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魔法少女は死んだ  作者: 茶竹抹茶竹
3章・enjoying death,just like this
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【6-2】

6-2


 月夜沙也花-つや さやか-には変わった趣味がある。逸賀灼-いちか あらた-が今回、彼女と約束を取り付けたのはその為であった。

 テーブルの上に出したタブレットPCには週刊誌のページをPDFファイル化したものが表示されていた。


「でも、灼って巡査でしょ? 交番勤務のお巡りさんが、刑事さんみたいに調べ物するわけ?」

「まぁ、色々とあるんです」


 周囲の人間に「ガイソウ」に所属していると言えるわけもなく、逸賀灼は交番勤務という建前になっている。

 逸賀灼の返事に月夜沙也花は深く追求せず、タブレットPCの画面に視線を落とした。そこにあったのは「ひまわり」代表の上幹-かみもとき-代表が脅迫された事件について書き立てた週刊誌の記事があった。

 月夜沙也花には変わった趣味がある。事件マニアとでも言おうか、彼女は様々な事件や事故に精通している。趣味のミステリー小説の為の資料集めから派生したらしく、その収集力はかなりのものである。逸賀灼が頼ったのは、彼女のその情報量であった。


「事の発端は山盤寺-さんばんじ-医師という医師の都内のビルからの飛び降り自殺。その遺留品から上幹代表への脅迫状が見つかったの」


 逸賀灼は頷く。ファシロペウムの存在を世間に公表する。それを脅迫のネタに山盤寺医師は1000万を要求した。山盤寺医師の自殺によって発覚したこの一件は、それより以前に脅迫されていたにも関わらず上幹-かみもとき-代表は警察や関係各所への相談を行っていなかった。

 またファシロペウムという名称の付けられたソレが何であるかも不明であった。

 月夜沙也花が話した事件の概要については逸賀灼の把握していた内容からはさほど相違はなかった。追加の新情報としては山盤寺医師が居たのが中野区の総合病院であることくらいである。


「ファシロペウムに関しては全くもって何を指しているか不明よ」

「何となく響きから化学物質を連想しますが」

「実際、ファシロペウムを薬物の類と考えて、児童養護の子供と結び付ける様な推測をする週刊誌もあったわ。でもそんな事実は報道されてないみたいね」


 ファシロペウムなるものの詳細は分からない。だが、それで上幹代表を脅迫出来ると山盤寺医師は確信していた筈だ。それだけ重大な物。そして児童養護施設の代表が関わっていそうな物。

 そして、と逸賀灼は考え込む。

 何故、山盤寺医師医師は自殺したのだ。脅迫犯がその途中で自殺などするだろうか。金に困って脅迫と手段を取ったが、幸先怪しく断念して自殺した。どうも自分でもしっくりこない考えである。


「脅迫事件の犯人の山盤寺医師については何か分かりますか」

「脅迫事件の犯人、でも実態としては脅迫の事実も微妙なところだし、自殺もしてるわ。上幹代表がこの一件から逃げていた事もあって、山盤寺医師についての報道はあまり無いのよね。ただ」

「ただ?」

「中野区の総合病院でネット検索してみたら、マスコミに取り上げられたことがあるみたいね。山盤寺医師も」


 そういって月夜沙也花が見せてきたものは脅迫事件とは全く関係無いものであった。大手新聞社の紙面らしく「緊急患者受け入れ拒否」の白抜きの文字が大きく載っていた。六年前、当時9歳の少女が救急車によって搬送された先の中野区の総合病院で死亡した。少女は世田谷区の経堂駅近くの繁華街で倒れているところを通行人に発見され、その通行人によって119番通報された。通報があったのは深夜2時15分頃であり、救急隊は都内の14件の病院に受け入れを要請したが、計24回の受け入れ拒否を受けた。少女は約1時間後に中野区の総合病院に搬送されたが、様態悪化で心肺停止となり即日死亡。この一件は大きな波紋を呼び連日のように報道された。


