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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
1章・too hard to hard to me
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【1-5】

1-5


 閃光が瞬いた。右手のビルに雷光が瞬いて雷が落ちる。予測通りの地点に落ちた。私の計算通りであるなら次から五回目の落雷地点はこのマンションの屋上になる。雷が地点に落ちて再び上昇するまでは数秒のチャンスしかない。通常なら不可能だ。だが目の前に落ちると分かっているのなら、やることは一つしかない。


「それを斬るだけ」


 重たい剣の柄を握り締め、私は指を伸ばして祐希奈の言っていた四番目の引き金を引いた。しかし何かが反応するわけでもなく、何も起きなかったように思えた。これで正しいのか分からず私は祐希奈‐ゆきな‐の方を見る。

 祐希奈が慌てふためいた様子で私の手にした剣をのぞきこんでくる。その手で何処かのスイッチに触れると、刃に埋め込まれた小さな液晶にデジタルの文字表記が浮かび上がる。「Low power」の文字を見て祐希奈が苦しげに呟いた。


「そんな、起動用の魔力が少なすぎるみたいなの。調整不足だからかも」


 私は何度も引き金を引くも、金属の噛み合う音が虚しく響くだけで剣は沈黙したままだった。視界が白く染まる。落雷が起きた。パルスが飛び散り火花を起こす。そして雷は再び天へと昇っていく。

 このままでは、予想通りにこのマンションの屋上に雷が落ちたとしても何も出来ない。私は祐希奈に問いかける。


「何か方法は」

「魔力を流し込んでやれば、多分動くけど。けど、魔力を使える人間なんて今の世界には居ないの。祐希奈じゃ何も出来ない……」


 魔力のある人間など、魔法を使える人間など居ない。

 そう、この世界には魔法なんてないのだから。それは御伽噺かフィクションの中だけにしか存在しないもので。そんなものは現実には無いと確信を持って言い切れるもので。

 魔法という物はこの世界には、存在する筈がないと。今、私の目の前で起きている光景だって、きっと誰もが信じようとなんてしないだろう。

 だって魔法なんてものは存在しないのだから。それは、そういう事にされてきたのだから。この世界には、魔法なんて異質を受け入れられる余地なんて存在していないのだから。


「だから、私はこれで良いと思ってた」


 異質は異質だ。世界は異質を許容できないし、それを分かっているからそんなことを求めずに、自ら距離を置いてきた。私は何と繋がる気もなかった。そんなことは、異質にはそんなことが認められていないから。

 なのに、祐希奈の姿に。祐希奈の言葉に。彼女の方が正しいのだと私に思わせる何かがあった。同じ異質であるはずなのに、自らだけが異質で異常で、正しい事をしようとしているように見えた。


「だって、この世界に魔法なんて無いから」


 私は強く目を閉じる。手に握った剣が、その重さがまるで自分の一部になったかのように感じる。右手に身体の内側からとても暖かいものがこみ上げてきて、それに導かれるように私は引き金に指をかける。金属の冷たい感触が指先に確かな境界線を作り出す。

 多分、これは呪いだ。かつて私がそれを否定したから。それをあの場所へ沈めてしまったから。だから。今ここで向き合えと言われているのだ。だからこれは、私が引くべき引き金なのだ。

 祐希奈の姿が見えた。彼女が彼女の瞳一杯に涙を溜めていて。

 そう、魔法なんてものこの世界には無い。この世界にはそんなもの必要がない。けれど、目の前で女の子が泣いていて。その子は全てを解決してくれる様な魔法を求めていて。彼女を助けることを迷えるほど私は諦めていなくて。


「でも、私は今此処にいる。だから、力を貸してくれ」


 引き金を引く、それと同時に剣が呼応する。剣の内部から確かな駆動の振動が手に伝わってくる。剣が起動したことを確信した。液晶画面に「Shift over」という文字が表示される。

 重厚な音が鳴って金属の噛み合わせがずれる音がした。剣に備え付けられた装甲の細部がずれ動く。装甲がずれ動いたことで内部フレームが露出して、その装甲の隙間から祐希奈が剣を呼び出した時と同じ緑色の光の粒子が大量に溢れ出す。

 背後から祐希奈の狼狽した声が聞こえた。


「こんなに沢山の魔力、カフトワンダーでこれだけの出力が出せるわけがないのに」


 剣を肩に担ぐようにして構え直す。片足を引いて重心を落とし柄を握る手に力を込める。剣の駆動音が高ぶると放出される光の粒子が、一気に勢いを増した。大量に放出されて溢れ出した粒子が、私を中心に周囲で渦を巻いて新緑の旋風を起こす。私の視界一杯の粒子の先を睨み付ける。


「この魔力量。カフトワンダーの生成機関とは違う波長の魔力。まさか、あなたは」


 背後の祐希奈の言葉は目の前に落ちた雷の轟音にかき消された。予測通りの順番でのこのビルへの落雷。周囲を焦がしたパルスがのたうち回り、歪み歪んだ音を立てる。青白く電流が周囲に飛び散る。

 それを無視して目の前に落ちた電流の塊へと思い切り踏み込んだ。散ったパルスが私の肌を撫でて熱を持つ。苦痛で揺れた視界の先、雷光の中にあのカードが見えた。

 背中に回して構えていた剣を叫び声と共に振り抜く。空を裂く重たい音が耳元で鳴って、振り回されるように剣を振り下ろした。重たい刃がまとわりつく空気を切り裂き、その先に確かな手応えがあった。一枚のカードを斬ったはずが、まるで何か巨大な物体を斬ったようで。剣の重さに引きずられカードを斬り抜けた。

 斬り抜けた私の背後で甲高い金属音がした。振り返るとあのカードが空中を回転しながら舞っていた。周囲には大量の雷光が飛び散って、私は慌てて跳び退く。電流の塊が周囲一帯で停滞していた。上手くいったのか分からず私は握り締めた剣を見る。剣の内から響いていた駆動音はいつの間にか消えていた。一瞬の静寂の内、突如周囲に散っていた雷光が集束する。

 金属を引っかくような雑音が轟音と化して私の目の前が滅茶苦茶になる。白い塊に変わっていく。集束した雷光が消えていくとカードは地面に落ちた。私は慎重にそこまで足を進め、ゆっくりとそれを拾い上げた。

 カードは金属製の様で手のひら程の大きさで厚さは2センチ程。金属製のパーツを幾重にも重ね合わせており、その中心は窪んでいて水晶体が嵌め込んである。これがあの電撃を起こしていた正体だとはとても思えなかった。

 カードを祐希奈に渡そうと思って、彼女に差し出す。当の祐希奈は私を見て両手を強く握り締めていた。彼女は私を何度も見て、そうして震えた口を開く。


「居るはずがないのに、この世界にはもう存在していない筈なのに」


 周囲に散っていた鮮やかな緑色の粒子が消えていく。私が手にしていた剣とカードは一瞬で泡のように弾けていき、手の内から逃げていくように無数の光の粒子へと変わった。私が驚いた声を出す間も無く、粒子は風に流されていき、そして手の内には何も無くなって。あまりに不可解な光景と、剣とカードを壊してしまったのではないか、という心配に私は祐希奈の答えが欲しくて彼女の言葉を待つ。

 祐希奈が私を指さした。その視線は真剣で私は自身の内面の全てを見抜かれてしまったような気持ちになる。祐希奈は重たく口を開いた。



「あなたは、まさか。魔法使いなの?」




【一枚目・空の星に沈めてみせたのは 完】


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