【10-3】
10-3
月夜風花-つや ふうか-の持っているカードは電撃を生じさせる物。衛都楼水希-えとろう みずき-にとってそれは特に驚異となりそうには無かった。出力は低い上、衛都楼水希のコード・コンラート「正義」のカードの効果で問題なく打ち消せる。対魔法干渉魔法。端的に言えば魔法を打ち消す魔法である。
それがある以上、飛び道具として使う月夜風花の魔法は問題にならない。直線加速によって相手に隙の出来る行動を制限させ、ひたすらに接近戦に持ち込む。
月夜風花が左手を振り払い電撃を撃ち出す。それを刀で叩ききり、加速する。衛都楼水希が咄嗟にそれを受け止める。
「何で月夜ちゃんはそんな物を持っていて、何で魔法少女なんてやってるわけ。何でカードを集めてるの。その理由も、その信念もあたしには分からない。明らかに怪しい事だよ。命の危険もある事だよ。なのに、月夜ちゃんは何で此処にいるの。魔法少女なんてそこら辺に居て良いもんじゃない、なんでそんな物を背負い込んで居られるの。理由があるの? 月夜ちゃんの背後に居るのはどの組織? だから、あたしは月夜ちゃんを信用できない」
「それは」
「あたし達が、あたし達のやっている魔法少女ってそういうものじゃん」
「私は水希さんから話を聞きたいだけなんだ!」
「それで月夜ちゃんは何をするのさ!」
衛都楼水希が鍔迫り合った刀を押し込んだ。月夜風花が弾かれて宙を舞いながら落ちていく。衛都楼水希がそこへ一気に加速する。月夜風花が咄嗟に左手を払い電撃を撃ち出す。衛都楼水希がそれを難なく切り抜けて月夜風花までの一直線の距離を加速で詰める。月夜風花が切っ先を衛都楼水希へと向けた。
貰った。衛都楼水希はそう確信した。今まで月夜風花はその剣の形状を活かして突きを去なしてきた。だが切っ先を向けてくると言うのなら。電撃は効かない、斬り合いに持ち込んでくるのなら加速して突きで突っ込む状況で負ける要素がない。
「コード・ルートヴィッヒ!」
月夜風花が叫んだ。カードの名前を呼んで引き金を引く。衛都楼水希は月夜風花の剣から放たれるであろう電撃を警戒した。しかし。月夜風花の姿が突如として消える。
驚く間もなく月夜風花が剣を背負うようにして構え向かってくる姿が見えた。
一瞬、月夜風花の姿を見逃した。そう考えようとして気が付く。違う。確かに姿が消えた筈であった。真っ直ぐに向かってきた月夜風花へと刀の切っ先を突き立てる。躱そうとする動きすらなく、難なく月夜風花の体を切っ先が刺さった瞬間。月夜風花の姿がまるでガラスの破片の様に砕けていく。そうだ、違う。刀の切っ先がその破片の向こう、何もない空を裂いて。今まで電撃を放つとき、月夜風花は左手を払う仕草を見せていた。剣の切っ先を向けてくることなどしなかった。背後に気配を感じて衛都楼水希は振り返りざまに刀を横凪に払う。それを握り締める手に鈍い痺れが走って金属音がなって。咄嗟に振るった力ない刀は弾き返されていて。気づかぬ内に背後を取っていた月夜風花がその剣を叩き降ろす。衛都楼水希が宙返りをしてそれを寸前で躱す。今、月夜風花は幻影の類を使用した。刀で突き刺して割れた彼女の姿は何らかの魔法であった。コード・ルートヴィッヒと呼んだそのカードは月夜風花と同じ姿の身代わりを作り上げたはずなのだ。だが、月夜風花がカードを入れ替えている仕草など見えなかった。電撃を放った直後、彼女は魔法を使ったのだ。その一瞬でカードを入れ替えることなど、それを見逃すことなど有り得ない。違うのだ。月夜風花の電撃はカードの効果ではない。その魔法はカフトワンダーを介したものではない。でなければ剣の切っ先を向ける事前行動と左手を払う事前行動の違いを説明できない。月夜風花は最初から、電撃をカードを使わずに撃ち出した。それをカードの効果であると信じ込み、カードを入れ替える仕草を見せなかった故に、次の手を読み違えた。最初から身代わりを発生させる効果のカードを仕込んでいたのだ。それを読ませないために電撃をカードではなく自身の魔法で発生させた。全ては相手の思いこみを利用した不意打ちの為の一手。だがそれは有り得ない。カードなしで魔法を使うなど、それを可能とするのは。
「魔法使い!?」
衛都楼水希が驚愕する。電撃の魔法をカード無しで使用した。それは魔法使いでなければ有り得ない。
宙返りで咄嗟に月夜風花の剣を躱した衛都楼水希の懐へ月夜風花が潜り込む。剣をまともに振り切れる距離ではない、其処まで踏み込んできた意図が読めず衛都楼水希は反応が遅れる。
月夜風花が肩を入れて体当たりをした。衝撃が衛都楼水希の身体に押し込まれ、動きがとまる。月夜風花が電撃を纏った左手を叩き込もうとして、咄嗟に衛都楼水希はその手首を掴む。
「月夜ちゃん、まさか」
「分からない。私は魔法少女が何なのか、今どんな状況なのか、何も知らない。でも!」
衛都楼水希が月夜風花を蹴り上げる。衛都楼水希がホルスターを弾きカードを引き抜いた。それを刀に備え付けられた装甲部に読み込ませる。月夜風花が其処へ斬りかかり、衛都楼水希は刀の引き金を引いた。「死神」のカードの名を呼ぶ。
「ヴィルヘルム・ラジェンランテイル。コード・マルタ」
衛都楼水希まであと一歩の距離、踏み込もうとした月夜風花は突如背後に感じた衝撃に目の前が暗転した。激痛が走り、吐き出した声に息と湿り気が混ざる。衛都楼水希は変わらず正面にいるも、彼女が魔法を使った瞬間に背後から刃物を突き立てられたかの様な鋭い痛みが肉体の感覚を鈍くさせていた。
切り裂かれた様な感覚に、月夜風花の意識が途切れて。認識が遠くなるその最後に、背中の方へ顔を捻って見えたのは大鎌を手にした黒衣の死神の姿であった。




