【8-2】
8-2
静玖-しずく-の言葉の語尾は、ボーリングのピンが弾かれる音にかき消された。けれども、言葉の大意は取り違えようもなく。私はあまりに唐突で意味深な言葉に静玖の次の言葉を待ってしまう。
「水希-みずき-は私のことはどうでも良いのに、なんで君ばっかり。水希はいつもいつも君しか見てない。何で、君の何が良いって言うの!」
私はなんて答えて良いか分からず視線を手元に落とした。静玖が私を敵視する理由は衛都楼水希-えとろう みずき-が私に向ける視線への嫉妬だった。そう言われても私には実感が沸かなかったし、衛都楼水希と私がそこまでの関係であるようには思えない。
けれど、衛都楼水希がいつも私に構ってきていたことが嬉しくなる。
「静玖さんは水希さんの友達なんだろう。ならそんな私になんかに」
「違う。違うでしょ」
祐希奈-ゆきな-の歓声がした。レーンを見るとピンが二本倒れていてしゃがみ込んだ衛都楼水希とハイタッチをする祐希奈の姿があった。私と目が合うと祐希奈が駆け寄ってくる。そうして私の顔をのぞき込む。目を光らせて頬を紅く染め祐希奈はこぼれる笑顔を口の端に留めながら私に言う。
「風花-ふうか-ちゃん、見てた見てた? 祐希奈が二本も倒したんだよ!」
「ごめん、見てなかった」
「もう。なんで見てないの! 次、次のはちゃんと観ててよ」
「分かったよ」
衛都楼水希と一緒にボウリングの球を転がす祐希奈を観ながら私は頬杖を突いた。祐希奈というより殆ど衛都楼水希が投げたも同然ではないだろうか。そんなツッコミを心の中でして私の鼻が少し膨らむのを感じた。
静玖の視線を感じて私は視線をそのままに言葉を探す。
「水希さんは誰にだって優しいから、きっと静玖さんが感じているものは、きっと私外にも向いてると思う。多分それは静玖さんにも同じように向いてると思う」
私の言葉に返事が無くて、会話が途切れて、何か場を繋ぐ話題を探す。
「そうだ、静玖さんの苗字って何?」
静玖は答えなかった。私を呼ぶ声がして投げる順番が回ってきた事を知る。私の投げた結果は平凡なものに終わって、苦笑いをする。衛都楼水希が拍手をしていた。静玖と擦れ違うときに彼女の横顔に言う。
「が、頑張って」
「楽勝だから」
静玖は何も言わずに歩いていくと、何食わぬ顔で球を転がし、そして当たり前の様に二回連続でガーターを出した。そうしてその長いお下げを手の甲で撫でて、眼鏡の赤いフレームを指先で上げる。その何事も無かったかの様な様子で椅子に座った彼女に私は
堪えきれずに言葉が口をついて出る。
「いや、ちょっと待ってよ。なんでそんなに済ました顔が出来るんだ」
「ガーターが一番エラい」
「エラいことにはなってるけどさ」
1ゲーム終わってみれば結果は当然のように衛都楼水希がスコア160という数字を叩き出して圧倒的に一位を取り、私が76点と今一つで、静玖と祐希奈が30点台で争う高度なゲームで終わった。
「祐希奈ちゃん疲れちゃったかな?」
もう3ゲームはしても余裕そうな衛都楼水希がそう言ったので、私達は移動することにした。巨大なゲームセンターに移る。ゲーム機の派手な音に混じって大きな歓声が聞こえた。随分と混み合っているようだった。
その原因はとあるゲームの様で長蛇の列となっている。卵型のポッドがありそこに入ってプレイするらしい。どうやら此処だけの限定らしく、内容としてはガンシューティングだ。ホラーゲームとのタイアップであるらしく、そういえば何処かで見たようなキャラクターがいた。
「二人プレイだけど……祐希奈ちゃんはちょっと無理かな」
「ちょっと怖いよぉ」
「じゃあ月夜ちゃん、あたしとやろ? 静玖は祐希奈ちゃん見ててね」
「え、ちょっと」
静玖の答えも待たずに衛都楼水希は私の手を取って列へと引っ張っていく。振り返ると静玖が祐希奈と手を繋いでUFOキャッチャーの方へ歩いていくのが見えた。私は少し安堵して衛都楼水希に問いかける。
「静玖さんってどんな人?」
「どんなかー、難しい質問だね」
「なんて言うか、静玖さんは水希さんの事を凄く大切に思っているみたいだけど」
「あたしも、静玖の事を大切に思ってるよ。なんていうかなぁ、あたしさ。静玖が世界の正しい方にいる気がするんだよね」
列が動いてそれに衛都楼水希が付いていったので私はそれに遅れないように、と慌てて足を動かす。衛都楼水希がシューティングゲームについての話を始めたので、衛都楼水希の言葉に返事をするタイミングを私は逃す。
彼女は言った。静玖は世界の正しい方にいる、と。私はずっと衛都楼水希の事をそう思っていた。けれども、衛都楼水希は静玖の事をそう思っているという。なら、衛都楼水希は私の思っている様な場所に居る、そんな感覚はないのだろうか。




