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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
6章・I plan on her's plan
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【11枚目・背中合わせの虚空と空虚と】

11-1


 全てのカードが揃ったこの場所で、全てのカードが光を放っていた。まるでそれが何かのキーであったかのように、カフトワンダーの液晶に突如数字が表示される。意味の分からない数字の羅列に逸賀灼は浮瀬南陸斗が握り締めているカフトワンダーを見る。そこには逸賀灼-いちか あらた-のカフトワンダーに表示されている文字と同じものが表示されていた。どうやら、この場にいる全員のカフトワンダーの液晶画面に表示されているようだった。衛都楼水希-えとろう みずき-は恍惚な表情で液晶画面を、そこに記された数字の羅列を指先で愛おしそうに撫でる。


「やっと分かった。約束の地の場所」


 その言葉で、この無意味に見えた数字の羅列が経度と緯度であると逸賀灼は気が付く。衛都楼水希の言葉の意味は分からないが、おそらくこれは何かを示す座標なのだと。

 何もかもが不可解な衛都楼水希を問い詰めようとした時、衛都楼水希が突如飛行制御の魔法を切って、重力に引かれて落下するようにして高度を一気に下げた。逸賀灼が舌打ちするより先に衛都楼水希は一気に距離を放して宙を蹴る。衛都楼水希がこの場から離脱しようとしているのを見て、迷う間も無く逸賀灼は弓を構え矢をつがえる。月夜風花-つや ふうか-が剣を握り衛都楼水希を追いかけようとする。

 その状況に衛都楼水希が刀の切っ先を天に向けて引き金に指をかけた。


「ヴィルヘルム・ラジェンランテイル、やっちゃうおうよ。コード・クヴェレ」


 衛都楼水希が呼んだのは「星」のカードで。月夜風花は一気に自身の身体を加速させようとする。

 衛都楼水希が引き金を引いた瞬間に、世界はまた静止する。僅かな時の流れだけが存在する。逸賀灼が矢を放とうとする指先が、本当にゆっくりと開く。空を裂き矢が飛んでいく様がスロウモーションで見えた。衛都楼水希がゆっくりと飛んでくる矢を一別し、まるで嘘の様に難なく宙を蹴って進んでいく。矢は追い付けるようには見えなかった。

 止まった世界で一人だけ衛都楼水希は何事も無いかのように飛んでいく。その姿が遠くなって消える頃、ようやく月夜風花の身体が動いた。消えていった衛都楼水希の姿と、彼女の言葉に月夜風花は言葉を苦々しく吐き出す。


「なん、なんだ、こんなの」


 突然現れて、そんな彼女は魔法少女で。そうして「星」のカードを奪い、世界を止めて、浮瀬南陸斗を刺し貫き、ラグナロクという言葉を謳った。


「浮瀬南陸斗-うきせな りくと-!?」


 逸賀灼の声に月夜風花は弾かれるようにして顔を上げた。浮瀬南陸斗が崩れ落ちる様にして落下していく。逸賀灼が咄嗟に宙を蹴って落下していく浮瀬南陸斗に身を寄せて、その身体を支えた。身体を支えた手に生暖かいものを感じて逸賀灼は咄嗟に目を遣る。衛都楼水希の刀に貫かれた跡は大きな穴となっている。そこから溢れ出す血液は止めどなく、逸賀灼の指先から次々と垂れていく。


「逸賀、こいつを」


 浮瀬南陸斗が掠れた声で何かを取り出し逸賀灼に渡した。浮瀬南陸斗の息は絶え絶えで、目の焦点は合っていない。逸賀灼が受け取ったのは血の付いた携帯電話で、浮瀬南陸斗は途切れ途切れの言葉を続ける。


「ヘイムスクリングラの偽書が入ってる」

「偽書?」

「真実の公表を任せたい」


 その言葉を力なく言い切って、浮瀬南陸斗は目を閉じた。息の絶えた彼女の亡骸を抱えたまま逸賀灼は舌打ちをした。




【11枚目・背中合わせの虚空と空虚と】




 麻希-まき-の携帯電話に逸賀灼からの連絡が入った。現場から離脱していた麻希は、電話で指示された合流地点に向かう。お台場の現場から少し離れた建設現場で逸賀灼と合流した麻希は、逸賀灼が連れている見知らぬ二人の人物の姿に首を傾げた。月夜風花と祐希奈という名前だと聞いても麻希には全く事態が掴めなかった。

 逸賀灼のロングコートにべっとりと赤い物が付いていて麻希が慌てた。


「そんなことより灼さん、血が出てますわ!」

「浮瀬南陸斗の血ですから、大丈夫です。僕は出血してませんから」

「浮瀬南陸斗の?」

「彼女は死にました。別の魔法少女の襲撃を受けて」


 麻希は一歩後ずさる。逸賀灼の連れている少女の姿をまじまじと見つめる。月夜風花の手にしている剣、そして彼女が纏っている巫女装束を思わせる衣装は、どちらも魔法少女のものであるようにしか麻希には思えなかった。


「あぁ、月夜風花ではありません。浮瀬南陸斗を殺害したのは衛都楼水希という魔法少女です」

「どういう事ですの」


 逸賀灼から努めて冷静に、そして唐突に全く新しい名前が出てきて麻希は困惑した。そもそも浮瀬南陸斗以外の魔法少女が居ることから有り得ないと麻希は思う。


「始めに言っておきたいのですが、月夜風花は新宿駅で起きたカフトワンダーの密約譲渡、その際に消息を絶ったカフトワンダーの所有者です。彼女は僕達の知らない情報を持っているようですし、此方の情報を開示する代わりに情報提供の約束を取り付けました」

「ちょっと、待って下さい。民間人にそんな」

「彼女は何も知らない無関係な人間では決してありません。少なくとも今の僕達には必要な人材です」


 麻希は口元に手を当てて考え込む素振りを見せる。逸賀灼が近くの柱に背を預けて寄りかかる。月夜風花は手にした剣を力なく提げていた。


「最初から話を整理しましょうか。ですが、その前に。

 麻希さん、ヘイムスクリングラの書を出して下さい」


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