【7枚目・皇帝の最善手-コード・ドーラ-】
7-1
浮瀬南陸斗-うきせな りくと-は自身の言葉に返した月夜風花-つや ふうか-の表情の意図を読み取れ無かった。大鎚の柄を握り直す。月夜風花の考えは読めないが、ヘイムスクリングラの偽書を渡すつもりは無いというのはハッキリしていると、浮瀬南陸斗は思う。
前回は魔法の性質を見抜かれ不意打ちを受けた。油断は出来ない、と気を引き締めなおし浮瀬南陸斗は地を蹴った。身体を空中へと浮かし落下の勢いを付けて大鎚を振り下ろす。月夜風花が跳び退くと、剣の引き金を引こうとした。大鎚が何もない地面を叩き土埃をあげる。その向こうに剣の切っ先を向けてくる月夜風花の姿を見てカードを発動させる。
「コード・ドーラ!」
浮瀬南陸斗の周囲で白い半透明の膜が彼女を中心にドーム状に広がっていく。その表面には煌びやかな光が幾つも散って弾けていた。彼女を中心に約半径2メートル程の僅かに可視出来る程の半透明のドーム状のバリアが展開された。
月夜風花が放った電撃が放射状に宙を這い、浮瀬南陸斗のバリアへと直撃する。その表面で弾かれるようにして電撃が防がれた。
「手持ちの火力じゃ無理か」
「そんなんじゃ、届かねぇんだよっ!」
バリアの展開を確認した月夜風花は距離を取ると、背にした廃ビルへと駆け込んでいく。浮瀬南陸斗はそれを睨みつけたまま足を止めた。
浮瀬南陸斗にとって屋内の戦闘は不利になる。その巨大な得物を振り回すには、狭すぎた。その誘いに乗るのは得策では無い。月夜風花は迷わずそれを選択してきた判断力には確かに渋い顔にもなる。
しかし、それよりも何よりも。月夜風花は祐希奈-ゆきな-を放置して廃ビルの中へ逃げ込んだ。浮瀬南陸斗がこの場で月夜風花を無視して祐希奈を狙うことを、全く考慮していない一手だ。月夜風花が祐希奈を見捨てたとも、その存在を忘れたとも浮瀬南陸斗には思えない。
彼女がその一手を打てた理由は一つだ。
「ふざけんなよ」
浮瀬南陸斗がこの戦闘において月夜風花を無視して祐希奈を攻撃するはずがない、と月夜風花が思っているからだ。そんな確信がなければ、祐希奈を一切考慮していない動きを取れるはずがない。
言うなれば善意を、浮瀬南陸斗の善意を根底にした月夜風花の一手にも苛ついたし、現にその通りに祐希奈を狙うことはせず月夜風花をのみ攻撃しようとしている自分にも苛ついた。浮瀬南陸斗は苦々しく声を吐き出す。自分の頬を強くひっぱたいた。
「乗ってやろうじゃねぇか」
【7枚目・皇帝の最善手-コード・ドーラ-】
轟音が轟いた。コンクリートの壁が砕け散り、細かな破片の散る音がする。浮瀬南陸斗が思い切り叩き込んだ横薙ぎの一撃を寸前で交わした月夜風花は、簡単に壁に空いた
大穴とヒビを見て肝を冷やす。浮瀬南陸斗に向かって一歩踏み込んで切っ先を突きつける。上半身を反らしそれを器用に躱す浮瀬南陸斗の足が鋭く真上へ蹴りとして繰り出される。
それを胸に受けて月夜風花はたじろいた。浮瀬南陸斗が身体を捻り大鎚を振り抜く。轟音が鼓膜を震わせる。月夜風花が剣の引き金を引いた。
「コード・ルートヴィッヒ!」
跳び退いた月夜風花の姿が消えて浮瀬南陸斗の視界の反対側に突然月夜風花の姿が出現する。それを無視して浮瀬南陸斗は月夜風花の跳んだ方向へ大鎚を振るった。何もない空間に大鎚を受け止められる。それに続けて月夜風花の姿が何もない空間から突如出現する。見えない筈の自分の居る位置に大鎚を振り下ろされて月夜風花は苦い表情に変わる。
「姿が消えてもそいつが瞬間移動するわけじゃねぇ」
「くっ!」
月夜風花は奥歯を食いしばる。
死刑囚のカードはもう何度も浮瀬南陸斗相手に使っている。一本調子ではもう通用しそうにない。だが正面から得物を打ち合うには不利であり、かと言って手持ちの魔法で攻撃性を有するのは塔のカードによる雷撃のみ。しかしそれでは浮瀬南陸斗の、あのバリアは突破出来ない。
どうする、と月夜風花は必死に頭を働かせた。
「ヘイムスクリングラの偽書を守る理由が何処にある!? 無関係だろうが、それが命をはる理由が何処から沸く!」
「私は陸斗さんと争ってでも争いたくないんだ!」
「意味わかんねぇんだよ!」
振り下ろされた大鎚を受け止めるも月夜風花はその勢いに壁に打ち付けられる。背中からの衝撃に月夜風花の喉の奥が悲鳴を鳴らす。
「てめぇに構ってる暇はねぇんだ!」
「でも、陸斗さんは此処に居る!」




