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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
7章・Let's singing with me,for changing for anything for something for everything.
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【13-3】

13-3



 衛都楼水希のカード、コード・クヴェレは「星」のカードである。効果は時間の操作だと私は睨んでいた。前回の戦闘で衛都楼水希がカードを発動させた瞬間、時間が停止したかのような感覚に陥った。彼女自身、世界を止めると言ってもいた。

 だが実際には時間は完全に停止していない。現に私は衛都楼水希の行動の一部始終を認識していたし、思考も働いた。僅かながら身体も動いた。

 そして決定的なのはあの時、逸賀灼は矢を放つことが出来た。

 おそらく、カード発動直前に逸賀灼は弓矢を放とうとしていたが、放つ前に時間の流れが変わった。だがその中で、逸賀灼が直前まで行っていた指を放すという動作は、魔法によって時間の流れが変わった中でも成立した。そのタイムラグがあまりにもある故に、世界が止まったかのような錯覚までさせるのだ。

 しかし、逸賀灼は静止したかのような時間の中で矢を放ってみせた。直前まで放とうとしていた矢は、遅れながらも飛翔した。

 そして放たれた矢も例外なく静止したかのような世界の中でゆっくりと飛翔した。矢は秒速80m程であるが、あの時は百分の一程度の様に思えた。

 つまり時間を止められても、正確には止められていない。かなりのタイムラグの中ではあるが動けるのだ。

 ならば。


 発動中にカードを入れ替えれた場合、「星」の効果による時間制御の効力が消えるなら、時間制御中に出来るのは刀による接近戦しかない。別のカードが使えないなら他の魔法を打ちようがない。

 そして衛都楼水希は魔法使いであるが、あの加速魔法以外に前回の戦闘では魔法を見せなかった。もし使用に耐えうる強力な魔法が他にあるのなら、カフトワンダーとカードに頼った戦い方などしないはず。

 ならば、衛都楼水希は星のカードを使った後に必ず接近してくる筈なのだ。

 私はそこで一つの結論を出した。発動直前に行動を仕込み時間の止まった中で何とか矢より早い攻撃を至近距離で放つことが出来れば、油断した衛都楼水希に当たるのではないか、と。

 衛都楼水希が引き金を引いた瞬間に引き金を引き切る直前の動作を合わせれば、遅れて引き金を引くことが出来る。

 そして矢より遙かに速い攻撃があれば、その二つによってそれは可能だ。神速とでも言える領域。百分の一毎秒の世界で変わらず動ける衛都楼水希へと、その世界の中でも衛都楼水希を捉えることが可能な攻撃。

 一つだけ私にはそれがあった。


 カード。魔法。魔力。魔術師。アントーン。手腕。女教皇。ベアター。神秘。女帝。ツェーザー。行動。皇帝。ドーラ。強固。教皇。エーミル。立法。恋人達。フルードリッヒ。魅了。戦車。グスタフ。援軍。力。ハインリッヒ。力。隠者。イーダ。崩壊。運命の輪。ヨゼフ。報復。正義。コンラート。平等。死刑囚。ルートヴィッヒ。忍耐。死神。マルタ。生死。節制。ノルトポール。節制。悪魔。オット。宿命。塔。パオラ。稲妻。星。クヴェレ。時間。月。リヒャルト。幻想。太陽。ジークフリート。物質。審判。テーオドーア。位置。世界。ウルリッヒ。帰還。愚者。ヴィクトア。変換。


 そう。ただ一つ。

 秒速30万km。回避など不可能な神速の領域。塔に落ちるは天上からの雷。


「コード・パオラ……!」


 剣先から放たれた雷撃が周囲を焦がして青白い閃光と化す。それはまるで救世主を突いた槍の様で。

 目の前の衛都楼水希は反応が追い付かず、雷撃がその身を刺し貫く。その瞳孔が開き、口から水気のある呻き声が吐き出される。遅れて苦痛に歪んだ表情に変わる。

 この世界を支配していた魔法が途切れた。身体が突如動き出す。急に水の中から放り出されたような、全ての重たい感触を身体が引きちぎる。感覚が狂って踏み込んだ足に追い付かず体勢が崩れる。それでも必死に前へと踏み出す。


「私は、水希さんさえ居たなら!」


 左手を握り締める。踏み込んだ足に力を込めて、崩れた体勢を捻るようにして勢い良く持ち上げる。振り上げた拳が衛都楼水希の顎をぶち抜いた。真下から真上へのアッパーが入る。拳が熱くなる。私の前で崩れ落ちていく衛都楼水希。その手からこぼれ落ちた刀が地面に転がった。私はその動力部へと思い切り剣先を突き立てる。火花が散って刀の駆動が止まった。

 荒い息だけが溢れて、目の前が眩んで、突き立てた剣の柄に両手を置いて、私は肩で荒い呼吸をした。


「私は……、この世界で充分なんだ」


 それは私の精一杯の抵抗で。世界へ向けて私が唯一叫べる言葉で。

 倒れたままの衛都楼水希を前に私は言葉を吐き出した。

 衛都楼水希が自身を否定してしまったなら、世界にいることを否定したなら、私はどうすれば良いのだ。何が残っているというのだ。私はずっと、彼女は世界の正解の方に居るのだと思っていた。それはまるで一種の信仰みたいで。なのに彼女はそれを否定するという。


「だから、私も一緒に考えるから、一緒に頑張るから。水希さんがそんな結末を選ばなくて済むように。だから、この世界に居場所がないなんて悲しい事言わないで、この世界を壊すなんて悲しい事しないで、って、そう思う」


 私達は、この世界で生きていく。悲しいことにそれしか出来ない。世界はいつだって正しいように振る舞って、故にそれは正しい方であり続ける。それを嘆いたところでその構造は変わることはない。

 私はそれで良いと思ってきた。いや、それしか選べないのだ。この世界で生きていくというのはきっとそういうことなのだ。そして衛都楼水希はそれを嘆いた。

 でも、と私は思うのだ。衛都楼水希が明かした言葉を聞いて思うのだ。

 世界の正解はいつだって、その多数が作っていく。けれどその多数を作っていくのは、衛都楼水希と同じように誰もが抱えた世界からの疎外感によるものでは無いのだろうか。きっと共通した世界構造なのではないだろうか。


「きっとみんなそうなんだ。そうやって求めるんだ。だから、私で良ければ、水希さんと一緒にそれを」

「水希!」


 事の結末を見守っていた静玖が衛都楼水希へと駆け寄る。泣きじゃくりながら彼女の側に崩れ込む。その手を取っても衛都楼水希から反応はなかった。静玖が私へと振り向くと指先を私へ向ける。その指先で光が煌めいて私は咄嗟に身を逸らした。目の前を閃光が駆け抜けていって、掠めた私の髪を焼いた。


「あなたさえ居なければっ!」

「っ、魔法!?」

「当たり前! 魔力生成装置を埋め込まれたって言った!」


 放たれた魔力の弾丸よりもはっきりと、静玖のその言葉が私の中のずっと感じていた違和感を呼び覚ました。


「そうだ」


 一つだけ気にかかっていたこと、衛都楼水希の言葉でそれが疑念に変わったこと。

 機関ミズガルズが魔力生成装置を埋め込んで人工的に作り出した魔法使い。そして機関ミズガルズの製造したカフトワンダーという魔法を人工的に操る兵器。そしてそれを空間から呼び出すことが出来る所有者。

 最初に、何故、彼女はあんな事を言ったのか。

 動きの止まった私を見て静玖が不思議そうな顔をする。しかし、私の思考はそれどころでは無かった。


「……ねぇ、祐希奈ちゃん」



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