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七不思議との邂逅

心霊探偵その怨み移しますの連載番です

 これも普段の行いの悪さの所偽なんだろうか。満点の星空の元でのドライブ、助手席に座っているのはうら若き乙女。条件だけ聞けば、誰もが羨むシチュエーションかも知れない。


「いやー、やっぱり持つべきは頼りに成る叔父さんだね」

 座っているのが小生意気な姪でなかったら、俺も喜んでいたと思う。しかも、俺は久し振りに取れた連休を利用しての里帰りの最中なのである。本当なら今ごろはお袋の味とキンキンに冷えたビールを堪能してる予定だった筈なんだけど…。


「久し振りに里帰りした叔父を、パシリに使う姪なんて遠慮したいんだけどな」

 こいつの名前は細井瑠花。俺の兄貴の娘で中学二年生。学校に忘れ物をしたらしく、部屋で一休みしてた俺を見つけて運転手(パシリ)兼ボディーガードに任命しやがったのだ。

 

「いいじゃん。現役JCが乗って車も喜んでると思うよ。小次郎叔父さんの知り合いが見たらビックリするんじゃない?細井にあんなに若くて可愛い彼女がいるんなて信じられないって…むしろ、お小遣い案件だと思うな」


「俺の知り合いには、警察官もいるんだぞ。有らぬ疑いを掛けられちまうよ」

 このご時世、未成年の異性を乗せてのドライブは職質の危険が付き纏う。特に俺みたくゴツいいおっさんが中学生の女の子を乗せてたら危険が倍増する。


「大丈夫。クラスの子にお巡りさんと、ドライブデートをしてお小遣いをもらってる子もいるし」

 俺はその警官の事を軽蔑はしない。俺は他人の性癖をとやかく言える程の聖人君子じゃないのだ。短いスカートを履いた女の子がいれば思わずチラ見してしまうし、大人の店のお世話にもなっている。


「ある意味凄い度胸だよな…しかし、時代も変わったもんだな」

 俺が中坊の時なんて、大人が怖くて仕方なかったんだけど。


「そう言えば小次郎叔父さんも、私の中学を卒業したんだよね?」

 

「そりゃ、同じ家に住んでたからな」

 つまり今向かっているのは、俺の母校でもある訳だ。


「小次郎叔父さんの頃にも、学校に七不思議ってあった?」

 どうして素人さんは、身を守る手立てを持たない癖に、心霊話が好きなんだうか?興味を持つのは構わないが、自分のケツは自分で拭いて欲しい…そんな事になったら、おまんまの食い上げになっちまうけど。


「一つ目、夜中に勝手に鳴るピアノ。二つ目、誰もいないのにノックされるトイレ。三つ目、目が動く音楽室の肖像画。四つ目、窓の外に浮かぶ生首。五つ目、増える階段。六つ目、理科室の人体模型が校内を徘徊する。七つ目、死ぬ姿が写る鏡だろ?」

 どれも怪談から派生した様な眉唾物な話ばかりである。だから、生意気だけど可愛い姪っ子を夜中の学校に連れて行くんだけど。


「小次郎君、時代は変わってるんだよ。今はね学校の七不思議ベストセブンってのがあるの。関東近郊の学校に伝わってる七不思議のうち、リアルなやつを七つ選び出したの学校の七不思議ベストセブン。その中にうちの中学もあるんだ。誰もいない教室なのに、女生徒が言い争う声が聞こえるらしいよ」

 瑠花はわざわざ声を低くして、どや顔で説明してくれた。瑠花の先輩の友達が、遅くまで教室に残っていた時に女の子がケンカする声を聞いたそうだ。

 

「柳も幽霊じゃないが、ビビってたから犬の遠吠えかなんかを聞き間違えたんだろ?」

(まずいな…内容が具体的過ぎる。それにあの事件と重なるな…一応、あれを持ってくか)

 瑠花になにかあったら親父や兄貴に申し訳がたたない。それに俺は身を守る手立てを持っている。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 母校は闇の中にひっそりと佇んでいた。昼間なら学生の声で賑かなんだろうけど、生憎いま夜中の10時。聞こえてくるのは、虫の音と時折通る車のエンジン音位である。

