものを持っているんだ。


競売オークションで落とした」

「おい」

「お陰でこれまでに貯めていたお小遣いの半分を失ってしまったが良い買い物をしたと今でも思っているよ」


というかよく見ると『日記』って書いてあるじゃないか。

色々不味い気がするぞ。もしかして恥ずかしいポエムとか書いてあるんじゃないのか。大丈夫か。


「これには勇者が挑んだダンジョンやクエストなどの攻略の様子が時系列で書いてあるんだ。勿論、それ以外にも外からでは決してうかかがい知ることのできない苦心や、仲間たちとのささやかな心の交流、淡い恋模様が――どうしたんだ悶えたりして?」

「……」


うん。それ完全に人に見せちゃ不味いやつだ。

親の恋心とか知りたくないし知られたくないよ。

誰だよ売ったやつ。


まあいい。平常心平常心。

正直なところ、俺は親の顔など知らないのだから赤の他人のようなものだ。そんなやつが何をして、何を考え、何を想っていたかなどどうだっていいのだ。


「……それで、そいつを持っていてもあんたが勇者である証明にはならないんじゃないのか?」

「まあそうだ。だがね、これにはある情報が載っているんだ。勇者は旅の終わりに、自らの持っていた聖剣をこの迷いの森の奥深くに封印したと記されている。おそらくはいつかくる魔王の復活を予見していたのだろうべ」

「それがどうした?」

「分からないか? この地には聖剣が眠っているんだ。勇者の剣だ。つまりそれを手にした者こそ紛れもない勇者の後継者であるということ」

「いや結局、あんたが勇者である証明にはならないじゃないか」


つまりこいつは口だけの自称勇者といったところなのだろう。

何だ。勇者って何人もいるのかと思って驚いてしまい損してな。


だが軽薄野郎はそれでもめげることなく反り返ってみせるとこう言った。


「見ていればいい剣は僕が手に入れる。僕は僕自身が紛れもなく勇者だと確信している。そしてその確信は間もなく、揺るぎない事実になるだろう」


大した自信家だな。

まあいい頑張ってくれ、俺は俺の旅を続けるために先を急ぐことにしよう。

それじゃあな。



……というわけにいかなくなってしまった。

これは不味いかもしれない。

いや非常に不味い。不味いったら不味い状況だ。

これからの展開が目に浮かんできて仕方がない。


「何だ。結局、ついてくるのか?」

「……」

「成る程、我が軍門に下る決心がついたようだね。良いとも良いとも。どうやら君は優秀な魔法使いのようだ。特別に三食昼寝付きの待遇を用意しようじゃないか」

「いやそうじゃない……」

「おお。紛れもなくここがかの聖剣が眠る場所。君は運がいいぞ。僕が勇者となる決定的瞬間に立ち会えるのだからな」

「……話を」


たどり着いたのは森の奥、薔薇の茂みをかき分けた先にある開けた場所だ。

ここだけは木々がない。代わりに日差しの降り注いだ芝生の中心には台座があり、そこの剣が突き刺さっている。


「おおあれは紛れもなく聖剣ではないか。この手記の記述は本物だった」

「いやその」

「さあ早速、剣を抜こう」

「ちょっと聞いてくれ」

「ぐぬぬぬぬぬ。結構やるな。だが負けんぞおおおおおおおおおおおおお」

「そいつは……」


駄目だ。

聖剣に夢中になって聞く耳がない。


説明しておくと俺にとってこの迷いの森は庭のようなものだ。

だからこの場所にも何度も足を運んでいる。

勿論、剣が存在していることも知っている。

何故ならあれは俺が用意したものだからだ。


五歳くらいの時だった。

いつものように探検と称してこの森を歩き回り、俺はここである剣を見つけた。

勿論、それが聖剣かどうか何て知らないまま悪戯半分に抜き放とうと試みた。

結果、抜くことができた。

だが折れたのだ。

あまりにも力を込め過ぎた為だろう、剣身はぽきりと真っ二つになってしまった。


多分、怒られる。

当時の俺はそう思った。

そして悩みに悩んだ挙げ句、工作を施すことにした。

まず隣町まで行き、武器屋で適当な代用品を買った。それから柄だけをすり替えて、元通りであるかのようにしておいたのだ。

すなわち――。


「やったああああああああああああ!」


軽薄野郎が叫んでいる。

万感の思いで錆びた剣を掲げていた。


「僕が勇者だあああああああああああ!」

「ああ何てこった……」


面倒なことになってしまった。

申し訳ないことをしてしまったとも思う。

俺は呻きながら目眩がしそうになるのを堪えた。


すまない。

それはただの銅剣なんだ。

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