【13-5】
13-5
その刹那、背後から銃声が轟いた。私の右太股に鋭い衝撃が走った。激痛を認識した瞬間に、力が抜けて立っていられず勢い良く崩れ込む。身体が反応できず思い切り地面に転がって、私の口の中で土と血の味がした。下半身から灼熱の様な痛みがこみ上げてくる。
苦痛で眩む視界の向こうで、祐希奈の姿が光の粒子に呑まれていく。私は臥せたまま銃口を向けようとするも、照準の中にその後ろ姿を捉えた時には、もうその姿は消えていった。まるで瞬間移動をしたかのように、いやおそらく、そうしたのだ。その場に祐希奈はもう居なかった。
やはり、彼女は魔法使いだった。機関ミズガルズによって人工的に作られた、静玖と同じ存在。
「っつぅ……」
立ち上がろうとしても足に力が入らない。地面に倒れたまま顔だけを後方へ動かすと、衛都楼水希が私にハンドガンを向けていた。
カフトワンダーの様な魔力を用いた物ではない。何故、彼女が実銃を持っているのだ。いや、それよりも。
「水希さん、なんで……っ」
「月夜ちゃん。あたしと居てくれるんでしょ。ねぇ。なのに、何処に行っちゃおうとしてるの」
私は動かない右足を見て、そうして衛都楼水希へと視線を向けた。出血は大したことはないが、足に鋭く刺さった痛みで動けそうも無かった。
衛都楼水希はその表情を幸せそうなものにして。その手の内からハンドガンを取りこぼしながら、彼女はゆっくりと私の元へ歩いてくる。行動の意図が読めず、私の身は強ばる。
「ねぇ、月夜ちゃん」
しゃがみ込んだ衛都楼水希が私の脇の下から腕を通して、私の身体を引き寄せるようにして。強く抱き寄せられて私は身じろぎも出来なかった。息が苦しいくらい強く抱き締められたまま、私の耳元で彼女の言葉が連なる。彼女の体温を、熱いくらいに感じる。
「あたし、月夜ちゃんが一緒に居てくれるならそれで良いよ。ね、月夜ちゃん」
「水希さん……?」
私にそう言って微笑む衛都楼水希の顔が、靄で白く閉ざされていく私の視界の中に消えていく。痛みかどうかすら分からない感覚が身体の奥に響いては消えていく。何か芯だけが残ったかのような痛みが其処にあった。
麻痺していく感覚の中で、私は何かを掴んだような気がして。
ようやっと分かったのだ。衛都楼水希が何を欲しがったのか。彼女は世界の正解の方に居るように見えたけれど、彼女もきっと同じ構造を抱え込んでいたのだ。それを悲しいと嘆く術しか知らず、それを上手く消し去っていく術だけを求めて。
けれど、私達はその方法を知らない。世界の正解の方に居続ける方法が分からない。だから本当に必要なのは、そんな事では無かったのだ。私達の抱えた世界構造を、この世界の構造を、変えていくのではなく。
「そういうことなんでしょ、月夜ちゃん。ううん、こういうことなんだ」
耳元でそう言った衛都楼水希が、首を傾けて私に横顔を預けた。背に回された彼女の腕に力が入る。身体全体で感じた彼女の存在に、私は目を瞑る。
それだけが、残ったとしたのなら。それだけで、良いと言えるだろう。
「ね? 月夜ちゃん」
「そう……、だね」