 そして俺の可愛い姪っ子はと言うと…


「ちょ…ちょと、待ってよ。小次郎叔父さん、置いてかないでよ」

 さっきまでの小生意気な口は消し飛び、ブルブルと震えていた。


「叔父さんの喉はもうカラカラで一刻も早くビールを欲しがっています。さっさと忘れ物を取って帰るぞ

 それに丑三つ時を迎えれば厄介な奴が出てくるかも知れない。いくらネットで七不思議を調べていても、本物の幽霊をみたらトラウマになるだろう。


「小次郎叔父さんは怖くないの?」


「仕事で慣れてるからな」

 面倒臭いが怖くはない。それに俺の仕事は、これ位でビビっていたら商売にならないのだ。


「うー、探偵って凄いね」

 確かに俺の職業は探偵だ。探偵と言ってもドラマの様な、ハードボイルドな物ではなく、浮気調査やペット探しが主な便利屋みたいな探偵である…少しばかり特殊な依頼も受け付けているけど。


「探偵じゃなく、大人だからだよ。瑠花がいないと、不審者扱いになるだろ?ほれ、行くぞ」


「待ってよ、小次郎叔父さん、お願い手を繋いで…そのファイルはなに?」

 瑠花は俺と手を繋いで安心したのか、俺が一冊のファイルを抱えている事に漸く気付いた。


「保険だよ、保険…さあ、行くぞ」

 ファイルの正体を教えたら、間違いなく瑠花は泣き喚くだろう。そうしたら俺のビールが遠退いてしまう…何より、世の中には知らない方が良い事もある。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 カツカツ、静寂に包まれた廊下に二人の足音だけが響く。不思議と言うか薄情な物で、久し振りの母校だと言うのに何の感慨も湧かない。中学の時の俺は今とは違い背も低く、体も細かった。小次郎の名に相応しいひ弱な少年。そらが今じゃ身長は180を越え体もゴツく、同僚うからは詐欺呼ばわりされている。


「だ、誰もいない学校って恐いね…」

  さっきから瑠花には見えない人達と何回もすれ違っているんだけど、敢えて言わないのが叔父の優しさなのだ。俺は無害な霊の存在を教えて、可愛い姪を脅かす程悪趣味じゃない。何より無害な霊を刺激するのは、馬鹿のする事だ。


「瑠花、お前の教室はどこだ?」


「2、2ーC…こじおじ、歩くの早いっ」

 こじおじ、瑠花は小さい頃、俺の事をそう呼んでいた。小学四年生の時に“もう子供じゃないから、きちんと小次郎叔父さんって呼ぶ“とか言い出したが、それを忘れる位にテンパっている様だ。


「俺と同じクラスか…」


「こじおじ、今の間はなに?」

 俺のクラスで立て続けに、二人の自殺者が出ただけである…しかも二人とも教室で自殺をしたのだ。この話は瑠花が卒業してから教えるとしよう。

 一人目は、姫王紗輝。姫王は成績優秀でテニス部の部長、しかも美少女で所謂学校のマドンナだった。何の悩みもコンプレックスもない姫王が教室で首を吊って自殺をしたのだ。

 そして二人目は日山明実。明実は陸上部のエースでボーイッシュな僕っ娘。さっぱりした明るい性格で、皆から慕われていた。明実は、姫王の死から丁度一週間後、教室の窓から飛び降り自殺をしたのだ。ちなみに明実は俺の幼馴染みでもある。

 そして何人かが聞いたという、言い争う少女の声…嫌な予感がして来た。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 教室に着くとホッとしたのか、瑠花は俺と手を離して、机に駆け寄って行った。月明かりもなく、真っ暗な教室だが、案外平気な様だ。


「あった、あった。さっ、小次郎叔父さん帰ろ」

 

