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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
1章・too hard to hard to me
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【1-4】

1-4


 祐希奈‐ゆきな‐が私に毅然と言った言葉を理解することが出来なかった。

 自分の役目、そう言って雷の方へ向いた祐希奈が彼女の細い腕で空中を撫でた。すると、空中を何処からか表れた緑色の粒子が舞って、それが祐希奈の手の動きに合わせて付いていく。祐希奈が何度か手を動かしていくと、光の粒子が徐々に何かの形に固定されていくようで私は目を凝らす。光の中で祐希奈はまるで舞っている様に見えた。

 祐希奈が指先を踊らせて光の粒子を何かの形へと変えていく。それは剣の形に見えた。片刃の大きな剣。祐希奈の前で光の粒子は剣を形どってそうして動きを止めた。祐希奈が深呼吸をして、そして剣の柄に当たるであろう箇所を掴みそれを思い切り振り抜く。


「イクス・ガンスノッドスエルツェ。解放」


 光の粒子が振り抜かれると、勢い良く割れたガラスの様に一気に周囲に散った。視界一杯に光の粒子が広がり、その視界の向こうに剣が見えた。そう剣。大振りの銀の片刃。祐希奈の身体には扱いきれないであろう程の大剣である。刃から柄まで覆う様に備え付けられた深緑色の分厚い装甲が噛ませてあり、柄と装甲の間には引き金が備え付けられていた。

 剣の重たさ故にか祐希奈はよろめいた。その重たい剣を引きずりながら祐希奈はゆっくりと歩こうとする。剣が引っかかって祐希奈は大きくよろめいて転ける。けれども彼女は起き上がり剣の柄を掴んだ。そうしてまた剣を引きずって歩き出す。


「何だよ、こんな」


 目の前で女の子が何も無い空間から剣を出現させた。異常な雷の内にカードが見えた。

 魔法。

 そんなもの見たくなんて無いもので。目を瞑って無視をしたくなるもので。そんなもの無いと言ってしまいたくて。それが存在している事を誰かに、誰からも否定して欲しくて。

 それを認めてしまう勇気は私には無かった。其処に踏み込んでしまえば、戻れなくなるのも分かっていた。世界はいつだって、見たくないものを孕んでいる。だから、其処から目を逸らして日常に戻って行きたかった。

 祐希奈が剣の重さに揺られてコンクリートに転ける。よろめきながら立ち上がり祐希奈はまた剣を引きずっていく。持ち上げることさえかなわない重たい剣を引きずる音がざらついたまま私の耳に突き刺さる。

 引き返してしまえ。関わろうとするなんて止めてしまえ。こんなことをして何の意味がある。何気ない顔をして世界にまた溶け込もうとしてしまえ。

 けれど、何故か私の方が異質であるようで。本当は彼女の方が正しくあるようで。まるで私が取り残されたようで。


「何で、何でそんなに必死になるんだ」


 絞り出す声、懇願めいた問いかけ。それに本当に私は答えて欲しかった。答えが欲しかった。私にはなれないその存在は、まるでいつだって世界の正解の様な存在は、どうやったらそうなれるのかを教えて欲しかった。何故、私がこんなにも異質な感覚を覚えてしまうのかを教えて欲しかった。


「魔法は強力。カードの暴走は何を引き起こすか分からないの。そうすれば、この町やあなたの大切な人だって危険にさらされる。だからあれは止めないと」

「そんなの。祐希奈ちゃんには関係ないじゃないか」


 私の言葉に祐希奈は寂しそうな顔をした。


「でも、そんなの悲しいよ」


 その言葉に私の何処かが疼いて。

 私は愛着もないこの街がどうなるとか、顔も知らない誰かが傷つくとか。そんなことどうでもよかった。こんな事に関わるなんて馬鹿だと思った。此処から逃げ出してしまったことを一体誰が責めるというのだろうか。


「でも」


 でも、今。

 でも、此処で。

 でも、その答えを。


「でも」


 私がそれを見過ごしたら。目の前の少女の事を見逃したら。今、彼女が必死に何かをやろうとしている事を見ない振りをしてしまったのなら。その欲求に従ってしまったのなら。

 それを悲しいと言われてしまうのだろうか。そうなのだろうか。

 私は祐希奈の手を取った。祐希奈が驚いて私へと振り返る。その円らな瞳をより一層丸くする。


「私がやる。教えて、どうすれば良いか」

「あなたを巻き込むわけにはいかないの」


 私はそんな言葉を無視して、祐希奈の手から剣を取り上げる。その重たい感触が両手に伝わってくる。近くで見るとその剣の細部にはビスとネジがあり、近代的な工業製品であると分かった。刃の根本から柄まで覆うように備え付けられた装甲部には大振りのハンドガンが組み込まれていた。その裏側の装甲部にはカード状の何かを差し込むような口があった。そして柄を握ったまま指が届くように四つの引き金が備え付けられている。

 不思議な剣だと思った。魔法なんて言葉より、兵器なんて言葉しか連想できなかった。

 祐希奈から取り上げた剣をゆっくりと持ち上げる。その重たい刀身を肩に担ぐようにして構えた。重量によろめいてしまいそうになって、私は足を踏ん張らせる。

 祐希奈が私の姿を見て問いかける。


「あなたには、守りたいものがあるの?」

「そんなんじゃない。そんなものあるわけがない」


 世界はいつだって私の前でそれは正しいかの様に振る舞った。それこそが正しさの象徴であるかのように振る舞った。それは異質の呑み込めない世界の、私にとっては傲慢な様な態度で。けれど、何故か目の前の少女は正しい場所にいるかの様に見えた。

