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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
3章・enjoying death,just like this
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【6-3】

6-3


 朝日が未だ昇りきっていない暗い早朝、空気は冷たく肺を刺す。私、月夜風花-つや ふうか-は家の近所にある廃棄された雑居ビルに来ていた。祐希奈-ゆきな-が何もない空間から剣を呼び出すと私に渡してくる。砂埃の溜まった雑居ビルの廊下で私が剣を構えるとスニーカーの裏で砂利の滑る音がした。


「多分、あの人。陸斗-りくと-さんにまた会う可能性がある」

「うん、あの魔法少女もカードを集めているみたいだから」

「私じゃ多分勝てない」


 彼女に言葉を届かせるには、きっと力がいる。

 浮瀬南陸斗-うきせな りくと-という女性について私はよく知らない。二度だけ、まるで偶然のように顔を合わせただけの存在だ。けれども、確信出来ることが一つあった。もし彼女に再び会ったとき、衝突は避けられない。彼女の狙いはあの時、祐希奈だった。他の魔法少女がカードを集めているのは別に構わない。カードの暴走の被害を私以外の誰かが未然に防いでくれることは歓迎すべきだし、祐希奈が言っていた様に全てのカードが一人の手元に集まることを妨害できればいい。だが、あの時浮瀬南陸斗は祐希奈を、というよりも祐希奈が持っているというヘイムスクリングラの偽書なるものを強奪しようとしていた。


「祐希奈ちゃん。ヘイムスクリングラの偽書って何?」

「祐希奈もよく分からないの。でも、逸賀灼-いちか あらた-って人にしか渡しちゃいけないって言われてるから、だから祐希奈はそれで」

「どんなもの?」


 祐希奈が握った手を私に突き出してくる。手のひらを開くとmicroSDカードが一枚あった。ヘイムスクリングラの偽書という名前から厚手の本を連想していたのだが、全く違うものだった。何の変哲も無い64GBのmicroSDカードである。

 何のデータが入っているのだろうか。それこそがヘイムスクリングラの偽書というものなのだろうか。


「陸斗さんが祐希奈ちゃんの持っているヘイムスクリングラの偽書を力付くで奪おうとする位欲しがっていて、祐希奈ちゃんはそれを渡すわけにはいかなくて」

「うん」

「だから練習する。この剣をもっとちゃんと扱えるように。もっとちゃんと彼女と話が出来るように」


 手首を回して剣を構え直す。重たい刃に、柄を握る手が少し遅れる。

 浮瀬南陸斗は強敵だ。今までにない、自分と同じ生きている人間だった。思考するし知能がある。推測や予測をしてくる。記憶し応用してくる。それは今までの暴走したカードとは根本的に違うことだ。

 それに。彼女は魔法少女だった。カードを有しそれを利用した魔法発動を行ってきた。故に彼女の魔法は1パターンではない。少なくともあの時は二枚のカードがあった。

 空中に幻影を投影する「コード・リヒャルト」のカード。そしてもう一枚は「コード・ドーラ」、最後に見せたバリアの魔法。そして、持っているカードがあの二枚だけとは限らない。手の内もその性質も、全容が掴めない。

 私の持っている魔法で彼女に対抗できるだろうか。同じ手は二度も通じないだろう。私が持っているカードは「塔」「節制」「死刑囚」、そして一つ目帽子から手に入れた「愚者」。「塔」のカードは雷撃の発生、「死刑囚」のカードは身代わりの出現とその間に姿を消すという効果、「節制」のカードはは二つの魔法の効果を混ぜ合わせ同時に発動させるというもの、そして「愚者」のカード。どうやら「愚者」は物質の状態変化を強制的に引き起こすというものらしい。膨大な熱量が発生しているようには思えないが不思議である。

 手持ちの魔法では浮瀬南陸斗の持っている魔法全てに対抗できるとは思えない。

 しかし、浮瀬南陸斗がその攻撃をあの大鎚に頼っている以上、それに打ち負けないことが最優先である、と私は考える。


「風花ちゃんは剣道とかやってたの?」

「田舎ってのは往々にして変な武術が残っているもんだよ」


 構えた剣をゆっくりと振り下ろし一歩踏み込みながら剣を回しながら持ち上げる。かつて教わった剣術の型を思い出す。私の村の巫女の儀式で使うのはあくまで舞としての演舞だけである筈なのに、祖父は妙に力が入っていて私にひたすら剣術を叩き込んだ。まさかそれが本当に役に立つときが来るとは思ってもいなかった。木刀の時とは勿論勝手は違うが、それでも何もないよりは幾ばくかマシだろう。


「その逸賀灼ってのは何者なんだ」


 浮瀬南陸斗の言葉を思い出す。彼女は逸賀という単語を口にした。文脈から察するに逸賀というのも魔法少女の筈だった。誰か個人を指している様子から逸賀というのは苗字であるとまず考えていいだろう。

 「逸賀」という苗字は、そこまでありふれたものであるようには思えない。魔法という特殊な一件に絡んで来ている以上、恐らく同一人物であろう。

 私の問いに祐希奈が顔を伏せる。


「分からないの。でもあの浮瀬南陸斗って人よりはきっとずっと良い」


 祐希奈の言葉を聞き流して私は剣を振り下ろす。何も捉えることはなく空を斬る鈍い音だけが誰も居ない鉄筋コンクリートの建物の中で反響した。両腕が重たくなってきた頃、私は膝に手を付いて肩で荒く息を吐き出す。

 ふと見ると、祐希奈がビルの廊下の窓から外を眺めていた。


「風花ちゃん。あれ、なんだと思う?」


 祐希奈がそう言って指さした先を私も眺める。廃ビルの敷地内にそれは居た。

 体高およそ2メートル程。四足の獣の様な形状で尻尾と思わしきものが伸びている。肩は大きく盛り上がり尻尾の反対には顔があった。その姿に私は虎を連想した。

 体表は鈍い鋼色をしており、無機物の様に見える。金属で出来た虎の様なものは、ゆっくりとその四肢で歩き回っていた。


「カード?」


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