【13-6】
13-6
-三年後-
「HNNをご覧のみなさん、こんばんは。今日はユニアスフォン・カンパニーのジェイムズ・ジェイフォード氏にお越しいただきました。初めまして。この度は生放送の取材に応じて頂き有り難う御座います」
「どうも」
カメラマンが向けたカメラの前で、スーツ姿のブロンドの女性はそう言って初老の男性に握手を求めた。高層ビルの最上階、全面ガラス張りから見える夜景を背景に収録が始まった。
カフトワンダー製造・販売の世界トップシェアを誇りながらも、今まで殆どメディア露出の無かったユニアスフォン・カンパニーが今回生放送での取材に応じると言うことでその注目度は非常に高かった。
対談が始まった。ユニアスフォン・カンパニーについての基本的な事項について、質問と言うよりも了解を得るかのようにキャスターは滑らかに話していく。
ジェイムズ・ジェイフォードはユニアスフォン・カンパニーの創始者であり、設立十年にも満たない内に世界トップシェア獲得を達成した敏腕経営者でもある。人工的に魔力を生成し操る兵器カフトワンダーの大量生産にいち早く成功し、軍事、警察、民間と多岐に渡り大量納入をしている。従来の銃火器とは一線を画する兵器、カフトワンダー。その登場は兵器の概念と歩兵の在り方を変えた。
「カフトワンダーは従来の火器と比べてどのような利点があるのでしょうか。携行性? 殺傷性? コスト?」
「それは違います。まず言えるのは環境への配慮でしょう。空間上に存在するエネルギーを利用した純粋なエネルギー兵器である以上、今までの金属と火薬とは大きく違います。また人体への影響も小さく、後遺症になりにくのです。今までの残酷な質量兵器とは違います。エコでクリーンな兵器、清潔な戦争を実現するのです」
突如、ガラスが勢い良く割れる音がした。黒い影が室内へと飛び込んでくる。それは素早くジェイムズの側へ回り込むと、そのこめかみに手早くハンドガンを押し当てた。カメラが捉えたのは一人の女性の姿で。どよめいたスタッフの前で女性は声高に叫んだ。
「放送、止めるな。あなたが止めたら、殺す。ジェイムズ・ジェイフォード氏を」
突如高層ビルの最上階の部屋へと、外から窓ガラスを破り突入してきた人物。彼女が人質を取って行った脅迫に周囲のスタッフは動けずに居た。女性は20代位の見た目で髪を明るい茶に染めており、顔立ちは日本人の様に見えた。真夏にも関わらず赤いロングコートを着込み、襟で口元までを隠している。そして、その背中には大振りの弓を背負っている。
女性に向けられたハンドガンの銃口を横目で見てから、ジェイムズが両手を上げて鼻で息を吐く。
「まさか、君が私の前に現れるとはね。これは何かな、最近のテレビジョンはこういった趣向を凝らすのかな」
「喋るな」
「もう少し英語を練習した方が良い。その顔と発音では日本人であると直ぐ分かる。なぁ、逸賀?」
「喋るな。殺すぞ」
「殺すのかい? ここでそんな事をしても何の解決にもならないだろう。そんなことをする為に来たのでもないのだろう?」
逸賀灼は銃口をジェイムズに突きつけたままカメラを睨みつけた。
「国家、勢力、宗教、企業を問わず魔法を軍事力としている全ての集団に対して我々は宣戦布告する。まずは世界中の全ての集団が所有しているカフトワンダーを破壊する。これは最終通達であり最終警告だ」
「驚いた。カフトワンダーの復旧率を知っているのかね。君は世界に戦争を仕掛けるとでも?」
「自主的な破棄を期待する」
ジェイムズは逸賀灼の言葉に眉を動かした。銃口を向けられていてもそれを気にせず、どこか演技がかった口振りを崩さないジェイムズに逸賀灼は舌打ちした。
「君だって魔法少女だろう。魔法をこの世界から無くす気かい? また血と硝煙の満ちた戦場を、鉛と火薬で溢れる世界を求めるのかい? 人間から闘争本能は消せない、ならばよりクリーンな武力へと変革していくしかないのにそれは君を邪魔するというのかね」
逸賀灼はそれに応えなかった。突きつけていたハンドガンをジェイムズから降ろし、それをカメラに向けて言う。
「我々は、メルティ・リース。この世界から魔法を根絶するものだ」
【作者・茶竹抹茶竹】
その衝撃的な映像はブツリと途切れた。黒いディスプレイに幽霊のように、ベッドの上に腰掛けた私の姿が映る。テレビのスイッチを衛都楼水希が切ったのだと気付いて私は振り返った。
「風花」
私の真後ろでベッドに寝転がっていた衛都楼水希が私の名前を呼んで身を起こした。そうして両腕を伸ばして私の肩に腕を絡めてくる。思い切り寄りかかられて私は背中から倒れ込む。ベッドのスプリングが切ない鳴き声を立てた。私の上に覆い被さった衛都楼水希は顔を私の胸に埋めた。そのまま衛都楼水希は呟く。
「急に寂しくなっちゃった。どっかに行っちゃいそうな」
「どうしたの、水希」
衛都楼水希が私のTシャツの裾から手を入れて私の素肌を撫でた。細い指先がくすぐったくて、私の口から短い吐息が漏れる。その手がゆっくりと下がっていって私のショーツに触れた。もう片方の手で衛都楼水希は私の手首を掴む。
そこで衛都楼水希の手は止まり、何かを思いついたのかのように細々と言葉を語った。
「……アルフェルドの書より、『嗚呼、これ以上の至福がこの世に無いというのなら。ここで私は灰になろう。』」
「どういう意味?」
聞いたこともない一節の引用に私は素直にそう聞いた。
「どうでも良いんじゃない?」
彼女の唇が私の唇に重なって、私は目を閉じた。
【魔法少女メルティ・リースは死んだ 完】




