【8-4】
8-4
私は祐希奈と一緒にそっと人混みの中に身を隠すと、その場を離れる。祐希奈が言っている様にカードが出現する可能性がある。今までのカードも、大抵地震の後に出現していた。
施設の近くに誰も居ない資材置き場を見つけた。コンテナが幾つも並んでおり、何かの資材置き場だろうか。フェンスで囲われているが、開き放しのドアを見つけて中に入る。幾つも並んでいる身の丈以上のコンテナで姿を隠すようにしながら、私に一つ頷いた祐希奈が空間を撫でる。緑色の光の粒子が散って何もない空間から剣を呼び出すと、私はそれを受け取った。
「上空からカードを探そう」
祐希奈の言葉に頷こうとして私は気が付いた。祐希奈の背後に何か煌めいた物が見えた。私は祐希奈を下がらせると、そっとコンテナの陰を覗き込む。そこには金属製のカードがあった。
地面に落ちていて特に暴走しているようにも思えない。おそらく安定状態にある。特に何の苦労もせず、カードも見つかり、そして簡単に封印できそうだった。拍子抜けしながらも私は剣の引き金を引く。
引き金を引く、それと同時に剣が呼応する。剣の内部から確かな駆動の振動が手に伝わってくる。剣が起動したことを確信した。液晶画面に「Shift over」という文字が表示される。
重厚な音が鳴って金属の噛み合わせがずれる音がした。剣に備え付けられた装甲の細部がずれ動く。装甲がずれ動いたことで内部フレームが露出して、その装甲の隙間から祐希奈が剣を呼び出した時と同じ緑色の光の粒子が大量に溢れ出す。
「封印」
封印シークエンスに移行させた剣の切っ先でカードを突く。本当に何も起こらず、カードから僅かな光が散っただけだった。簡単に封印できてしまった。
カードを拾い上げた祐希奈が表面の数字を読むと私に言う。
「コード・クヴェレ。17番目、星のカードなの」
「前から思ってたんだけど、そのコードっていうのはフォネティックコードなのかな。カードの1枚目からアルファベットの一文字目を合わせていくと、一致する、気がする」
「フォ、フォネティックコード?」
フォネティックコードとは航空管制や軍隊での通信において、アルファベットを正確に伝えるためのものである。「アルファ、ブラボー、チャーリー」なんかは映画ではよく聞く馴染みのあるものだ。
カードについているコードはその類であるように思える。浮瀬南陸斗の持っていた「皇帝」のカードは「ドーラ」と呼ばれていた。「ドーラ」は恐らくアルファベットの四文字目の「D」。皇帝はタロットカードの四番目である。
祐希奈が今一要領を得ない様子であったので私は話題を変えることにした。
「まぁ良いや。それ、星のカードなんだよね」
カードはタロットカードの大アルカナに対応している。アルカナの意味しているものとカードの効果はどことなく似通っている様な気がする。
「うん。星のカードの意味は」
「……時間だよ」
それは祐希奈の声ではなく。私の背後からした。私は身動きがとれなかった。首筋に何か冷たく尖った物が軽く当てられていて。
カードを手にした祐希奈が私の背後にいる誰かを見て目を丸くする。私の背後に居る人物は、星のカードの意味を言った。気付かぬ内に背後に第三者、魔法のカードについて知っている人物が居たのだ。いや、しかし。私が驚いたのは、そんなことよりも。その人物が私の首筋に何か当てていることでもなく。
「なんで」
私が動けない理由はたった一つだった。振り向けない理由はたった一つだった。それは、有り得ない筈で。
私の背後の人物は、言葉を続ける。
「他のカードだったら見逃してたけど。ごめんね、星のカードだけはちょっと渡すわけにはいかないから」
そんな風に私の背後で言葉を続ける人物に心当たりがあった。私は、その声を知っていた。
何故、その人物が此処にいる。何故、その人物が魔法について知っている。何故、その人物でなければならない。
「もう一つ。あたしの秘密を教えてあげる」
私は耐えきれず叫び声を上げる。
「頼む、嘘だって言ってくれ。私なんかと違うって言ってくれ。そんなことがあるわけがないって!」
私は叫び声と同時に、咄嗟に振り返る。身を捻る瞬間に右手の剣を払う。何かにぶつかって金属音が鳴る。私の首筋に突きつけられていた何かが日本刀であったのだと、私が弾きあげたそれを見て理解する。空中に煌めいた銀色よりも、私は居るはずの無いその人物から目を逸らせなかった。
私の前に立っているのは。私の前で笑顔でいるのは。この世界の異質である私に笑いかけるのは。
「あたしね、魔法少女なんだ」
其処にいた衛都楼水希の姿に、私は言葉にならない声を上げた。
【8枚目・ 海底座標は「X」 完】




