【8-3】
8-3
ゲームの順番が回ってきた。卵の様な形の箱状の筐体に入ってやるゲームであり、入ってみると外界から遮断されることでその映像と音は臨場感を増した。衛都楼水希がコントローラーとなるプラスチックのハンドガンを手にとって、私もそれに倣う。
その銃口を画面に向けるとゲームが始まった。ウイルスに感染してゾンビとなってしまった人間で溢れる街からの脱出を目指すというストーリーで、始まると同時に画面にリアルな質感のゾンビが現れる。
祐希奈には無理だな、と思いながら私が引き金を引くと目の前でゾンビの姿が弾け飛んだ。
銃声に耳が慣れてきて、私は衛都楼水希い言う。
「私はずっと水希さんの事をそう思ってた。世界の正しい方にいる人だって」
「どうして」
「いつも完璧で、いつも正しくて。水希さんは私の中の正しい人の想像通りなんだ」
私は引き金を引きながらそう言うと、衛都楼水希は笑いながら私の前のゾンビを的確に撃ち抜く。ゾンビの群れが私に向かって手を伸ばしてきていて、彼らは私を彼らの仲間にしようと向かってきていた。蘇った死者達の顔面を容赦無くぶっ飛ばしながら衛都楼水希は言った。
「月夜ちゃんに、一つあたしの秘密を教えてあげる。あたしね、この世界こそが間違っていると思ってるんだ」
「え?」
私の問い返した言葉はゲームの大きなブザー音に塗りつぶされた。画面には赤い字で大きく「GAMEOVER」と表示されている。体力ゲージが0になっていた衛都楼水希が笑顔を造った。
「駄目だったねー」
そう言って衛都楼水希はハンドガンを元の位置に戻して置くと、筐体から出て行く。閉鎖された世界から外の世界に出て行った。私はそんな彼女を追いかける。筐体を出ると、外で私を待っていた祐希奈が駆け寄ってくる。
その腕の中に見覚えの無いぬいぐるみを持っていた。両腕で抱えているその猫のキャラクターのぬいぐるみを自慢するように私に見せてくる。UFOキャッチャーの景品だろうか。
「静玖ちゃんに取って貰ったー!」
「それは良かった」
静玖は祐希奈の面倒を見ていてくれたらしい。UFOキャッチャーでわざわざぬいぐるみまで取ってくれたのだ。
私がそんな静玖に礼を言おうとした時、足下が大きく揺れた。これは地震だと一瞬遅れて気が付いて、私は咄嗟に祐希奈の肩を掴んで引き寄せる。かなり大きい、近くで悲鳴が上がった。十数秒も続いた揺れが、ようやく収まると人々は口々に言葉を漏らし始める。
遠くの方で非常ベルの音がした。音は遠くても警報ベルの音であるというのは直ぐに分かった。誰かが火事だ、と叫んで。それを引き金にパニックに陥った客が必死に四方に散る。
突然、衛都楼水希が弾かれるように駆けだした。
「危ない!」
「水希さん!」
パニックに陥った人の群れの中に転んだ幼い女の子が居て。衛都楼水希がその子の元に走って滑り込んで抱きしめた。逃げまどう人の群れに踏まれ、蹴られながらも衛都楼水希は女の子を庇うのを止めなかった。ゲームセンターの施設の中に誰も居なくなって、衛都楼水希は少しよろめきながら立ち上がる。乱暴に踏まれて蹴られた様で、足跡が幾つも付いている。
「いてて、痛いなぁもう。君? 大丈夫? 怪我してない?」
女の子の頭を撫でて衛都楼水希はその子の手を取った。私は動けなかった。その子の存在を気にしても居なかった。あのパニックの中で彼女は女の子を助けるという選択肢を取れた。その事が、私が、彼女とは違うということを気付かされる。なんでこんにも誰かの為に動けるのだ。やはり、彼女は世界の正しい方に居ると思うのだ。
「とにかく、外に出よう」
火事ならば兎に角、急いで外に出なくては。私達は施設の外へと走る。警報ベルにせき立てられて急いで走る。外では避難した人でごった返えしていた。施設から火の手が上がっている様には見えない。警報ベルの誤作動であったのだろうか。
祐希奈が私に身を寄せて、そっと囁いてくる。
「今の地震、カードかも」
「陸斗さんの言ってたやつか」