「寂しい…先生」「帰りたい…家に帰りたい」

 聞こえてきたのは俺の声でも瑠花の声でもない哀しく寂し気な声。


「…あれ、こじおじ、なにか言った?」

 不味い、どうやら瑠花も二人の声を聞いてしまった様だ。何より、この気配はあまり良い物じゃない。


「紗輝、もう僕を帰してよ」


「寂しいの、一緒にいて」

 それは間違いなく明実と姫王の声。二人のか細い声が教室に響く。


「瑠花っ‼こっちに来い」

  二人とも死に囚われているから、小声で呼べば俺達に気付かない筈。

 しかし、最悪な事に教室に月明かりが差し込み、二人の姿を浮かび上がらせた。


「い…嫌っー‼」

 教室に瑠花の絶叫が響く…無理もない、姫王の顔はぶっくりと膨れ首には古びた縄が巻き付いているし、明実の顔の半分は砕けていた。それは二人が死んだ時の姿。


「誰?誰でも良いわ。貴方達も仲間になりましょ」

 姫王が首の縄を引き摺りながら近付いて来る。その目は澱んだ水の様に濁っていていた。


「やだ‼やだ、やだ。嫌だー」

 瑠花は恐怖の余り、大粒の涙を溢していた…本当なら、ただ働きはしない主義なんだが。


「瑠花、俺の背中に隠れてろ」

 瑠花を背中に庇いながら、ファイルに手を伸ばす。


「こじおじ、お経でも唱えるの?」


「坊主でも神主でねえ俺のお経なんざ、何の効果もねえよ…俺に出来るのは、紙に怨念や後悔の念を移すだけだっ‼」

 白紙の紙を姫王に向かって投げ付ける。紙は姫王に貼り付くと、インクを吸いとるかの様に、ジワジワと姫王を飲み込んでいく。


「やめて、お腹の子が…先生の子が…ずっと一緒にいるって言ったのに…死さえも二人を引き裂けないって…」

 そして紙はバサリと音をたてて教室の床に落ちた。白紙だった紙には膨れた顔をした姫王が写っている。


「さてと、これでお前を縛る奴はいなくなった。明実、早く逝け」


「貴方は誰?僕はどこに行けば良いの?」

 分からなくても仕方ない。明実の中での俺は背の小さなひ弱な少年。何より明実は自分が死んでから、20年近い歳月が経った事を知らない。


「仕方ない。しばらく、この中で休んでろ」

 そして明実も紙の中に姿を消した。教室に再び静寂が訪れた。


「こじおじ…何をしたの?」


「二人の怨念や無念を紙に移したんだよ。死者は、この世に未練を残したままじゃ成仏出来ない。だから二人の魂から念を移しとったのさ」

 徳の高い坊さんや偉い神主なら魂を彼岸に導けるんだろうが、俺は普通に人間だ。死者や人様に説教出来る資格なんてない。


「なんで、あの人達は成仏出来なかったの?二人とも凄く哀しそうだった」


「明実は姫王に取り憑かれていたのさ。姫王は…そう言う事か」

 姫王を移した紙に手を当てると、彼女の無念が伝わってきた。


(姫王を放っておいたら田代に叱られるし、紙も勿体無い…動くか)


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 姫王はテニス部の顧問の子供を身籠っていた。しかし、既に婚約が決まっていた顧問は、姫王を手酷く振ったらしい。そして傷心の姫王は自殺。しかし、姫王は寂しさと後悔の念を抱え成仏できずに明実に取り憑き自殺へと導いた。

 姫王が最後の残した“死さえも二人を引き裂けない”それはテニス部の顧問が姫王を口説く時に使った口説き文句らしい。


「間違いありませんね。元テニス部顧問佐川教諭…今は佐川教頭でしたっけ?」

 俺が佐川を呼び出したのは、姫王達が眠る墓場。ここなら人目につかないから、佐川にも俺にも都合が良い。


「細井だったか?いきなり呼び出して、何を言うかと思えば…金が欲しいのか?」

 佐川は教育熱心な先生として父母の評判は良いらしい。しかし生徒からは、セクハラ教頭と呼ばれ嫌われているそうだ。以上、細井調査員の調査結果。


「自分のした事を公表して罪を償って下さい。そして姫王と明実に謝ってもらえますか?」


「馬鹿馬鹿しい。余りしつこいと訴えるぞ」


「それでは貴方に怨念を移させてもらいます…大人なんだから、きちんと責任をとって姫王と一緒になってやれ」

 俺は姫王を封じた紙を佐川の額に張り付けた。


「嬉しい、先生だ。ねえ、また抱いて…ほら、この子が二人の赤ちゃん」

 死んだ姿のままの姫王が、佐川に纏わりつく。姫王のそう言うと佐川に小さな何かを手渡した。それは小さな胎児、胎児は佐川の腕をゆっくり這い上がっていく。


「ヒ、ヒィイ…おい、細井助けてくれ」


「先生なんだから、責任をとって姫王と一緒にいてやって下さい…貴方が言ったんですよ。死さえも二人を引き裂けないって。その言葉守ってもらいます」

 背後では佐川の絶叫だけが響いてた。俺は坊主でも退魔師でもない。俺に出来るのは、成仏出来ない霊の怨みを誰かに移すだけである。

 死者が成仏出来ない理由は、生者にあるのだから。

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