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実は、勇者っぽいんだけど

――拝啓、俺を捨てた顔も知らない親へ。

お元気ですか。

俺はまあ元気です。

相変わらず孤児院での暮らしは慌ただしいけれど、充実した日々を過ごしていると思います。


ところで質問があるのですが、貴方が勇者ってどういうことでしょう?

何故、僕が魔王を倒さないといけないのでしょうか?

初耳です。どうか教えて下さい。



十三歳の時だ。

突然、自分が勇者の家系にあると知らされた。


それまでの俺は天涯孤独の孤児院の暮らしだった。


教会付属の建物でひとりぼっち。

まあ三食昼寝付きで、修道長のばあさんが親代わりだったし、尼さんたちが世話をしてくれて勉強も教えてくれるので、何不自由ない生活ではあった。

寧ろ、幸せだった。


でもある日、司教のやつがやってきておれにこう言ってきた。


「これアルカリ君」

「はあ」

「お前の先代である勇者は自らの命と引き換えに魔王を封印したわけなのだが――」

「うん?」


今、さらっと重要な事を吐きやがった。

わけだがじゃない。

そんな話は十三年間、生きてきたけど初耳だからな。


「なのだが此度、魔王が復活したそうなのでちょっと討伐に行ってきなさい」

「いや、お使いに行ってきなさいのニュアンスで言われても」


そもそも魔王ってなんだよ。

魔物を統べる王だろ。

お伽話でしか聞いたことないような存在じゃないか。


「大丈夫です」

「根拠は?」

「備えあれば憂いなし。教育は十二分に施しました」


司教はににこにこ笑みを浮かべている。

すでに四十年以上生きているくせに、見た目は二十代そこそこにしか見えないこの化物。

いつも柔らかそうな外面をしながら、頭のなかではろくでもない陰謀を張り巡らせている腹黒なのだ。

だから『備えあれば憂いなし』と口にした時は大体、ろくでもないことが起きる。

今度は何をしやがったのか。


「……教育とはどういう意味ですか?」

「貴方には義務教育と称して、たっぷりと訓練を積ませました」

「……うん?」


「例えば護衛術と称して仕込んだのは、暗殺者としての修練です」

「へ?」


「例えば魔術の基礎勉強と称して仕込んだのは、王国の宮廷魔術師としての修練です」

「え?」


「例えばお祈りと称して仕込んだのは、司教級の祈祷術です」

「ちょっ……」


「他にもそれなりの技能を与えてきましたので、貴方はどこに出しても恥ずかしくない勇者です」


俺は話についていけず暫し、完全に思考停止に陥った。

なんだか目眩がしてくるので頭を押さえながら尋ねる。


「あの……ちょっと待って下さい」

「何でしょう?」

「護身術って、歩き方の速度に緩急をつけて残影を残したり、両手両足が縛られた状態でも関節を外して脱出したりするあれですよね?」

「ええ」


「魔術の基礎勉強って、五本の指先毎に違う属性の魔術を宿したり、右手と左手で属性の違う魔術を掛け合わせたりするあれですよね?」

「ええ」


「お祈りって、御飯食べる前に教会を敷地ごと祝福させたり、夜寝る前に怨霊レイスたちを墓地の敷地ごと浄化させたりするあれですよね?」

「ええ」


司教がにこにこと満足そうに頷いている。


「何だ。それならいつもやっている事じゃないですか。これくらいなら誰でも普通にできますよね。いやあ急にとち狂った事を言い出すのかと思ったら何だと思ったら、ただの冗談か。……ふう。」

「いいですかアルス君、よく聞いて下さい」


司教が一瞬だけ真剣な顔になっておれの肩に手を置いた。


「普通の人間にそんなことできるわけないじゃないですか」


それから彼はにやりと嘲りの笑みを浮かべてくる。

その顔は『お前は本当に馬鹿だなあ』と語っていた。


「……あはは」


……殴りたい!

今この男を、気が済むまで殴り続けたいと思った。


「というかどうなってるんですか? 俺に勉強を教えてくれた尼さんたちはどこにいるです? まずこの状況を説明して欲して下さい。親が勇者っってどういうことですか? 俺、橋の下で拾われたんじゃなかったの?」


頼む。誰でもいいから説明して下さい。

だがそんな思いを無視するかのように教会はしーんと静まり返っている。


「まあ、あきらめなさい」

「……」


ふざけんな!

畜生グレてやる!


……というわけで俺はよく分からないままに魔王退治の旅に出ることにした。

もとい、家出することを決意した。

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