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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
1章・too hard to hard to me
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【2-4】

2-4


 目が覚めると私、月夜風花の目の前には祐希奈が居た。彼女の体温で暖房もつけていないのに暑いくらいであった。祐希奈からゆっくり離れるとその隙間に冬の乾燥した空気が入り込んできて、汗で蒸れた空気が押し退けられて広がった。

 時計を確認する。昼の13時であった。日曜日になっていた。何時間寝てしまったのだろう。

 私が動いたからか祐希奈も眠りから覚めたようであった。可愛らしい呻き声を上げた祐希奈の額の汗を指先でぬぐってやる。

 祐希奈が目を開けて私と目があった。それを切っ掛けに私は何があったのかを思い出す。

 魔法という物に触れた。落雷を起こしていたカードというものを剣で斬った。その後、力が抜けて何とか部屋まで戻るとソファで寝てしまったのだ。土曜日を一日寝て過ごしたことになる。酷い頭痛に顔をしかめながら私は身を起こす。全身が気怠い。ソファで寝たせいか体の節々が凝り固まっていた。部屋の窓の外から冬の太陽光が射し込んできていて、私は薄いカーテンを閉めようとする。そこで、ふと思い出してベランダに出た。緑一色の祐希奈のレインコートは乾いていた。


「祐希奈ちゃん、シャワー浴びる? 寝て汗かいたでしょ。着替えなら貸してあげるから」


 祐希奈にそう言って私はレインコートを取り込んだ。色んな事を聞かなくてはならなかったし、知る必要があった。それでも、と私は思い直す。

 まずは細かいことを済ませてからだ。

 祐希奈を風呂場まで連れて行くと私は姉の部屋に入る。部屋の衣装ダンスから子供用の服と下着を探し出す。私や姉に幼い妹や親戚の子供がいるわけでもない。

 姉の趣味のコレクションである子供服がまさかこんな形で役に立とうとは思ってもいなかった。下着まで見つかったのは少々困惑したが。

 着替えを脱衣場に置いて私は祐希奈に着替えを置いておいたと伝えておく。祐希奈がシャワーを浴びている間に私は卵を焼く。冷蔵庫に残っていたレタスを手で千切り、トマトを輪切りにする。


「あの」


 祐希奈の声がして私は振り返る。湯気を昇らせ、濡れた髪の祐希奈が其処にいた。私の置いた黒のブラウスとショッキングピンクのキュロットスカートを着ている。ブラウスは少し短かった様で手首が出てしまっていた。もう少し姉の部屋を物色すれば、上着なんかもあるだろうか。


「ちょっとサイズ小さかったかな。そこ座って、髪乾かしてあげる」

「あの、あなたは」

「それと、私は風花。あなたとかそういう言い方は止めよ? 祐希奈ちゃん」


 私はそう言ってドライヤーを取ってくる。祐希奈をソファに座らせて私は後ろに回り込むとドライヤーのスイッチを入れて、彼女の髪に温風をあてた。水気を含んだ細い髪が私の指に貼り付いてくる。祐希奈が私に髪を預けたまま、ぽつりと呟くように言った。


「この世界には魔力というものがあるの」

「うん」


 私はドライヤーの出力を一段階下げた。

 彼女の後ろ髪を持ち上げると白いうなじが見えた。とても華奢な肩に細い二の腕。肩甲骨の浮いた頼りない背中。


「魔力を使えば不可思議な現象を起こすことが出来る、それが魔法。そしてその魔力を操る為の術式が入っているのがカード。カードはすごく昔の人が作ったんだけど、その文明が失われると同時に何処かに散らばってしまったの」


 あの時、出現した電気の塊。あれを引き起こしていたのがカードだという。金属製の一枚のカードがあれだけの現象を起こしたことに驚愕する。

 カードはタロットカードの大アルカナと同じ枚数存在しその何れもが大アルカナと同じように意味を持つのだという。今回のカードは16番目、コード・パオラと呼ばれるカードである。タロットカードと照らし合わせると16番目のコード・パオラはタロットカードの16番目でいう「塔」のカードであり、塔の持っている意味の一つに落雷がある。

 どちらが模したのかは分からないが、他のカードもタロットカードの大アルカナに関連しているのは間違いないと祐希奈は言った。


「そのカードを扱うことが出来るのが、カフトワンダーっていう機械。風花ちゃんが使った剣もカフトワンダーなの。名前はイクス・ガンスノッドスエルツェ。

 その、カフトワンダーを祐希奈は持っていて先進情報伝達研究機構という所に引き渡される筈だった。でもその時、転移のカードに巻き込まれて、この部屋に転移してきたんだと思う」

「先進情報伝達研究機構ってのは、それは怖いところなの?」


 祐希奈が震えていたので私は彼女の肩に優しく手を置いた。手で触れればより一層彼女の華奢さを実感する。

 何にせよ、彼女をこのままにしておく訳にはいかない。まだ事情の全容がいまいち見えていないがそれだけは確かだった。


「警察に行こう。お家に帰ろう?」

「駄目なの」


 祐希奈が私に向かって座り直す。その瞳に見上げられて私は彼女を見つめ直す。祐希奈が急に気まずそうな顔をした。口の端が不自然に動く。


「祐希奈は普通じゃないから」

「それはどういう意味」

「祐希奈はカフトワンダーの為に造られたの。だからお母さんもお父さんもいない」

「そんなの」

「祐希奈は何処にも行けないの。でも、もうあそこには帰りたくない」


 何処かに保護して貰うのが一番だ。警察とか児童養護施設とか、私の元に居るよりずっと良い。私には何もしてあげることが出来ない。

 それに。こんな事に関われば、私だってきっと面倒な事に巻き込まれる。魔法なんて言葉に近付きたくは無かった。

 それでも私は彼女の瞳から目を離せなくて。


「とりあえず昼ご飯にしよう」


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