 私は剣を持ち上げる。剣の重さが私の両腕にかかる。私を見つめる祐希奈に私は口の端を持ち上げてみせた。


「でもそんなの、悲しいんだろ」


 構えてみると剣は更に重たいように感じられた。材質は何で出来ているのだろうか。どうも刀身の内部に何かが仕込んであるような気がする。手元側に装着されている装甲の重量の所為で剣全体の重心がずれていて、どうにも感覚を掴むのが難しい。私は無理矢理に剣を構えたまま、祐希奈へと問いかける。


「祐希奈‐ゆきな‐ちゃんの言ってる封印ってのは、どうすればいい」

「あの落雷の中にあるカードに触れないといけないと。でも落雷に追い付くなんて出来ないの」


 あの雷光が落ちたあの一瞬に見えたカード。あれにこの剣で触れる必要があると言う。カードは恐らく落雷の中にあり、雷が落ちた瞬間に、その落ちた地点に出現している。

 落雷は雲の中に存在する氷の粒がぶつかり合って非常に大量の+と-の電荷が生じ、それらが空気中で引き合うことで放電する現象を指す。地表に落ちるまでには、雨雲から最初に弱い放電が生じ、地表からは反対の電荷を持つ放電が起きる。それに結合すると主放電、つまり落雷が生じるのだ。

 それが地表に落ちる速度はおおよそ250km/s前後。落雷が生じる予兆を見て構えたとしても、落雷地点までは予測できない。かといって落雷が生じてからでは決して追いつくことなど不可能だ。


「カードは雷の中にあるなら、落ちた瞬間の数秒を狙うしかない。けど」


 なら、カードの仕組みはどうなっているのだ。

 やはりあれは普通の落雷とは違う感じがするのだ。雷は確実に建造物に落ちているし、私の目の前であの雷は天へと再び昇っていったように見えた。

 そしてカードは雷の内部に存在する。あのカードがこの異常気象を起こしているなら。


「青天の霹靂って良く言ったもんだ」


 通常の雷とは思えない。雷の生じるメカニズムは晴天でも理論上は有り得る。だがあれは落雷というより雷が、まるで一個体で移動している様だった。あの雷の様なものは落雷ではなく電性のエネルギー体だと私は考える。カード自体が雷性のエネルギーを力場にて固定し高速で移動しているのではないかと。

 だがタネが割れただけである。

 あれに触れる為に追い付くというのは不可能であろう。落雷の様な挙動であって落雷ではないとは言え、そのスピードは雷と言っても過言ではない。それに空中から建物に落ちる、それを繰り返すのを追いかけようにもビルの間を自由に行き来する方法もない。

 なら、どうする。雷に追い付く方法を考えなくてはならない。それとも、このマンションの屋上にまた落ちてくるのを待つか。だが、いつか来るかも分からない落雷を待って解決するだろうか。


『多分、コード・パオラ。16番目、塔のカード』

『あれはカード。魔法術式を組み込んだ古代文明の遺産なの』


 祐希奈の言葉が私の何処かで反響する。16番目、塔のカードという言葉。

 塔のカードと言ったのはタロットカードを意味しての事だろうか。タロットカードの大アルカナ、つまり絵柄が描かれて意味を持つカードは全部で22枚。大アルカナの魔術師を1番と数えていくと塔のカードは16番目に位置している。16という数字と塔、そしてカード。なら、あのカードとかいうのはタロットカードを模しているのだろうか。


「待った」


 自然現象。電気。エネルギー体。魔法。古代文明。タロットカード。塔。16番目。アルカナ。雷。追いかける。高速。大アルカナ。落雷の挙動。建造物の頂上。確実に落ちる。この周辺のみの現象。天に昇る。カードの移動。ビル群。目の前の落雷。カード。引き起こされた現象。魔法術式。遺産。封印。22枚。特殊な挙動。断続的。高さ。行動法則。何らかの行動法則。

 其処にあるのは何らかの行動法則。提示された行動パターン。


 見えた。


「祐希奈ちゃん、カードに剣で触れて、それからどうすれば良い?」


 一筋の落雷がまた宙を裂いたのを目で追いかけたまま私は祐希奈に問いかける。手にした剣の重さが手に染みついてくる。落雷と共に生じた轟音が私の耳の鼓膜を震わせる。


「四つ目の引き金を引いてからカードに剣で触れるの。それだけで、その剣の機能で封印シークエンスに移行するの。

 でも、カードにどうやって追い付けば良いの?」

「その必要はない。あれは待ってれば此処にくる」

「え?」


 私は雷光の方へ人差し指を向ける。正面のビルにまたあの雷光が落ちたのが見えた。この周囲一帯のビル群の中で最も高いビルである。その周囲には、このマンションも含めて幾つものビルが群れる様に並び立つ。

 この一帯のみにあの雷光は落ちていた。


「この一帯の高い建物を順に22箇所ピックアップした。今、落ちた建物がこの一帯では一番高い。それを1としてビルの高さ順に22までの数字を振っていく。

 そうやって数字を振った22までの建物。あの雷は必ず落ちた建物から数えて16番目の建物に、次に落雷する。そういう行動法則がある。だから次に落ちるのは16番目の建物。全部で22だからその次は一周して9番目の建物に落ちる様になっている。今まで観察していたけど、その仮定通りだった。建物の番号も高さ順に割り振っていったもの通りで問題無いはず。

 そうして計算すれば。今の落雷の次はあの堀之内オフィスビルに落ちる。そして、その次はあの専門学校が入ってるアジュールビルに落ちる。そして9回目の落雷で間違いなく此処に落ちるんだ。そう仮定すれば、雷が次に落ちる場所もタイミングも掴んでる」

「なんでそんな事一瞬で」


 祐希奈の言葉を無視して私は剣の引き金に指をかける。


「だから、此処に来る」



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