伍 -4
双葉は体の半分以上がなくなっていた。意識があるのは、傍のロキのせいだとわかっていた。彼は、必死に双葉をたべていた。
謝りもしない。
いや、まあ謝るような状態でもないけれど。
心臓の脈打つ力が、もうない。止まってもおかしいのに、止まらないのは……おそらく、リラのせいだ。彼女がなにか、すごい大怪我なのに呟いている。
みんなが必死に生かそうとしてくれる。
セイロンはどうなったのだろうかと思ったが、視界に見えないので……彼は死んだのかもしれない。
二人ともすごい怪我だ。双葉は、笑いそうになってしまう。
ああ、なんていう世界だろうか。やはり一般人の自分には、入り込めない場所だ。
「もう、もう無理ですわ、ロキ……」
「無理じゃねえ! 双葉! しっかりしろ!」
無理に決まっている。だって、鼓動が…………止まった。
どん、とロキが必死に心臓の部位を強く拳で叩いた。だが出血の量がひどすぎる。
ロキは泣いていた。
双葉はひどい状態だった。ここの誰よりも。次にひどいのはセイロンだ。
生きていたのが不思議なくらいの傷だったのだ。リラの力も尽きたようで、彼女の魂を繋ぎとめるすべはない。
感情をどれだけ食べて痛覚を消しても、双葉はもう、無理だった。
だが。
それを許さない者が現れたのだ。
「娘を死なせたな?」
ロキとリラはゾッとして、動きを停止した。涙が止まらないロキと、ただの恐怖で青ざめるリラと。
ゆっくりと近づいてくるカムイは力を使いきったわけでもないし、五体満足というわけでもなかった。だが両足があって、こちらに向かってきている。
ころされる、と二人は思った。
カムイはじっくりと二人を見遣り、それから述べる。
「アシハラ、フタバ」
たしかに、と彼は呟いた。
「おまえが死ねば、おまえに尋ねたいことに誰が答えるのか。それは、『おまえ』の言葉でもなく、答えでもない」
代替えがきかないとは、こういうことか。
カムイはさらに近づき、ロキを見下ろした。
「おまえ、アストラルイーターだな? しかも変わり種だ」
ロキはカムイを睨みつける力すら残っていないようだ。悲しみと、怒りで、どうしていいのかわからないのだろう。
双葉の亡骸を抱き上げようとしたが、カムイは手を止めた。
「持ちあげたらさらに損傷が酷くなる……。
では」
と、彼は。まっすぐに。
ロキの瞳を射抜いた。
「この娘を蘇らせろ」