「この時、この少女を受け入れて担当したのが中野総合病院の山盤寺医師よ」


 病院の救急車受け入れ拒否。現在、国内の医療機関は緊急患者の受け入れ困難といった状況に直面している。救急搬送人員は増加傾向にあり、数年連続で前年比を上回り続けている。それに対して病床、医師、また三次救急医療機関の絶対数が不足しており、受け入れ困難の要因となっている。そしてもう一つの要因に、所謂訴訟リスクが存在しているのだ。

 専門外の医師が緊急患者の治療に当たり、死亡した場合。その医師の責任が問われる可能性がある。現に埼玉県で起きたそのような死亡事故の際に、その医師の過失・注意義務違反が高等裁判所で認められた例があるのだ。

 中野総合病院が受け入れた緊急患者が死亡した、この一件も世間の関心を引いた。その時矢面に立ったのが、山盤寺医師である。

 山盤寺医師は緊急患者の受け入れが困難である現状と、専門外分野の治療にあたらざるを得なかった緊急性を訴えた。


「医師個人が表に出るなんて事、多分彼は正義感が強かったんでしょうね」


 月夜沙也花はそんな言葉を呟いて、グラスを傾けた。


「脅迫事件と関係があるわけではないけど、山盤寺医師についての情報の一つね。この一件も途中でぱったりと報道が途絶えているしこれ以上の情報はないわ」

「途絶えているんですか?」


 逸賀灼は首を傾げる。


「例えば少女の遺族が病院側を訴えたとかないんですか」

「無いわね。内々で和解したのかもしれないけど、少女についての情報は無いわ。初期の報道でも名前も年齢も出なかったし、死因は心肺停止だけど詳しい原因も」


 少女は深夜の繁華街で倒れているのを発見された。状況からして家出か何かだろうか。遺族について一切の情報も無いのも何となく奇妙だ。何処のマスコミも欲しいネタに違いないのに。

 報道が途絶えているのはそのせいだろうか。追加の情報が一切無いために、それ以上にセンセーショナルな別の事件に取って代わられたか。遺族と病院側が内々に和解していたとするとそれ以上の報道はイメージが悪い。

 山盤寺医師の自殺はこの一件と関連性があるのだろうか。

 思考にふけっていた逸賀灼は、月夜沙也花に見つめられている事に気が付いて瞬きをする。急に気恥ずかしくなって慌ててグラスに口を付けた。


「分かりました。ありがとうございます」


 資料データのコピーが入ったUSBを貰いながら逸賀灼はお礼を言う。脅迫事件についての資料は増えたが、その本質に迫れそうな情報は無かった。別のアプローチが必要かもしれない。

 スーツの袖口に手をやって、LUKIAの腕時計に目をやると9時30分を回っていた。逸賀灼のその仕草を見て、月夜沙也花はグラスの残りを空けて言う。


「そろそろ帰りましょうか。私も妹を心配させちゃうし」

「そういえば、高校進学の為に上京してきているんですよね。妹さん」


 逸賀灼は、そんな話を聞いたのを思い出す。月夜沙也花は新潟県の出身で大学進学の為に上京してきている。彼女の妹も都内の高校に進学し、その為に月夜沙也花の元に下宿しているらしい。


「会ったこと無かったかしら。今度紹介するわ」

「北代々木高でしたっけ。どんな子なんですか」

「なんて言うか、びっくりさせられる子よ」


 月夜沙也花の言葉に逸賀灼は会ったこともない彼女の妹について想像を広げる。月夜沙也花を驚かすとは、それは一体どういう意味なのだろうか。伝票を手に取った逸賀灼に月夜沙也花は、ふと思い出した様に言う。


「そうだ、それとね。中野の総合病院で死亡したその女の子なんだけど、水希-みずき-って名前だったらしいわ」


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